Netpress 第2227号 購入したタワーマンションが・・・ 相続税評価の否認に係る総則6項の適用について

Point
1.ことし4月に、相続税における納税者の財産評価をその時価との乖離が著しいことを理由とし、財産評価基本通達6項を適用して否認した課税当局の判断を是認した最高裁判決が出ました。
2.この判決を踏まえて、今後、タワーマンションの相続税評価で留意すべき事項について解説します。


公認会計士 金本敏男事務所
金本 敏男


高齢の方が相続対策として購入したタワーマンションを相続した相続人が、その相続税の申告において、相続税で原則的に認められる相続税評価額により評価して申告したところ、その申告額が時価との乖離が著しいとして、相続税の財産評価基本通達の総則6項を適用して否認された事例が最近多く報告されています。


その否認事例の多くは、高齢の方が相続の開始直前に借入れにより購入し、その相続開始後、時間をおかずに相続人がその物件を売却した事例が多く、その購入した物件の時価と相続税評価額との乖離を利用した租税負担回避行為として否認されています。


その事例の一つが訴訟となって最高裁まで争われ、最高裁が税務当局の否認の判断を認めているのが、下記の事例であると専門誌に紹介されています。


【本事案の概要】


甲不動産
乙不動産
購入価格(※)
(借入額)

8億3,700万円
(6億3,000万円)

5億5,000万円
(4億2,500万円)

売却価格(※)
売却せず
5億1,500万円
通達評価額
約2億4,000万円
約1億3,366万円
鑑定評価額
7億5,400万円
5億1,900万円

※購入は、相続開始の約3年5か月前(甲不動産)と約2年6か月前(乙不動産)であり、売却は相続開始の約9か月後(乙不動産)です。




財産評価基本通達の総則1項では、財産評価の原則について、次のように定めています。



財産の評価については、次による。
(1)
評価単位
財産の価額は、第2章以下に定める評価単位ごとに評価する。
(2)
時価の意義
財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。
(3)
財産の評価
財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する。


一方、税務当局の否認の判断の根拠となった総則6項は、次のように定めています。


(この通達の定めにより難い場合の評価)

この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。


前記の判決等において、課税当局が、一般の納税者が適用する財産評価基本通達の適用を認めず、総則6項を適用する「特別の事情」があるとする主張は、次の3点であるといわれています。


1.
本件各不動産の財産評価基本通達による評価額と本件各取引額との間に著しい乖離があったことにより、評価通達の定める評価方法を画一的に適用することは、租税負担の実質的な公平を著しく害していたこと(通達評価額と時価の開差要件)
2.
本来負担すべき相続税を免れる相続対策を目的とした行為が行われていたこと(租税負担回避要件)
3.
その行為は、租税負担公平を著しく害していたこと(実質的公平阻害要件)


また、最高裁の判例では、相続直後に売却されていなくても、その行為は租税負担の実質的な公平を著しく害しているとして、否認対象とされています。


また、高齢者が相続開始直前にタワーマンションを購入する場合のその他の留意点の一つとして、高齢者であるが故に、金融機関からその資金移動と借入れにつき、意思能力の有無を問われることがあります。


そのため、その煩わしさを避けて親族による「家族信託契約」により行う場合も、金融機関が認めても、税務上はその購入の意思の確認・説明を求められる可能性があることに留意する必要があります。


さらに、高齢者が相続開始直前にタワーマンションを金融機関からの借入れにより購入する場合には、金融機関の貸出しの稟議書にはその借入れが「相続対策のため」と記載されるのが通例であり、国税当局が金融機関の反面調査等によりその事実を把握すれば、税務当局の調査は一段と厳しくなることは覚悟すべきです。


前記の最高裁の否認判決は、課税当局に対し、伝家の宝刀の使用に“お墨付き”を与えたに等しく、国税当局は強気で臨むといわれており、安易な相続対策はリスクが高いことになり、慎重な判断が求められています。なお、今回の最高裁判決の調査官解説では、総則6項の適用は、上記3点のうち「通達評価額と時価の開差要件」を考慮せず、「租税負担回避要件」及び「実質的公平阻害要件」を満たした場合に行われると言われています。



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