Netpress 第2233号 データ活用が重要! 「現場で確実に機能する」人事戦略とHRテック

Point
1.近年、働き方改革の推進などを背景として、HRテック系のサービスを導入・活用する企業が増えています。
2.最新のHRテックを活用する新しい時代に即した人事戦略を現場で確実に機能させる仕組みを解説します。


株式会社セレブレイン
代表取締役社長 高城 幸司


「HRテック」とは、「Human Resources」と「Technology」を掛け合わせた造語です。最近は、テレビだけでなく、タクシーや野外のサイネージ広告で、HRテック系のサービスを見かける機会が増えました。


以下では、「現場で確実に機能する」人事戦略とHRテックの仕組みについて解説します。

1.HRテックの導入状況

日本は、海外(特に米国)と比べて、テクノロジーサービスの普及が遅れている状況です。ゆえに「タイムマシーン戦略」(海外で成功したビジネスモデルやサービスを日本で展開する経営手法)と呼ばれる海外との時差を踏まえた1周遅れの普及状況ともいわれています。


そのHRテック系の代表的なサービスが、タレントマネジメントシステムでしょう。タレントパレットなど、経営幹部が社員の顔写真を見ながら、人事評価や人材配置に活用できる効果的なサービスです。


あるいは、動画面接に活用するシステムもあります。コロナウイルス騒動で、企業側の採用担当者、学生の双方が「面会や選考待ちの会場で感染したらどうしよう」と不安になったことで、導入企業が加速的に増えました。


使ってみると、コロナに限らず、現場の業務改善につながり、高い評価を得ているという話をよく聞きます。


そもそも、HRテックが日本で普及する状況になりつつある、普及すべきだと考えられている背景には、働き方改革の推進があります。


日本の労働人口の減少などを受けて、限られた人数で労働生産性を上げるための手段として、システム=HRテックを活用するという発想です。


ただ、コロナ前までは、対面での仕事・面接が当たり前でしたので、導入スピードは遅々としていました。コロナでリモートワーク、オンラインでの打ち合わせをせざるを得ない状況になり、導入を後押しすることになりました。


それでは、アフターコロナで、HRテックのサービスはどうなるのでしょうか。現場で継続的に使っていくためには、工夫が必要です。どのように工夫すべきかを考えてみたいと思います。

2.問題点の改善につながる活用

まず、大事なことは、問題点の改善につながる活用にすることです。


CMが目に留まり、「面白そう」「目新しいから」と安易に導入したケースは、なかなか継続利用につながりません。あくまでも困っていたこと、手間がかかっていたことなどが改善しなければ、すぐに利用を止めてしまうことになります。


ある製造業では、タクシー広告でタレントマネジメントシステムを見た社長から、「面白そうだから導入を検討するように」と指示を受けて、具体的な活用方法を深く考えずに社内稟議を申請しました。


社長の指示ですから、当然、稟議の決裁は下りましたが、導入はしたものの、上手く活用できないまま1年が経過してしまいました。


すると社長から、「使えないシステムに料金を払う必要はない」と解約の指示がありました。現場は、社長に振り回されて、時間だけを浪費することになったのです。おまけに、「無駄金になった」と人事部長が叱責される羽目に。社長の指示だからと、具体的な活用方法を深く考えずに動いたことを大いに後悔させられる結果となりました。


このように、現場が損な役回りを強いられないためにも、問題点の改善につながるような導入準備を心がけていただきたいと思います。

3.経験と勘頼りから脱却する

多くの場合、問題点は、経験と勘に頼るアナログな仕事ぶりによる無駄ではないかと思われます。


たとえば、これまでの新卒採用では、学歴や人柄などの採用基準に、採用担当者の価値観が加味されて、採用の可否が判断されてきました。


しかし、応募者が書いた履歴書・エントリーシートと、面接という少ない材料で判断するため、名門大学の体育会のキャプテンで、明るく、快活といった人物などが、「即採用」となりがちでした。


ところが、入社後は活躍するどころか、1年も経たずに退職というケースもよくあります。こうしたミスマッチこそ、大きな問題といえるでしょう。


また、離職・メンタルに対する効果的な対策が見当たらない場合に、原因を見出すにはデータ活用が必要です。


たとえば、離職した社員の勤務時間帯や異動について希望(申請)はどうだったのか、業績などについて特徴的な傾向があるのか、といったことです。そうした傾向を読み取ることができれば、そこから問題を見出して対策を考えることができるでしょう。

4.データ活用の認識を高める

もう1つ、現場で確実に機能させるために必要なことがあります。それは、データの活用が重要であるという認識を高めることです。


ビジネスでは、データ(事実)に基づいた客観的な基準を踏まえてPDCAサイクルを回し、判断することの重要性が大いに認識される時代になりました。


ところが、人事の分野では、大半のことが「頭の中」に格納されて、それを活用して行うことに慣れすぎてきました。


たとえば、データとして押さえておきたい社員のパーソナリティ情報について人事システムに入力されることはなく、人事部長(ないしは経営陣)の「頭の中」にあるだけの状態で、人事異動や昇進・昇格などが行われている会社が大半です。当然ながら、頭の中の情報の大半は、誰にも引き継ぐことができません。


さらに、上司と部下が行うコミュニケーションから見えてくる部下のパーソナリティ情報も、上司の頭の中で完結しているケースがほとんどです。人事評価で決定されたAやBなどの点数は保存されますが、それ以外の詳細な情報は残っていません。


しかし、そのことについての問題意識が低く、データを蓄積することに抵抗感のある人事部が意外にも多いのです。結果として、活用できるデータがない会社が大半となっています。たとえば、社内で使用する適性テストを頻繁に変えていたら、データとして分析することができません。


最近は、データ活用について学べる講座も増えてきました。人事部も、HRテックの活用とあわせて、データ活用のスキルを備えるための取り組みが必要と考えるべきかもしれません。



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