Netpress 第2268号 厳しい規制に注意! 取締役の公私混同が招く「利益相反取引」の法律知識

Point
1.特に同族会社などでは、取締役が自覚のないまま会社と利益の対立する取引をしてしまうことがあります。
2.会社法が規制する「利益相反取引」の内容と、中小企業における具体例などについて解説します。


クラース東京法律事務所
代表弁護士 大澤 美穂子


1.「利益相反取引」とは

「利益相反取引」とは、会社と取締役との間の利益が対立する取引のことです。会社法では、次の2つを利益相反取引に該当するものとして規制しています。



取締役自身が、自己または第三者のために会社と取引をすること(「直接取引」といいます)

会社が取締役の債務を保証するなど、会社が取締役以外の第三者との間で、会社と取締役との利益が相反する取引をすること(「間接取引」といいます)


すなわち、取締役が、会社と取締役との間の利益が対立する取引を行う場合、その取締役自身が会社を代表すると、取締役自身の利益を確保するために会社をいわば“食い物”にして、会社の利益を害するおそれがあります。


また、他の取締役が会社を代表するときも、取締役間の仲間意識のために会社の利益が十分に検討されず、やはり会社の利益が害されるおそれがあります。


このように、類型的に会社の利益が害されるおそれのある取引を「利益相反取引」に該当するものとして、法律は手続上の規制をかけています。

2.中小企業の利益相反取引の具体例

中小企業では、取締役が利益相反取引に該当し得る取引をすることが少なくありません。過去に行った取引や新規に行う取引が以下に該当しないか、確認してみてください。


(1)直接取引の例

●取締役自身と会社との間の直接取引


取締役が会社から製品その他財産を譲り受け、または譲り渡す場合(ただし、取締役から会社に対する無償贈与は除きます)

取締役が会社から金銭の貸付けを受け、または貸付けを行う場合

なお、直接取引が、同時に会社にとって重要な財産の譲渡・譲受けや多額の借財に該当する場合は、取締役会設置会社では利益相反取引の承認に加えて、重要な財産の処分等のための取締役会決議が必要になります。

会社が取締役の債務を免除する場合

会社の使用人兼取締役に対し、一般的な給与体系に基づかないで個別に会社が使用人給与分を支払う場合

会社が取締役に対して約束手形を振り出すこと

手形は単なる決済手段のみならず、通常の取引よりも厳格な支払義務を負わせるという意味で、会社に不利益を負わせる可能性があるため、利益相反取引となります。


●取締役が第三者を代表(代理)して会社と行う直接取引


会社間の取引にあたり、双方の会社の代表取締役を兼任している場合

いずれの会社も、利益相反取引として承認が必要です。

兼任取締役が、一方会社(甲)の代表取締役であり、他方会社(乙)の代表ではなく平取締役にすぎない場合

利益相反取引として、乙社の承認が必要です(甲社の承認は不要)。ただし、甲社が乙社の100%子会社であれば両社間に利益対立はないため、いずれの会社の承認も不要となります。


(2)間接取引の例

取締役個人の債務について、当該取締役が会社を代表して会社として債務を引き受ける場合、または連帯保証する場合

甲社・乙社両方の代表取締役を兼任する者が、乙社の債務について甲社を代表して保証する場合

甲社(代表取締役A)が、Aが株式を100%保有する乙社(代表取締役B)と取引を行う場合

Aは乙社を代理(代表)していないため直接取引にはなりませんが、実質的に乙社の利益のための取引として間接取引に該当します。この場合、甲社の承認が必要です。


3.利益相反取引を行う際に必要な手続き

(1)重要事実の開示と会社の事前承認

取締役が利益相反取引をしようとする場合、当該取引に関する重要な事実を開示して、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の事前承認を受ける必要があります。当該承認決議は普通決議です。会社が間接取引をしようとする場合も、同様に承認決議が必要となります。


事前開示が必要とされる「重要な事実」とは、たとえば取引の種類、目的物、数量、価格、履行期、取引期間などが考えられます。間接取引の場合は取引相手、保証契約の場合には主債務者の返済能力など、会社が当該利益相反取引を承認するかどうかを判断できる程度の情報が必要です。


反復継続的に行われる取引については、必ずしも個々の取引ごとの承認ではなく、ある程度包括的な承認でも許されます。


(2)会社の承認を受けるべき者

直接取引の場合は、取引の相手方である取締役、間接取引の場合は、会社を代表して取引をしようとする取締役(代表取締役)です。


(3)会社の事後承認の可否

利益相反取引における会社の承認は、原則的には事前の承認が必要ですが、実務上は、利益相反取引後の事後承認であっても、あたかも無権代理行為(代理権をもたない者が、代理人と称して行う法律行為)の追認のように遡って有効と考えてよいでしょう。


ただし、事前承認を受けていなかったことが、取締役の任務懈怠や過失の有無の判断において不利に働くことがあり得ると考えられますので、やはり、可能な限り事前の承認を受けるべきでしょう。


(4)取締役会への事後の報告

取締役会設置会社の場合、利益相反取引を行った取締役は、取引終了後に遅滞なく当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。当該報告は、事前承認の有無にかかわらず行う必要があります。


報告をすべき者は、直接取引の場合は取引相手の取締役、間接取引の場合は会社を代表した者と考えられます。



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