Netpress 第2238号 副業・兼業関係情報の公表を推奨 副業・兼業の普及促進に向けた第2次「ガイドライン」改定
1.新しい資本主義の実行計画では、円滑な労働移動のために、副業・兼業の推進を図るとしています。
2.計画推進の方策として、企業に対しては副業・兼業に関する情報の公表を推奨しています。
社会保険労務士法人 HRM
社会保険労務士 落合 敏夫
1.新しい資本主義を背景とした改定
副業・兼業の基本的な運用のあり方については、「働き方改革実行計画」の一環として、2018年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます)を策定し、公表しています。
その後、2020年9月には、「成長戦略実行計画」を踏まえて、労働時間管理のあり方を中心として、第1次改定が行われました。
今回は、2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、スキルアップを通じた成長分野・産業への円滑な労働移動を進めるため、一層の副業・兼業の推進を図っていくとする拡大方針を基に、第2次改定が2022年7月に行われました。
2.改定ガイドラインの内容
今回の第2次改定により、ガイドラインには、副業・兼業に関する企業の情報公表について、次の事項が追加されました。
(1) 企業の対応 | ||
①基本的な考え方 | ||
企業の副業・兼業の取り組みを公表することにより、労働者の職業選択を通じて、多様なキャリア形成を促進することが望ましい。 | ||
②副業・兼業に関する情報の公表について | ||
企業は、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、職業選択に資するよう、副業・兼業を許容しているか否か、また条件付き許容の場合は、その条件について、自社のホームページ等において公表することが望ましい。 | ||
(2) 労働者の対応 | ||
適切な副業・兼業先を選択する観点からは、自らのキャリアを念頭に、企業が副業・兼業に関する情報の公表により自社のホームページ等において公表した副業・兼業に関する情報を参考にすることも有効である。 |
3.具体的な情報公表内容と方法
副業・兼業の許容状況等の具体的な公表内容等は、改定『「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A』(以下、「Q&A」といいます)で補足説明がなされています。
ただし、ガイドラインでは「望ましい」とされて、推奨されるにとどまります。法的義務ではないことから、厳密な定めはありません。
公表をするか否か、公表内容、公表方法については、あくまで企業の裁量に委ねられています。
(1)公表対象の副業・兼業の範囲 (Q&A 4−2)
公表の対象となる副業・兼業は、他の会社等に雇用される形のほかに、事業主、請負、委託、準委任契約により行うもの(フリーランス、独立、起業なども含みます)について公表することも考えられます。
(2)情報公表事項 (Q&A 4−3)
①副業・兼業について条件を設けず、許容している場合の例
「弊社では、従業員が副業・兼業を行うことについて、条件を設けることなく、認めています。」
②副業・兼業について条件を設けて、許容している場合の例
「弊社では、従業員が副業・兼業を行うことについて、原則として認めています。ただし、長時間労働の回避をはじめとする安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務の履行が困難となる恐れがある場合には、認めていません。」
(3)情報公表方法 (Q&A 4−3)
自社のホームページ等において公表することが望まれます。その他の公表方法として、会社案内や採用パンフレットが考えられます。
4.副業・兼業に対する基本的な考え方
情報の公表について検討する前に、自社の副業・兼業に関する基本的な考え方の適合性について判断する必要があります。
原則として、労働者が労働時間以外の時間をどのように使用するかは自由です。企業がその自由時間を制限して、他社との雇用契約や業務委託契約または起業等を禁止または制限できるのは、ガイドラインでは次の事由に該当する場合としています。
①労務提供上の支障がある場合 |
②業務上の秘密が漏洩する場合 |
③競業により自社の正当な利益が害される場合 |
④自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 |
このような事由がないにもかかわらず、副業・兼業を許可しない場合において、企業の不法行為責任を認めた判例もあります。
したがって、自社の就業規則に「副業・兼業は例外なく認めない」「副業・兼業をした者は、懲戒処分を科すことがある」等の規定がある場合は、検討が必要となります。
また、労働契約の通算や労働保険・社会保険の合算等、煩雑な手続を避けるために非雇用型の業務委託契約等に限定することも問題となりますので留意してください。
副業・兼業だけではなく、大きく変化する労働環境に適切に対応していくことが必要です。
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