コテンラジオと考える「ポスト資本主義」とは何か? 【第4回】 ポスト資本主義を目指す株式会社COTENの社会実験
歴史を面白く学べるポッドキャスト「COTEN RADIO(コテンラジオ)」と連携した連載企画「コテンラジオと考える『ポスト資本主義』とは何か?」。ポッドキャスト上で公開された内容の書き起こし記事や、コテンラジオを運営する株式会社COTEN(コテン)のメンバーへのインタビューなどから、「ポスト資本主義」に迫ります。第4回は、コテンラジオより「#236株式会社COTENの大実験 ~ポスト資本主義と皆でつくる新たな世界〜」を再構成してご紹介します。
いまの経済のままでは幸せを感じられないと漠然と何かしら不満や不安を感じる人は身近にも増えてきました。個が「ポスト資本主義」というワードを意識していなくとも、自らの生活の中に何かしら、いまの社会や経済に対する「違和感」を持っているのではないでしょうか。そしてそれはコロナでますます加速したような気がします。
さて、今回は、どうポスト資本主義にシフトしていくのかという見解を深井さんが語っていきます。
これまでのエピソードのおさらい
まずは、これまでの3回に渡るエピソードのまとめからスタートしましょう。
資本主義は、経済学者・社会学者によって見解がさまざまあり、人類共有の見解として資本主義の定義は体系化されていません。第1回目のエピソードでは、資本主義の特徴を6つに分けました。まずはその特徴をおさらいします。
1.資本主義は、市場経済を前提として成り立っている。
2.資本主義は、市場にとって良しとされる行動にのみ報酬・インセンティブが発生する仕組みになっている
3.資本主義のもとでは、期待値が定量化される。
4.資本主義は、資本が資本を増大させていく。
5.資本主義は、経済成長と生産人口が比例する。持続的成長は生産人口に比例している。
6.資本主義は、システムではなく我々の 「OS として」機能している。
コテンラジオで、ここまで資本主義からポスト資本主義への移行について話をしてきました。通常ポスト資本主義とは何かと考えるときに、今回展開してきたように、社会学的・歴史的・経済学的観点から資本主義を包括的にまとめて整理するような作業は行いません。でも、この作業には大きな意味があるはずです。知見をシェアし、多くの方に活かしてもらうことで、今後一人ひとりが社会変革を考える際にお役立ちできるのではないか。思考が洗練されていくのではないでしょうか。何より、コテンラジオ自身が法人サポーターを展開していくにあたって、ポスト資本主義の可能性を探すために整理をしたかった、そう語っています。
資本主義は、社会学的・歴史学的に見た系譜上、近代社会が萌芽してはじめて生まれた概念です。しかし、例えばお金を儲けたいという思いは、中世や古代からあっただろうことが容易に想像できます。というか、人が営みを始めた時点からあった考えだと思います。つまり、お金を儲けたいという思いは、資本主義的な概念と混同されがちですが、実際にはポスト資本主義時代に移行したとしても連綿と存在し続ける考え方と考えることができます。資本主義の特徴を見ていくと、ポスト資本主義になると変わるところがどこで変わらないところがどこなのか、あたりをつけやすくなりますね。
私有財産の概念は、資本主義的で民主主義的でもある概念です。相互に連関していると言えます。私たちはこの世にある全てのものがどこかに帰属する社会を生きています。あらゆるものに金銭的価値をつけて、全てが商品化しています。これはマルクスも言うように、私たちが資本主義として当たり前と思っていることの一部は、近代に生まれた概念です。その近代で生まれたものこそが資本主義的なものだと言えると、第1回目のエピソードでお伝えしました。
第2回目のエピソードでは、経済学的な見地に基づき、資本主義を見ました。メインとしては、政府がどこまで経済に介入すべきかを中心とした議論を展開しました。一部の経済学者や社会学者は、資本主義のルーツや資本主義の精神が、人間の合理性で動いているわけではなく、自己顕示欲で動いていることを指摘し、議論しました。
皆さんのそれぞれの視野から社会と関わりを持つ中で、普段感じていることと照らし合わせたときに、資本主義はどのように解釈できるものなのかを考えていただければと思います。
第3回目のエピソードでは、これらの系譜を踏まえた上で、ポスト資本主義の展開をどのように考えている人たちがいるのかご紹介しました。残念ながら、その全ては網羅できていません。我々が適宜チョイスした人達の思想を紹介していますが、ポスト資本主義を志向している人たちの殆どに共通していたのは「現資本主義を否定していないこと」です。現資本主義による我々の生活の恩恵を否定していません。しかし、リーマンショックのような金融資本主義と呼ばれる、マネーゲームに関しては、ほぼ全ての人たちが、あってはならなかったものとしています。そして、現在の資本主義では私たちの多くが幸せになれないという指摘がありました。このような指摘に基づきさまざまな思考があることを展開しました。
これも読者にとって、どのような思考がご自分の考えに近いのか、またここは違うなど、資本主義の6つの特徴に照らし合わせて、この人はどの部分を変えようとしているのか、といった紐づけをしながら考えていただけると、整理が進むと考えています。
以上が、3回目までのまとめとなります。ここから先は、深井さんご自身の考えを述べていきます。
深井さんの考え
まず深井さんは、金融資本主義というマネーゲームに対しては本質を見失っていると説きます。誰の幸せにも寄与しない活動の推進を強化するシステムになっているからです。次に、お金は、ある一定の値までは非常に重要だが、その閾値を超すと価値が減損していくものと話しました。ある水準以上に増やしても自分の幸せに寄与しないものに対して、資本主義は自分や他者のリソースを使おうとするシステムであることが問題です。
しかし金融資本主義の世界では、お金は永遠に価値あるものとして扱われます。また、市場が評価する事は無条件で評価しようとするOSを内包しています。そしてこの価値観が、私たちの実態と衝突し始めていると深井さんは喝破します。
おおよそ先進国の2割に及ぶ人が、お金があっても幸せになれないという認識をすでに持っているのではないか。そして、自分の人生をより豊かにするために、お金を稼ぐ行為以外のところに自身のリソースを振り始めているのではないかと推察します。これは転職活動の志望動機や世代の違う若い世代の人たちの話を聞いて、さらに確信を深めるものになっているようです。
ただし、日本は従来の旧資本主義的なシステムの論理に大きく囚われている社会です。会社の中で何か合意を得るためには、稟議を通すことは当たり前であると思うでしょう。しかし、自分の人生上の出来事では合意をとることに矛盾を感じる人は多いと思います。このことが何を意味するのか。じつは社会が変革するときは、先に自分たちの考えが変わり、実態が変わり、その後システムが変わっていくという流れがあるようです。逆はありません。歴史を振り返ると、フランス革命や明治維新など、ほぼ全ての社会変革が、ごく限られたコミュニティの少ない人たちの中の考えを起点にして、変革が起こっています。この観点から深井さんは、社会は既にポスト資本主義へ移行が始まっているように見えると話しました。
株式会社コテンのこれから
ここからは、深井さんがポスト資本主義へのシフトを表明したコテンのこれからについて語っていきますが、その前に改めてコテンさんのサービスをご紹介しておきましょう。
〇世界史データベースの開発
膨大に散在している世界史情報を統一のルールで整理したデータベースです。世界史には今を生きる私たちに有用な学びが詰まっています。通常一人ひとりが数十冊もの本を読むことで、はじめて気付くことができるデータですが、コテンの世界史データベースによって、人類の挙動パターンや共通点に誰もが手軽にアクセスできます。
〇歴史を面白く学ぶコテンラジオの運営
歴史インターネットラジオ。国内外の歴史というレンズを通して「人間とは何か」「私たち現代人の抱える悩み」「世の中の流れ」を痛快に読み解く、新感覚・歴史キュレーションプログラムです。
では、次にコテンという会社をどのように運営していこうと思っているのかに触れていきましょう。
コテンは株式会社です。当然のことながら、資本主義社会の中の賃金労働制をとっています。企業としてお金を稼ぐ必要があります。当初は深井さんが他の会社で得た役員報酬を全てコテンに投入することによって運営をスタートさせました。そして1年以上前ぐらいから、ありがたいことに、個人サポーターの方々を募ることにより収入を得ることができるようになりました。また講演や顧問、取締役の収入により会社を運営し、コテンの未来をプレゼンし投資家を集めました。
この際、投資家の人たちには、「コテンの事業は金融商品ではないこと。未来の世界を作っていくための投資であること。もしくはこの事業に面白みを持っていただくことに投資いただきたいこと」を説明して、投資のお願いをしました。この時点で投資の性格は、非資本主義的な成り立ちであるということが言えます。
実は、コテンラジオを作るには月400万円程度かかるそうです。そして世界史データベースを作ることにも月何百万円というお金がかかるようです。このデータベースは人類が人類をより深く理解することに貢献するものだと思っています。そしてその事業運営のために、広告収入や一部有料化による収入を柱とすることや、オンラインサロンや講演活動などの収入も選択肢として挙がりました。こうした方法を否定するわけではありませんが、しかし番組を一部に限定することや広告主の意向に配慮したコンテンツをつくることは、コテンが掲げているミッション「メタ認知のきっかけを世界に提供する」とは違ったものになってしまうと思ったそうです。世界に、あまねく、知るきっかけを提供したいのに、制限を設けることは、その機会を損失させてしまうことにほかなりません。
市場経済学上では、人間は自分の欲求のために動くものと規定されます。自分にリターンのないものに対しては金銭を支払わない。でも、深井さんは、現代社会のような変化の速い時代では、この概念も変わり得るのではないかと説きます。つまり市場経済の性質が変われば、資本主義がポスト資本主義に移行するのではないかと考えているようです。そしてそれは、「ごく一部の人間の意識が変わるだけで、世界は変わる可能性がある」ことを指しています。深井さんは、この仮説をもって、コテン自身である社会実験をしようと話しはじめました。
今までの市場経済にはない、新しい資本主義の形で事業を存続させるためのサポータープラン(現:法人COTEN CREWと個人COTEN CREW 以下法人コテンクルーと個人コテンクルー)を作ったと高らかに宣言しました。
サポータープラン(現:法人コテンクルーと個人コテンクルー)について
コテンでは、法人、個人問わずにコテンクルーを募っています。これは、コテンのビジョンやミッション、世界史データベース、ポスト資本主義的経営といったチャレンジに共感する人たちによる金銭的なサポートで事業を成立させようとする取り組みです。このサポートに対して、資本主義的な考えでいうところの直接的なインセンティブは何も発生しません。分かりやすく言えばコテンラジオをマネタイズするのではなく、世界史データベース事業への支援と、「メタ認知のきっかけを世界に提供する」という我々のミッションへの金銭的な応援と考えていただきたいと話します。
振り切った言い方をすれば、今までの資本主義的な「見返り」と思われているものは何もありません。サポートをする価値は自分に返ってくるかもしれないし、自分ではない人にも返ってくるかもしれません。自分自身がサポーターとして参画することは、直接的・金銭的メリットがなくとも、社会全体、世界全体に還元することが喜びであるという価値を見出した人たちが、見返りを求めない事業や商品へお金を使うという、新しいお金の使い方を試す社会実験と言えます。
お金は大切です。でも、生活のうちの8割を自分の生活や自分自身のために使い、残りの2割を社会全体に還元することは、ホモサピエンスとして幸せなお金の使い方なのではないかと生物的見地からそう推測しています。そのうえで、深井さんは万が一、コテンの事業が成り立たなくなるようであれば、その時は資本主義に戻す可能性があることも告げました。
具体的な参加方法についてですが、法人コテンクルーは月5万円から、個人コテンクルーは月1000円からのサポートプランになっています。この値段設定も自己犠牲を払ってでもという意味ではなく、自身のリソースを少し割くことで世界が進むことに寄与し、参加することに喜びを感じる人に参加していただければと考えてのことだと説きます。
もしそれが例えごく一部の人達によるものでも、納得した新しいお金の使い方なのであれば実験としてやってみたいと考えました。この取り組みは、今の資本主義のシステムや、一般的な論理ではおそらく説明ができないものです。だからこそポスト資本主義で、資本主義上説明できないところに実は価値があると思っていると深井さんは語ります。仮にもし我々の事業がこの仕組みが成り立ったとしたら、これまでリソースが集まらなかったような世界に寄与する事業がもっと増えるかもしれません。そして万が一失敗したら時期が早かったとして、ステップを踏めると考えられるのではないかと思いました。このような新しい取り組み、ポスト資本主義の移行に参与したい人、コテンという固定観念から自らを解放するような活動をしていく会社に対して価値を感じる方は、是非一緒に船に乗ってほしいです。
以上、深井さん自身により、ポスト資本主義に対しどう思っているのか、そしてコテンが今後ポスト資本主義的な活動にどう移行していくのか説明してもらいました。
コテンラジオメンバーによる振り返り
ここからは少し、コテンメンバーによる感想をご紹介していきます。
資本主義には、恩恵もあれば、ダメージもあるということが整理できたそうです。今回のエピソードでは触れていませんが、例えば人類学や贈与という概念について、前近代社会では、物を贈り合っていました。法人コテンクルーは、クルーがコテンに贈り物をし、そのお返しはしないものの、別の贈り物として社会に還元していくのがデータベースやコテンラジオという形であると仰っています。これは単純な交換ではありません。でも、社会でそれが巡り巡っていけば、もしかしたら与えた人のところにも何かしらが返ってくるという循環を生み出しうるものです。
コテンラジオには、世界史に知見のないメンバーも参画しています。今回のテーマである資本主義に対する、歴史的、社会学的、経済学的医見地に基づくさまざまな言論は、難解ではあるが、コテンメンバーがその知見をコンパクトに整理したお蔭で、メタ認知が進んだという意見もありました。
また、コテンの活動やコテンラジオ自体は、「なんだか楽しそうだ」というワクワクするようなものを感じて仲間が仲間を呼び、利益を一切求めない資本主義的ではないスタートをしたそうです。そして深井さんはある方の「資本主義の中で利益を出すことは簡単であるが、社会にとっても人類にとっても良い形での利益を出すことにコミットするのは難しい」という言葉に感銘を受けたそうです。そして深井さんご自身が一起業家としてそこにコミットしていきたいと言う言及がありました。
以上、ポッドキャスト、コテンラジオより#233~#236までのエピソードを計4回に渡り再構成しお届けしてきました。最後はコテンさんの並々ならぬ覚悟を知った思いです。
昨今、さまざまな情報化社会に生きる私達は、いとも簡単に情報の渦の中に溺れてしまいがちです。人間とはいつも何かしら答えを探して苦悩する存在。でも実は答えのヒントは歴史の中にある、ということが今回のエピソードを通して再認識できました。歴史を学ぶことは、人類の活動に共通点を見出し、自身の考えや決断に迷わなくなることが可能になるのではないでしょうか。まさにコテンのミッション「メタ認知を高めるきっかけの提供」に共鳴しました。
COTEN RADIOとは
株式会社COTENの広報活動として2018年11月に始まった歴史系Podcastです。株式会社COTEN 代表の深井龍之介氏、メンバーの楊睿之氏と株式会社BOOK代表の樋口聖典氏の3名が、日本と世界の歴史を面白く、かつディープに、そしてフラットな視点で伝える人気番組です。Podcast、Youtube、Voicyなどで配信しています。。
>COTEN RADIOのホームページ
株式会社COTENの広報活動として2018年11月に始まった歴史系Podcastです。株式会社COTEN 代表の深井龍之介氏、メンバーの楊睿之氏と株式会社BOOK代表の樋口聖典氏の3名が、日本と世界の歴史を面白く、かつディープに、そしてフラットな視点で伝える人気番組です。Podcast、Youtube、Voicyなどで配信しています。。
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SMBCコンサルティングは「法人COTEN CREW」の一員です
SMBCコンサルティングは、COTENが掲げるビジョンやミッション、世界史データベース事業に共感・賛同し、2022年4月に「法人COTEN CREW」(コテン・クルー)の一員になりました。COTENでは、2020年にサポーター制度を導入。2022年1月から、企業であるCOTENと同じVisionを描き、同じ船に乗って未来へ共に進む仲間として「COTEN CREW」という名称でメンバーを募集しています。
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