Netpress 第2243号 「みなし輸出」管理の規制の強化 国内の居住者に対する技術情報の提供も対象に!

Point
1.役務通達の改正により、「みなし輸出」管理の運用が明確化され、2022年5月1日より、従前は「みなし輸出」の管理対象とされていなかった「国内の居住者間の機微技術の提供」が、輸出許可の対象となり得ることが明らかにされました。
2.「みなし輸出」管理の対象となる居住者の類型(特定類型)に該当する場合には、経済産業省の許可が必要となるため、自社等の技術情報管理について見直しが必要となる場合があります。


岩田合同法律事務所
弁護士 青木 晋治



1.「みなし輸出」管理とは

「みなし輸出」管理とは、日本国内の非居住者に対し、機微技術(軍事に用いられる可能性の高い一定の技術)の提供をすることを目的とする取引について、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」といいます)25条1項に基づき、経済産業大臣の許可を必要とする制度です。


これは、国境を超える技術提供のほか、国内における技術提供についても、非居住者は最終的に出国する蓋然性が高いことから、非居住者に対する技術提供を管理し、経済産業大臣に対する輸出許可の申請を義務付けていたものです。


しかし、日本国内の居住者間の技術提供は対象とされておらず、入国後6か月以上経過した外国人なども「居住者」とされ、「みなし輸出」管理の対象外とされていたことから、外国の影響下にある居住者からの機微技術の流出懸念に対応できないという課題がありました。


そこで、「みなし輸出」管理の運用の明確化が図られることになりました。

2.「みなし輸出」管理の運用の明確化

(1)内容

経済産業省は、2021年11月に「外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供する取引又は行為について」(平成4年12月21日付け4貿易第492号。以下、「役務通達」といいます)を改正し、2022年5月1日から施行することを公表しました。


これにより、特定の類型に該当する居住者に対する特定技術の提供も、日本国内における非居住者への提供とみなし、輸出許可の対象となることが明らかにされました。


結果として、実質的に「みなし輸出」管理の対象が拡大されることになりました。


(2)「みなし輸出」管理の対象となる居住者の類型(特定類型)

役務通達の改正により、輸出許可の対象となる居住者の類型(特定類型①、特定類型②、特定類型③)は、次頁のとおりです。



●特定類型①

外国政府や外国法人等との間の契約に基づき、当該外国政府や外国法人等の指揮命令に服するまたはそれらに対して善管注意義務を負う者
例:グループ外国法人等以外の海外の会社の役員を兼務する日本企業の役職員への提供、外国大学と兼業している本邦大学の教職員への提供
●特定類型②

外国政府等から多額の金銭その他重大な利益を得ている者または得ることを約している者
例:外国政府から留学資金の提供を受けている学生への提供
●特定類型③

本邦における行動に関し、外国政府等の指示または依頼を受ける者
例:日本における行動に関し、外国政府等の依頼を受けている学生への提供


3.企業等における実務対応の留意点

今般の役務通達の改正により、企業内における技術提供や大学における研究者や留学生などへの技術提供も規制対象に該当し得ることとなりました。


たとえば、従前は、ある日本企業が50%未満の議決権を有している海外の企業に対し、自己の役職員を非常勤取締役として派遣しているような場合において、当該日本企業の役職員が「居住者」である場合には、「みなし輸出」管理の対象外でしたが、かかるケースも「みなし輸出」管理の対象となりました(50%以上の議決権を保有する場合は、改正後も対象外です)。


この場合には、日本における善管注意義務が優先する旨の合意をすること等により特定類型の対象外とすることや(改正通達1(3)①(イ)参照)、当該措置をとることが難しい場合には、包括許可を取得するなどの対策を講じることが必要となります。


また、雇用管理上も、結果として外為法違反となることを免れるため、たとえば、受領者が提供者の指揮命令下にある場合には、採用時に特定類型該当性について自己申告による確認をすることや(ただし、改正役務通達の施行時に採用している場合は不要)、従業員等に報告義務を課すこと(就業規則等において副業行為等が禁止・申告制になっている場合を含みます)が必要となります(「特定類型の該当性の判断に係るガイドライン」1(2)ア参照)。


このように、従前は「みなし輸出」管理の適用対象とされていなかった社内での技術情報の提供など、本邦内での技術情報の提供も許可の対象となり得ることになります。


そのため、企業等としては、次のような対策が必要になるといえます。




自己の取り扱う情報が「みなし輸出」管理の対象となる技術情報に該当するかを改めて把握すること

外国法人等との役職員の兼職状況を踏まえつつ、必要に応じ技術情報の管理体制の確認、整備をするなどの措置を講じること

採用時に従業員に対し特定類型の該当性を申告させることや、採用後に特定類型に該当するに至った場合の報告をさせる措置を講じること



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