Netpress 第2278号 公正取引委員会が取り組み強化中 「優越的地位の濫用」のリスクと留意点を確認する

Point
1.公正取引委員会は、独占禁止法や下請法上問題となる事案について、事業者名の公表を伴う命令、警告、勧告など、これまで以上に厳正な法執行を行う方針を示しています。
2.独占禁止法上の「優越的地位の濫用」と認められた場合、公正取引委員会から命令を受けるだけでなく、損害賠償の可能性やレピュテーションリスクもあります。


梅田総合法律事務所
弁護士 今田 晋一
弁護士 岡本 志保子


1.はじめに

昨年末、公正取引委員会は、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関する緊急調査の結果を公表し、取引価格の据え置きによる優越的地位の濫用に該当するおそれがある行為が認められた発注者4,030社に具体的な懸念事項を示した注意喚起文書を送付するとともに、13社の事業者名を公表しました。


https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/dec/221227_kinkyuchosakekka.html/

2.優越的地位の濫用とは

優越的地位の濫用とは、(1)自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、(2)正常な商慣習に照らして不当に、(3)次のいずれかに該当する行為をすることです(独占禁止法2条9項5号)。



継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。②において同じ)に対して、当該取引に係る商品または役務以外の商品または役務を購入させること(購入・利用強制)

継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(経済上の利益提供)

取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒むこと(受領拒否)

取引の相手方から取引に係る商品を受領した後、当該商品を当該取引の相手方に引き取らせること(返品)

取引の相手方に対して取引の対価の支払いを遅らせ、もしくはその額を減じること(支払遅延、減額)

取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、もしくは変更し、または取引を実施すること(取引の対価の一方的決定、やり直しの要請等)


3.優越的地位の濫用が認められた場合のリスク

(1)排除措置命令・課徴金納付命令

優越的地位の濫用は、独占禁止法における「不公正な取引方法」の一つとして禁止されており、公正取引委員会から排除措置命令や課徴金納付命令を受ける可能性があります。


(2)社名の公表

公正取引委員会から排除措置命令や課徴金納付命令を受けると、そのことが一般に公表されることになっています。また、これらの命令に至らなくても、社名等を公表されることがあります。


(3)民事上の差止請求・損害賠償請求

取引の相手方から、民事上の差止請求や損害賠償請求をされる可能性があります。優越的地位の濫用を行った事業者は、故意や過失がないことを理由に、損害賠償義務を免れることができません(無過失責任)。


(4)下請法による規制

下請法が適用される取引においては、下請事業者の利益を保護するために、優越的地位の濫用規制を補完する法律として、下請法が適用されます。

4.優越的地位の濫用の具体例

(1)購入・利用強制(2①の例)

A社は、毎年開催している「大感謝祭」を実施するにあたり、自社で設定した販売目標を達成するため、仕入先であるB社やその従業員に対して、大感謝祭で取り扱う商品を買うよう要請した。


B社やその従業員の多くは、B社がA社との取引を継続して行っている立場上、A社の要請に応じざるを得ない状況にあったため、やむなく商品を買っていた。


(2)経済上の利益提供(2②の例)

A社は、自社の店舗の新規オープンに際し、仕入先であるB社に対し、B社から納入される商品以外のものについても、B社の従業員に陳列や補充、接客などのオープン作業を行うよう求め、B社の従業員に無償で手伝わせた。


B社は、A社との取引を継続して行っている立場上、A社の要請に応じざるを得ず、A社との契約上の対価に反映されていない業務負担が生じた。


(3)返品(2④の例)

A社は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて売れ残った商品について、当該商品を納入したB社の責めに帰すべき事由がなく、B社との合意によって返品の条件を定めていたわけでもないのに、返品によってB社が被る損失を負担することなく、当該売れ残り商品をB社に返品した。


B社は、自ら売れ残り商品の返品を受けたい旨を申し出たものではないが、大口の納入先であるA社の要請を断ることができず、A社からの返品に応じた。


(4)取引価格の据え置き(2⑥の例)

A社は、納入業者であるB社から、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇分を取引価格に反映するよう求められたが、価格交渉の場において明示的に協議することなく、従来通りに取引価格を据え置くこととした。


B社は、A社に対し、コストの上昇分を取引価格に転嫁しない理由の説明を求めたが、A社は、書面や電子メール等で理由を回答することなく、取引価格を据え置いた。

5.最後に

現在、労務費、原材料費、エネルギーコスト等の上昇分を適切に取引価格に転嫁することが政府全体の施策として推進されています。


そうしたなかで、公正取引委員会は、価格転嫁の円滑化に向けたさらなる調査を行うとともに、独占禁止法や下請法上問題となる事案については、事業者名の公表を伴う命令、警告、勧告など、これまで以上に厳正な法執行を行うとしています。


自社が取引先に対して優越的地位にある場合には、取引事業者との十分な協議によりコスト上昇分を適切に取引価格に転嫁するとともに、優越的地位の濫用行為に及んでいないか、いま一度、ご確認ください。



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