開発担当者が語る! 時流をつかみ、サステナブル経営へ──今活用すべき「SDGs研修パッケージ」の開発秘話

さまざまな業界のビジネスシーンに変革を巻き起こしているSDGs。いまや事業成長には不可欠になりつつあるこの世界的潮流を、自社にどう取り込めばいいのか……。多くの企業が荒波にさらされる中、その羅針盤になりえるのが、3者共同で立ち上げられた研修プログラム「SDGs研修パッケージ」だ。各担当者にその想いを聞いた。


三者三様の視点からSDGs経営の重要性に気づき、協業がスタート

──SDGs社会を見据えて活動される3社が協業するプロジェクト「SDGs研修パッケージ」について伺います。

筒井:一般社団法人日本ノハム協会専務理事の筒井 隆司です。当協会は日本企業が国際競争で勝ち残ることを後押しするために設立されました。特に企業がSDGsを具体的目標として事業活動に落とし込み、持続的に成長していく支援をしています。

今回のプロジェクトで私は監修としてあつみさんと協力し、教材作成に取り組んでいます。SDGsは壮大な世界的規模でのゴールですが、それを構成する目標はとてもローカルな、小さな希望の集合です。それらの希望は本来、誰も傷つけることのない「当たり前」の目標なのですが、今はその「当たり前」が見えなくなっています。

ですから当協会はその小さな希望から手を広げていくことを主題にしています。名称にある「ノハム」とはno harm(害がないこと)から命名しました。そこには誰も傷つけない、そして誰も取り残さないという想いが込められているんです。


あつみ:SoZo株式会社代表取締役のあつみ ゆりかです。今回は、本セミナーのeラーニング教材の作成を担当しています。

弊社は2015年の設立当初、ブライダル業界のコンサルティング、特にWebマーケティングの研修をメインの事業にしていました。ブライダル業界では実は、ウエディングプランナーの離職率が高いことが大きな課題です。憧れて入った業界なのに、ウエディングプランナーを続けていると次のキャリアビジョンが見えにくく、また土日勤務の働き方がワークライフバランスを考えた時にネックとなってしまい、退職してしまうのです。この業界構造を変えるためにWebマーケティング職への教育事業を弊社は加速させ、大手企業に多数導入いただくなど一定の成果を出すことができました。

そんな時に日本ノハム協会の方々との出会いもあり、ブライダル業界で叶えたかった私の想いとSDGsの理念が非常に近しいことに気づき、開発を進め、2022年2月から「ビジネスマンのためのSDGs」をテーマに新事業をスタートしました。


宮沢:SMBCコンサルティングの宮沢 正光です。弊社では、主にSMBC経営懇話会の会員様向けに「SDGs研修パッケージ」をご提案しています。弊社は3つの事業を展開しております。

1つ目は外部のコンサルティングファームと連携して、主に三井住友銀行のお客様へコンサルティングを行うアドバイザリー事業。2つ目は三井住友銀行のお客様を中心に1万数千社が入会しているSMBC経営懇話会の運営事業。そして3つ目がビジネスパーソンや社内の各部門に対する教育事業です。


──三者が協業するきっかけは?

宮沢:以前から弊社では、ビジネスパーソンに必要な教養として、SDGsを学ぶセミナーを探していたのですが、その過程で出会ったのが日本ノハム協会さんでした。こちらにいらっしゃる筒井さんに協力を仰いだところ、コンテンツ作成のノウハウをお持ちのSoZo株式会社のあつみさんをご紹介いただいたのが、最初のきっかけですね。


筒井:SoZo株式会社のあつみさんが制作する研修コンテンツには「人を動かす力」を感じているのです。受講者が「何か動き出さないと」と感じる、ワクワクするエネルギーがあるのです。それを私たち日本ノハム協会が間に入ることで、より両社の活動のフィールドを広げられるのではないかと考えたのです。


自社事業とSDGsの関わりを認識し、「社員力を高める」ためのプログラム


▲左から、あつみ ゆりか・SoZo株式会社代表取締役、SMBCコンサルティング・宮沢 正光、筒井 隆司・一般社団法人日本ノハム協会専務理事


──セミナーの内容について伺います。

あつみ:プログラムは3つあります。1つ目は経営者層に向けて「SDGsにはどんな事業の“タネ”が潜んでいるのか」を伝えるプログラムです。既存の事業の中に、SDGsの視座を加えることで、新しい事業が生まれるといった内容を具体例とともにお伝えしています。

たとえば、京都の藍染め黒染めをしているある企業の話なのですが、そこはシミができてしまった白い服を自社の技術で染め直し、服を蘇らせる活動をされています。それは元々あった伝統工芸の技術を活用して、SDGsの新事業として生まれ変わらせたことに他なりません。新規投資が前提のお話ではなく、ただ新たな観点で臨むことでSDGs新事業になりえるというのは重要なポイントだと思います。

2つ目は広報人事などPRを担当されている方に向けたもの。日本では既に日々の事業がSDGsに合致している企業は数多くあるのですが、自社の活動の価値を十分に認識しておらず、PRに至っていないケースが多々見受けられます。

しかし「SDGs ネイティブ」とも呼ばれる現在の学生たちは、SDGsに積極的な企業に就職を希望しています。ですからPRの方法を学び、求職者が求めている情報を適切に発信できることは、採用面からも有効です。


宮沢:就職活動をしている学生はSDGsに関する企業の取り組みに興味を抱いています。ですから研修を受講した人事部担当者の方が、自社の取り組みを適切に求職者である学生にアピールできるようになれば、企業のブランディング向上につながっていくと考えています。現状、SDGsネイティブの若い世代と経営者世代との認識にはズレがあると感じています。


あつみ:学生と経営者のギャップについては私も同意見です。意思決定する上司がSDGsへの理解に乏しく、若手のアイデアに耳を傾けなかった結果、若手が転職してしまうこともあります。社内の中間層以上の方々へのSDGs理解を深めることが課題ですね。

3つ目は事業内容からSDGsのどのゴールに向かっていくべきか、社内で議論を深めていくための具体的な方策、ロードマップ作成の仕方をお伝えするセミナーです。


筒井:このセミナーの目的は「社員力を高めること」。社員一人ひとりが自社事業のSDGsとの関わりを認識し、自らの仕事が社会貢献の進展に役立っていることを自覚してほしいのです。エンゲージメント高くエネルギーに満ち活き活きした社員が集い、そしてその会社が公益性につながる活動をしていれば、世の中に取ってこれほど素晴らしいことはないのではないでしょうか。


◆SGDs研修パッケージのご案内◆


自社の資産を世の中にどう役立てるか?SDGsの視点は、長期的経営判断を可能にする

──多くの日本企業では、自社のSDGsへの取り組みについて正しい理解と、発信が十分になされていないという現状があります。

あつみ:まず、経営層がSDGsのどのゴールを重点的に取り組んでいくのか。その設定やビジョンに基づいた社内外への発信がなされているか、ここが最も重要なことは大前提にあると思います。また一方で、自社をどのように説明すれば対外的なアピールにつながるのか、どういうフレーズが学生の心に響くのかを明確にしきれていないのではないかと思います。

具体的なファクトやストーリーについての知識や経験が少ないため、外国での活動の具体例や他社の成功事例の要素を自社の事業の中に落とし込めていないのです。


筒井:地球規模の問題解決を考えたら大きな課題で手が届かないと感じているのも要因のひとつかもしれません。たとえばSDGsのゴール目標2「飢餓をゼロに」ですが、必ずしも発展途上国の貧困を題材にしなくても、当事者意識を持つことはできます。

日本国内での貧困層拡大の問題はそのひとつです。日本にも一日の食事が足りていない子どもが増えていますが、この国内問題と海外の貧困の問題は本質的には同一のものです。自社の事業を振り返って、たとえば飲食業界であれば、食べ物を欲している人のニーズに対してどうやって解決につなげていけるかを考えていく。

その中で満たされない人の悲しみや苦しみを少しずつでも理解し、その理解の輪を広げることが、将来的には大きな問題の解決につながっていくのです。私たちがSDGsを通して、本当に求めているのは、こうしたとても小さな身近な幸せなのではないでしょうか。


あつみ:確かに日本国内向けにコンテンツを構築していると、どうしてもSDGsは遥か遠い国の問題のように思われてしまいがちです。「自分たちのビジネスとSDGsに何の関係があるの?」と。

2022年7月現在行われているほとんどのSDGsに関するセミナーは、世界的な問題をトピックとして取り上げることが多いのが実際です。けれど今回のセミナーでは、その大きな世界軸のゴールが日本での課題につながっているということ、「自分たちのビジネスへの梯子をかける」ことにこだわりました。


──研修後は具体的にどう活動に落とし込むことが期待できますか。

あつみ:3つ目「社内で議論を深めていくためのセミナー」では、受講したのちに自社内でもセミナーで体験したワークショップを繰り返し行うことで、事業とSDGsの関連性をつなげていくことができます。ワークショップで得た「考えるきっかけ」を日々のタスク・スケジュールに落とし込み、数値目標にしていくことが重要です。

今、世界は具体的なCO2削減目標や再生エネルギー比率など、サステナブル社会実現に向けた目標を定量化する方向に向かっています。自社事業とSDGsのつながりを発見することができたら、次は数値目標にしていく必要があります。


──目標の実現には「社員の意識」だけではなく「経営者の目標設定」も大切に。

筒井:本来、日本の経営者は長期的な視座に立って経営の指針を決めていました。それは日本の社会資本主義的な経済が欧米の市場資本主義と比べて公益性が高く、福祉も社会基盤もしっかりしていたからです。

けれど世界的な経済バブルの崩壊後、特に欧米を中心に短期でリターンを求める風潮が強まってしまいました。この短期的な視点で経営を考えてきた反省も、同じく欧米から起こっています。

元々私たち日本人は長期のビジョンに基づいて、世の中を良くしていきながら事業を振興させていくことが得意なはず。50年先、100年先を見据えて、その時に自分の会社がどのように社会に貢献できているのか、そして社会をどうしたいのか。そこで大事なのは「社会がどうなっているのか」ではなく「社会をどうしたいのか」という視点です。


あつみ:経営者には「今ある会社の資産をどう利用すれば世の中の役に立つのか」を見つけてもらいたいと思います。そのきっかけとしてSDGsはあり、目標への理解が深まり、社会問題が身近にあることに気づくことで、経営視野は広がりを持ちます。

SDGsの視点を活用して、自社製品の新たな展開に気づいたら、それをどう社内に提案していくか、それをどう社会にメッセージを示していくかを決め、事業計画を立てていく。これが今後の事業発展のプロセスとしての解ではないでしょうか。

これまでは経営者は売上や利益率で事業を計ってきました。しかしそれでは再生可能エネルギーなどコストがかかることは利益相反だとして目をおおってしまいかねません。しかしそうした経営判断を見直し、長期視点の経営判断を可能とすることができるのが一番のポイントです。そういった点からも、やはり最初に手をつけるのは「社員の意識」ではなく「経営者の目標設定」だと感じますね。


宮沢:経営者が自社の事業をSDGsと関連させる視点で考えるようになった時に、事業計画を支援するのが弊社のような金融機関グループの仕事だと考えています。その時にしっかりサポートしていけるように、さまざまな体制を構築しています。


歴史の傍観者ではなく、未来を創る側へ──日本企業が秘めたSDGsのポテンシャルとは



──本セミナーの先に描く、未来の社会像はどのようなものでしょうか。

筒井:これまで人類文明はずっとサステナビリティを重視した社会でしたが、産業革命以後、それが失われてしまいました。核廃棄物の問題など人類が自然環境を変える力を持ってしまった結果、数百年先、数十世代先のことを今の世代が短期的な視点で決めてしまっているという現実があります。

その過ちに気づき「影響力が未来に及ぶのであればそこまで見据えて行動していくことが、自分たちの世代の責任なのだ」と人類は決断した、それがこのサステナビリティという考え方の本質で、そこに価値を持たせたのは、人間の英知だと考えています。今は新しい考え方を持った世代に入れ替わる過渡期。大きな曲がり角に人類は立っているのだと思います。


あつみ:2030年のSDGs達成に向けて、日本は大きく舵を切りました。2022年4月は育児・介護休業法が改正され育児・介護と仕事を両立しやすくするように企業は職場環境を整備することが、より求められるようになりました。また不妊治療への保険適用やプラスチックゴミ削減の義務化、さらに東京証券取引所の再編によってプライム指定された上場企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づいた情報開示を求められるようになっています。

これらの法整備が進んだことでSDGsに背を向けることは法令違反にもなることを意味するようにもなりました。企業はSDGsへの理解を深め、それをチャンスへと転換していく時期に来ているのです。その支援のために、本セミナーは存在する、そう考えています。これからSDGsを学ぶことが当たり前の社会になり、それが社会的に連鎖していく社会像を描いています。


筒井:私たちの目標は「私たちがいなくてもSDGsの取り組みが推進される世界を創る」ことです。将来的に、自分たちの活動は意義あることだったが、それが成功裏に無くなっていき、社会の中に自然にSDGsが浸透していることが理想です。日本ノハム協会が無くなっても世の中のサステナビリティが高まり、暮らしやすい世界になってくれればいい。それが理想です。


──その未来像を形作る土台となるのは、やはり企業であると。

筒井:企業にはモノでつながっているサプライチェーンを越えて、価値をつなげ広げているバリューチェーンという考え方がありますが、私たちが目指しているのは関係者全体が連携・協力することでどれだけの価値を消費者や社会にもたらしたか、という観点で見る世界です。


あつみ:「もったいない」という言葉に代表されるように、日本は本来、サステナビリティを生み出していくことについては得意分野のはずで、また安全品質については、いまだ世界トップクラスです。これは世界に対してアドバンテージですから、これからシフトチェンジをしていけば日本から世界的企業が必ず生まれてくるはずです。


筒井:注意しなければならないのは、日本には「陰徳善事」的な、良いことをやっているのにあえて言わない文化もあることです。SDGsの理念に則って行動しているのにそれを隠していては意味がありません。むしろ多くの人にその理念や行動を共有し波及させていけばもっとオープンで明るく、前向きで生産的な世界になるはずです。


あつみ:自分が良いことをやっていることと、それを広げるために伝えることは違う活動になるでしょうから、それを今回のセミナーを活用して学んでいただけるとうれしいですね。


筒井:それから企業には「歴史の傍観者」にならず「歴史を創る側」に参加しているという意識を持ってもらいたいですね。自分の事業が未来の社会を創造するための役に立っているという自信を持っていただきたい。


あつみ:そうですね。2000年代にITバブルが崩壊して以後、20年経ってもいまだにDX人材が不足しているのは、日本社会がずっと「様子見」。つまり筒井さんのおっしゃる「歴史の傍観者」として、問題を直視せず放置してきたことに起因すると考えています。その点、私自身の目標としても、20年後に日本のSX人材が「まだ不足している」という状況は避けたい。IT革命以来のDX人材不足の二の舞には絶対にしてはなりません。

一方で明るい社会変革の兆しも感じているんです。これまで日本企業は製造業を中心に年功序列が上手くワークしてきたのですが、同時に会社組織が硬直化したことで「失われた30年」が生まれてしまいました。この反省でこれからの組織はもっとフレキシブルになっていくでしょう。コロナ禍によるリモートワーク推進はそのきっかけになっているのではないでしょうか。今回SMBCコンサルティングさんが参加されているのは、社会が変革してきているひとつの象徴だと思います。


筒井:世界でSDGsがこれだけ知名度が高まったのは、金融界の後押しがあったからです。元国連事務総長のコフィ・アナンは国連がもっと主導的に世界をリードしていくために金融界に協力を仰ぎました。投資や保険、融資などの金融関連企業に対して「金融業界が社会に資金を環流させることが世の中を良くするために役に立っている、という視点を持つべきだ」と述べ、さまざまな金融原則を打ち出し、賛同を得ていきました。

その結果、金融業界がSDGsを推進する使命を持って行動するようになり世界は大きく動いたわけです。今回SMBCコンサルティングさんが参加されたことで日本企業への影響力は大きく拡大しました。本当に崖に落ちる一歩手前だったのですが、金融業界が加わったことで踏みとどまることができた、とさえ考えています。


宮沢:弊社としても、今回のセミナーは企業がSDGsを理解し、事業に取り込むためのベストソリューションだと考えています。今後も三者が連携を深めて、多くの企業が新しいビジネスシーンに気づくきっかけになってほしいと考えています。

今後、弊社では2022年からSDGsとDX化を含めた新教育プログラムをリリース予定です。次世代経営幹部を育成するセミナーやSDGsを自社の経営戦略に落とし込むためのサービスも予定されています。これは弊社がこれまで培ってきた多くの企業との関係から感じ取ってきた問題意識や不安をフォローするためのものです。弊社のコンテンツにさらにSDGsをプラスすることで、より企業のレベルアップを支援していきたいと考えています。


▼プロフィル

筒井 隆司 氏

1982年ソニー株式会社入社。中東、欧米諸国、中南米など5カ国22年にわたり海外支社のマネジメントを経験。ロシアやブラジルでは現地法人社長を歴任。2015年からはWWF(公益財団法人 世界自然保護基金)ジャパンの事務局長に就任。2020年から一般社団法人日本ノハム協会で専務理事を務める。


あつみ ゆりか 氏

2008年にウェディングメディア「大人の上質CRAS」の事業責任者としてメディアを立ち上げ。その後、株式会社マイナビへ同事業を売却。マイナビウェディング初代編集長に就任し、2015年にSoZo株式会社を起業。独立後はブライダル業界全体のWEBマーケティング教育事業を手掛ける。


宮沢 正光

SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部企画グループ長。



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プロフィール

InfoLounge編集部

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