Netpress 第2257号 「4つのリズム」を使いこなす! 今日からできる「睡眠の質」の高め方
1.人の睡眠は働く環境や働き方の影響を受けやすく、睡眠のトラブルを抱えている人が少なくありません。
2.夜に眠気が強まり、朝はスッキリ目覚められるように、睡眠の質を高めるためのポイントを紹介します。
ユークロニア株式会社
作業療法士 菅原 洋平
1.「睡眠の質」とは
「就寝前にあくびが出るほどの眠気がありますか?」
ビジネスパーソンの睡眠の質をチェックするために、筆者はまずこの質問をしています。
人間は本来、「眠りたい」という睡眠欲求に基づいて眠るはずですが、多くのビジネスパーソンは、「眠る時間だから寝る」という感覚をもっています。眠気がないのに眠る時間だからとベッドに入れば、当然寝つけないこともあります。
反対に、眠気を感じていないものの、ベッドに入ればあっという間に寝落ちする、という場合は、慢性的な睡眠不足状態であることがうかがえます。
どちらも睡眠のトラブルを招いてしまうので、就寝前に眠くなる脳と体のリズムをつくっていく必要があります。
質のよい睡眠の条件は、睡眠中の血圧が低く、心拍数、呼吸数の値が低いことです。本来、睡眠中は、こうした低代謝状態になるはずなのですが、すべてが高い高代謝状態で眠ってしまうこともあります。
高代謝状態では、寝つけたとしても途中で目を覚ましやすく、再入眠がしにくいうえに、目覚めた後に疲れが残ってしまいます。起床時の脈拍を測ると、睡眠の質が悪いときには高い値を示します。
2.睡眠の質の高め方
夜に眠気が高まり、睡眠中の体が低代謝状態になるようにするために、「メラトニンリズム」「深部体温リズム」「睡眠・覚醒リズム」「自律神経と代謝のリズム」という4つのリズムを使いこなしてみましょう。
(1)メラトニンリズム
睡眠ホルモンであるメラトニンには、睡眠と覚醒を調整する作用があります。メラトニンが増加すると眠くなり、少なくなると目が覚めます。
そして、このメラトニンの増減には、光が大きく関わっています。網膜で光を感知すると、メラトニンの分泌が抑制されます。そして、その約16時間後に再び分泌が増える仕組みになっています。
朝にメラトニンを減らすには、カーテンをあけ、窓際1メートルくらいの位置で、10分程度光を浴びることが重要となります。もし、窓から顔を出したり、ベランダに出たりできるのであれば、1分程度の時間で十分です。
逆に、夜は就寝3時間前を目安に、室内の照明の照度を落として暗い環境をつくると、メラトニンが増えます。
入浴時に浴室の照明を消して脱衣所の照明だけで入浴したり、風呂上がりにストレッチや音楽鑑賞をする際には部屋を暗くしたりするなど、日常生活の妨げにならない範囲で就寝前に暗い環境をつくるとよいでしょう。
(2)深部体温リズム
内臓の温度である深部体温は、高いほど体は活発になり、低いほど落ち着きます。
深部体温には、起床11時間後に最高になり、22時間後に最低になるリズムがあります。
最高体温の時間帯に、一定の強度の運動を高頻度で行うことができれば体温がより高まり、眠り始めの時間帯に向けて急速に体温が低下するリズムをつくれます。
これによって強い眠気がつくられ、眠り始めの睡眠の質が高まります。運動の強度の目安は、スクワット10回程度です。運動頻度は最低週4日以上で、頻度が高いほどリズムが整いやすくなります。
(3)睡眠・覚醒リズム
メラトニンなどの眠りを引き起こす睡眠物質によって、起床8時間後と22時間後、1日に2回眠くなるリズムがあります。昼食後の眠気は、このリズムによってもたらされます。
睡眠・覚醒リズムを整えるには、「絶対に眠っている時間帯(睡眠コアタイム)」を5時間以上つくることが大切です。
たとえば、平日は0時から朝の7時まで眠っている人が、休前日の夜に3時から昼の11時まで1時間多く眠った場合、その先1週間の睡眠コアタイムは3時から7時の4時間になります。
コアタイムが短いほど、昼間に眠くなりやすく、夜の睡眠の質は低下します。コアタイムではない時間帯に寝だめをしても、昼間の眠気の解消にはつながりません。コアタイムそのものを増やすことを優先しましょう。
また、目覚めると、脳脊髄液の中に睡眠物質が貯まっていき、それが貯まるほどその後の睡眠の質が高まる仕組みがあり、これを「睡眠圧」といいます。寝る前にソファーなどで「うたた寝」をすると、この睡眠圧が失われてしまいます。睡眠圧が失われると、その後眠り直しても、良質な睡眠は得られなくなります。
(4)自律神経と代謝のリズム
自律神経と代謝にも、1日のリズムがあります。
代謝は日中に高まり、夜になると低下して、低代謝状態になると眠気が強まります。寝る前に低代謝状態にするために手軽に使えるのが、ホットアイマスクです。濡れタオルを電子レンジで適温に加熱し、目の周りを温めると、心拍数が低下します。これだけで、寝つきがよくなり、途中で目覚めにくくなる効果が期待できます。
また、昼間の活動時間帯に高代謝状態にし過ぎないようにすることも大切です。
実は、睡眠の質が低い人には、パソコンの作業中、息を止めたり呼吸が浅くなったりする傾向があります。これを「スクリーン無呼吸症候群」といいます。
息が止まると、その都度、血圧や心拍数が高まって高代謝状態になるので、夜になっても代謝が低下せず、眠気を感じにくくなってしまいます。
パソコンの作業中は息を止めないよう意識するとともに、意図的に画面から視線を外したり、一定時間で作業を区切り、10秒程度立ち上がって歩いたりして、過度な高代謝を防ぐようにしましょう。
また、自律神経のリズムが崩れているときは、夜中に目が覚めやすくなります。夜中に目覚めた場合、時計を見るのは控えましょう。時計を見ると、脳がその時間に目覚める準備をするように学習して、さらに自律神経のリズムが崩れてしまうからです。
【「睡眠の質」を向上させる行動チェックリスト】 | |
睡眠のリズムは、回数の多い生活習慣に同調するので、睡眠改善の行動は、週4日以上行うのがポイントです。睡眠は2週間単位で整っていきます。下に挙げた行動を1つ以上選び、週4日以上実践しましょう。 そうすれば、夜に眠気が強まり、朝はスッキリ目覚める効果が期待できます。 | |
□ | 目覚めたら朝日を浴びる |
□ | 就寝3時間前から暗い環境を用意する |
□ | 起床11時間後にスクワット10回程度の運動をする |
□ | 睡眠のコアタイムを増やす |
□ | 本睡眠の直前には眠らない |
□ | 就寝前にホットアイマスクをする |
□ | 昼間の作業中に息を止めない |
□ | 意識的に作業を区切って、余計な心拍の上昇を避ける |
□ | 夜中に目覚めても時計を見ない |
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