Netpress 第2267号 これだけは押さえておきたい カーボン・ニュートラル戦略と排出量取引の活用

Point
1.設備投資により削減したCO2(二酸化炭素)の排出量を他社に販売することで、その投資負担額を軽減するのが排出量取引です。
2.ここでは、カーボン・ニュートラル(CN)戦略の概要と排出量取引の活用について解説します。


一般社団法人 中部産業連盟
カーボン・ニュートラル支援事業責任者
エネルギー管理士 梶川 達也



1.カーボン・ニュートラル(CN)戦略

2050年に温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするというカーボン・ニュートラル(CN)を実現するために企業が採るべき戦略には、次の5種類のアプローチがあります。


【アプローチ1】 : 温室効果ガス排出量の算定方法の選択

【アプローチ2】 : 省エネルギー(運用改善)

【アプローチ3】 : 省エネルギー(設備投資+クレジット販売)

【アプローチ4】 : 再生可能エネルギーの導入・利用

【アプローチ5】 : イノベーション(攻めのCN)


アプローチ1は、CO2排出量の算定方法を選ぶことです。自社敷地内の排出量なのか、自社の上流(サプライヤーなど)と下流(顧客など)も含むのか、それとも製品の排出量なのかを選択します。


アプローチ2から4までは、いわば「守りのCN」です。どちらかというと、社会のCNの動きを脅威と考え、そのリスクを下げるための受け身の対応が中心となります。


アプローチ2と3は、ともに省エネルギーによるCO2削減です。アプローチ2は、設備投資を伴わない運用改善、アプローチ3は、設備投資による省エネルギーです。アプローチ4は、再生可能エネルギーの導入による削減です。ここで排出量取引と関係が深いのは、アプローチ3の省エネ設備投資と、アプローチ4の再生可能エネルギー導入です。


最後のアプローチ5は、いわば「攻めのCN」です。材料や工程の大幅な変更、新商品・サービスの提供による大幅なCO2削減とともに、売上の向上も狙います。


2050年にCNを実現するためには、現在の「守りのCN」が中心の状態から、「攻めのCN」のウエートをさらに高めていく必要があります。

2.排出量取引(クレジット販売)とは

排出量取引(クレジット販売)とは、設備投資などによりCO2を削減した場合に、他社にその削減分を販売することです。他社は、その購入した削減分を購入前の排出量から控除し、全体の排出量を削減することができます。


この排出量取引の仕組みについて簡素化して説明します。次ページ図のとおり、自社の現在のCO2排出量は2,500t(トン)/年です。省エネ診断を受けた結果、コンプレッサーの更新によりCO2が大幅に削減できることがわかりました。


エア漏れ対策、吐出圧力の減圧、ループ配管など運用改善はすでに実施していたこともあり、設備投資を行いインバータ式のコンプレッサーに更新することにしました。その導入により、200t/年を削減し、CO2排出量を2,300tにすることができました。


この設備投資は、J-クレジット(温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度)で認められていたので、自社は、第三者である検証機関から削減前と削減後のCO2排出量の検証を受け、認証を取得しています。


そして、この削減排出量のうち、100tを他社に販売する排出量取引を行いました(この販売分の排出量を「クレジット」といいます)。




この取引により、販売先の他社は、購入分の100tを購入前の排出量3,000tから控除して、2,900tにできました。たとえば、1t当たり3,000円とすると、100tは30万円となり、その金額分の投資額を減らすことができます。


J-クレジットでは、インバータ式コンプレッサー導入、ヒートポンプの導入、アモルファス型変圧器の導入といった設備投資による省エネのほか、再生可能エネルギー導入、森林経営活動によるCO2吸収といった方法も可能です。


J-クレジットによる排出量削減は、「ベースライン&クレジット」という考え方によるものです。


ベースラインとは、設備更新がないまま従来通りの設備を使い続けたときの見込み排出量です。クレジットとは、そのベースラインから、設備更新後の実際の排出量を控除した排出削減量です。たとえば、ベースラインが500tで、設備更新後の排出量が300tとすると、クレジットは200tになります。


これに対し、「非化石証書」という制度もあります。これは、Jクレジットなどのクレジットとは異なり、再生可能エネルギーなど非化石のエネルギー源で作ったエネルギーの環境価値が認証されたものです。J-クレジットと同じように、全体のCO2排出量から控除することができます。また、非化石証書と同じような制度として、「グリーン電力(熱)証書」もあります(下表参照)。



3.排出量取引の活用法

排出量取引を活用するケースをまとめると、次のようになります。


(1) 設備投資をして排出量を削減したいが、投資額の負担を少しでも下げたい場合


(2) 設備投資をしたばかりで、排出量を削減する余地がなく、排出量を他社から購入したい場合


(3) 再生可能エネルギーの環境価値を購入することで、排出量を削減したい場合


(4) 近い将来、日本において排出枠で割り当てられた排出量取引制度が始まるのに備えて、排出量取引の知見を積みたい場合


中部産業連盟では、排出量取引の活用法についてアドバイスを行っています。排出量取引を使ってみましょう。



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