Netpress 第2232号 修繕費か資本的支出か 固定資産を修理等したときの会計処理のポイント

Point
1.固定資産の修理等をしたとき、修繕費であれば一時に損金算入することができますが、資本的支出になると何年かにわたって減価償却をしなければなりません。
2.税務調査でも見解の相違が生じやすい修繕費と資本的支出について、判定のポイントを解説します。


税理士 田中 康雄


1.修繕費と資本的支出の定義とその範囲

「修繕費」とは、固定資産の修理や改良などのために支出した費用のうち、その資産を維持管理するため、または毀損した部分を原状に回復するための支出をいい、一時に損金算入できます。具体的には、メンテナンスの一環として一定の年数が経過した建物に対して行う外壁の塗装工事や、屋根の防水工事等が挙げられます。


「資本的支出」とは、修繕費と同じく、固定資産の修理や改良などのための支出をいいますが、なかでもその資産の使用可能期間を延長させ、またはその資産の価額を増加させる支出をいいます。つまり、その支出によって資産の価値を高め、または耐久性を増加させる効果を及ぼすようなものです。


修繕費なのか資本的支出なのかは、あくまでもその実質によって判定されます。1つの目安として、その支出によって資産に形状的な影響を及ぼしたか、あるいは機能的な向上が明らかに認められたかで判断することになるでしょう。

2.形式的な基準による判定

長期にわたり使用されてきた固定資産に対して投じられた費用が、修繕費なのか、あるいは資本的支出なのか、それを区分するための決定的な判定基準はありません。


そのため、これらは税務調査のなかでも納税者と税務署との間で見解の相違が生じやすく、争点になることが多い論点といえます。


こうした背景から、修繕費と資本的支出の一定の線引きとして、形式的な基準によって判断することが認められています。具体的には、下に示した判定フローチャートのとおりです。



3.被災した資産に対する形式基準の特例

近年、自然災害が各地で頻発し、会社の資産が被災するケースも少なくありません。


災害等によって資産が被害を受けた場合には、損傷部分の原状回復だけではなく、その資産の重要な構造部分にまで改修工事が及ぶこともあります。平時であれば、後者の工事部分は使用可能期間の延長または価額の増加として、資本的支出に該当することになるでしょう。


しかし、被災資産の原状回復費用は、あくまでも原状への復旧が第一の目的であるため、災害の場合には資本的支出と修繕費の区分を例外的に取り扱い、損金部分をなるべく多くする配慮が講じられています。


特に、災害時の復旧工事等のための費用は、どの部分が修繕費で、どの部分が資本的支出なのかが判然とせず、また、被災資産を修繕・補強することによって二次災害を防止する観点から、より寛大な措置になっています。


さらに、復旧工事では、回復のための工事と同時に、より強固な防災対策を施すことも考えられます。こうした工事で原状回復費用と資本的支出が混在し、これを合理的に区分できないような場合には、支出金額の30%相当額を修繕費とし、その残額を資本的支出とする簡便的な割合による区分処理が認められています。


なお、災害時における支出は臨時的なものとなるため、会計処理の継続性は求められていません。

4.ホームページ等のリニューアル費用の区分

自社のホームページや販売管理システムなどの改修等に係る支出についても、通常の維持管理や原状回復のための費用は修繕費に該当し、利用可能期間の延長や価額を増加させる部分は資本的支出に該当します。


たとえば、機能修正やプログラム更新等は、現状の効用の維持管理として修繕費に該当し、消費税率の改正に対応するためのプログラムの修正費用も、特段新たな機能が追加されるわけではないため修繕費となります。


一方で、既存のホームページに受注システムを構築するなど、新たな機能が付加される場合はもちろんのこと、バージョンアップなどの機能の向上等については、形式的な基準の範囲を超えるものであれば、資本的支出に該当するケースが多いといえます。

5.税務調査に備えた対応

形式的な基準によらない場合、既存の固定資産に対して投じられた費用が修繕費なのか資本的支出なのかの判断基準が明確に示されていないため、法人側の処理と税務署側の主張が食い違うことは珍しくありません。


税務調査では、修繕費の総勘定元帳を確認しながら、特に支出の金額が大きいものについては請求書と突き合わせ、損金処理に疑義が生じた場合には、その工事内容について質問を受けることになります。


たとえば、工場内の断熱材への新たな敷き込みや全面貼り替えは資本的支出ですが、部分的な補修は修繕費となります。このとき、見積書や請求書の工事内容が「断熱材改修工事一式」といった記載になっている場合、それだけでは修繕費なのか資本的支出なのかが判断できません。そのため、工事を請け負う業者には、なるべく詳細な内容の見積書等を依頼し、これを徴取しておくことが大切です。そして、何よりも工事に関するビフォー・アフターの写真は、修繕費として判断した証拠書類として有効なものになります。


また、工作機械や走行クレーンなど、特殊な資産に対する修繕工事等の代金は高額になりやすく、工事内容が詳細に記載された請求書等や工事風景の写真があったとしても、調査官は自身が納得するまで追及する傾向があります。実地調査を終えた後も、各業者に対する反面調査により、工事内容の聞き取りを実施するケースも少なくありません。


いずれにしても、修繕費と資本的支出の区分は税務調査において争点となりがちですが、調査官の側もこれを判断するための決定的な材料を持ち合わせているわけではありません。


迷ったときには「資本的支出」として経理処理しておけば税務上問題になることはないだろう、といった消極的な選択をするのではなく、事実認定のための書類を整備するとともに、会計処理に関する社内的な統一ルールを策定しておくことも、税務調査に対する備えとして効果的でしょう。



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