Netpress 第2236号 政府のガイドライン対応 サプライチェーン等における人権尊重のための取り組み

Point
1.2022年9月に、日本政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます)が公表されました。
2.ガイドラインの内容を踏まえて、中小企業に求められる「人権デュー・ディリジェンス」の取り組みを解説します。


みらいコンサルティンググループ
社会保険労務士法人みらいコンサルティング
代表社員 安藤幾郎
社会保険労務士 中村知貴


今回のガイドラインにおいては、企業には事業活動を行う主体として人権を尊重する責任があること、そして、企業とは規模や業種等を問わず、すべての企業を指すことが示されています。


しかしながら、「人権」というテーマは意味が広範にわたるため、ともすれば茫洋としており、今日において危機感を持って捉えている中小企業は少ないかもしれません。


実は、中小企業でも、この人権課題というものは至る所に存在しています。そして、人権課題に対応することで、企業の抱える経営リスクの削減につなげることも可能となります。


たとえば、人権というテーマに関して考えられる経営リスクとして、人権侵害を行っている企業の製品やサービスの不買運動の発生や、投資先としての評価の降格、人材採用への悪影響等が考えられます。そのほか、人権侵害を理由として取引先から取引を停止される可能性もあり、これは経営における重大なリスクとなります。


人権尊重に向けた取り組みは、こうしたリスク要素を未然に防ぐ効果も期待されます。つまり、企業がその責任を果たすという点だけではなく、結果として、経営リスクの抑制という点でも大きな意義を持つことになります。


とはいえ、この「人権」という大きなテーマに対して、実際に企業はどのような取り組みを行えばよいのか、何に重きを置くべきなのかがわからない、という声を聞くのも事実です。


以下では、ガイドラインでも求められている「人権デュー・ディリジェンス」について、特に中小企業に向けて対応のポイントを紹介します。

1.中小企業の人権デュー・ディリジェンス対応

中小企業が実際に人権デュー・ディリジェンスの取り組みを行うにあたっては、次の3つが重要なポイントになります。


(1) 企業の人権尊重への取り組みにおける考え方
(2) ステークホルダーとの対話
(3) 脆弱的な立場にある個人への配慮


これらの各ポイントついて、具体的な対応の進め方や留意点などを確認していきましょう。


(1)企業の人権尊重への取り組みにおける考え方

まず1つ目のポイントは、「企業の人権尊重への取り組みにおける考え方」についてです。


企業が人権デュー・ディリジェンスへの取り組みを行うにあたり、極めて重要とされているのが「経営陣によるコミットメント(約束)」です。企業が人権尊重に関する取り組みを行う場合、その活動は採用、調達、製造、販売等を含む、企業活動全般において実施が求められます。


つまり、特定の一担当部署が方針を決定し、推進していくのでは不十分であり、会社全体での取り組みが必要になるということです。


そのためには、企業のトップを含む経営陣が人権尊重の取り組みを会社全体で推進していく方針を定め、積極的、主体的に関与していくことが肝要です。


(2)ステークホルダーとの対話

2つ目のポイントは、「ステークホルダーとの対話」に重点を置くことです。


前述の通り、規模や業種等にかかわらず、すべての企業には人権を尊重する責任がありますが、各企業が抱える人権課題はそれぞれ異なっているのが実情です。


そのため、各企業がステークホルダーとの対話というプロセスを通じて人権課題を洗い出し、その原因を理解したうえで取り組みを行うことにより、改善を容易にするとともに、ステークホルダーとの信頼関係の構築を促進する効果が期待されます。


取引先、労働者、労働組合等、さまざまなステークホルダーとの対話を積極的に行いながら、負の影響が生じ得る人権の種類や、想定される負の影響の深刻度等、実態を反映した人権方針の策定が期待されます。


(3)脆弱的な立場にある個人への配慮

3つ目のポイントは、「脆弱的な立場にある個人への配慮」です。


人権デュー・ディリジェンスへの取り組みを行うにあたり、社会的に弱い立場に置かれる個人については、より細かい配慮が必要となります。


たとえば、女性であることのみを理由とした労働条件差別やハラスメント、外国人であることのみを理由とした差別的処遇などは、当然許されるものではありません。また、残念ながら、日本では一部の外国人技能実習生に対して、強制労働が行われていると指摘されることもあります。


このように、脆弱的な立場にある個人の人権課題については、より細かい配慮が必要となるため、インタビュー等による調査を行い、自社が現在抱えている人権課題を詳細に特定したうえで取り組むことが重要です。

2.できることから、確実に、一歩ずつ!

以上の通り、人権デュー・ディリジェンスへの取り組みを行うにあたっては、まずは次の3点を意識することで、より適正な人権課題への対応になると考えられます。


①経営陣の主体的な関与
②ステークホルダーとの対話(実態を反映した人権方針の策定)
③脆弱的な個人への配慮


事業環境が変わったり、新たな取引関係に入ろうとしたりすれば、それに応じて人権の状況も常に変化していきます。そのため、ステークホルダーとの対話を通した人権課題の特定とその課題への対応は、定期的かつ継続的に繰り返していく必要があります。


人権デュー・ディリジェンスへの取り組みは、その範囲が広いが故に、最初の一歩がなかなか踏み出しづらい領域ではあるでしょう。もちろん、人権課題のすべてに取り組む意識も求められますが、できることから一歩ずつ、確実に取り組んでいくことも重要です。


国内外における人権意識の高まりをみても、企業が存続するための重要な経営課題となりつつあります。そのことを認識したうえで、適正に対応していくことをお勧めします。



「Netpress」はPDF形式でもダウンロードできます

SMBCコンサルティング経営相談グループでは、税金や法律など経営に関するタイムリーで身近なトピックスを「Netpress」として毎週発信しています。過去の記事も含めて、A4サイズ1枚から2枚程度にまとめたPDF形式でもダウンロード可能です。

PDF一覧ページへ

プロフィール

SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 経営相談グループ

SMBC経営懇話会の会員企業様向けに、「無料経営相談」をご提供しています。

法務・税務・経営などの様々な問題に、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・コンサルタントや当社相談員がアドバイス。来社相談、電話相談のほか、オンラインによる相談にも対応致します。会員企業の社員の方であれば“どなたでも、何回でも”無料でご利用頂けます。

https://www.smbc-consulting.co.jp/company/mcs/basic/sodan/


受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート