コテンラジオと考える「ポスト資本主義」とは何か? 【第3回】 十人十色の言論に学ぶポスト資本主義

歴史を面白く学べるポッドキャスト「COTEN RADIO(コテンラジオ)」と連携した連載企画「コテンラジオと考える『ポスト資本主義』とは何か?」。ポッドキャスト上で公開された内容の書き起こし記事や、コテンラジオを運営する株式会社COTEN(コテン)のメンバーへのインタビューなどから、「ポスト資本主義」に迫ります。

第3回は、コテンラジオより「#235 ポスト資本主義―現代人が彩る新たな社会のグラデーション」を再構成してご紹介します。

さて、今回のコテンラジオのエピソードは、ポスト資本主義を唱える人々のさまざまな考えを聞いていきます。

歴史は変えることはできません。次の時代にシフトするということは、過去の歴史を否定し、新しいものに塗り替えることなのでしょうか、それとも過去の仕組みを利用して組み替えていくことなのでしょうか。本編では、ポスト資本主義に対するさまざまな言論についてコテンラジオのメンバーが紹介していきます。


ポスト資本主義に対するさまざまな考察

まずは、ポスト資本主義について書かれたさまざまな識者の著書をご紹介します。ポスト資本主義を掲げる学者や識者は大勢います。そのなかでも著書の多くに共通していたのは、「金融資本主義(マネーゲーム)を基本的に否定している」ことです。

金融資本主義は、サブプライムローンやリーマンショックのように、マネーゲームで稼ぎ続けていき、そして虚構に満ちた中身のない金融商品を作り続けていった結果、市場を崩壊させてしまったと多くの著者が認識しているようです。

以前のエピソードとの繋がりを補足すると、新自由主義により、政府が市場への介入を弱め市場経済を回した結果、規制緩和により金融商品や投機が成り立つ余地が生まれました。いまの現在の市場はその状況がさらに進んだ状態といえます。

ここからは、一人ひとりの著者にスポットを当てていきましょう。各々どのような課題に軸を置いているのか、ざっくりと深井さんが説明していきます。

前提として、金融資本主義については著者全員がNGを出していますが、環境問題や心の問題についての提言は、さまざまに異なる見解があります。そしてもう一つの軸として、ローカルに軸を置く考え方があります。例えば鎌倉資本主義、そして里山資本主義で語られる、市場経済によって破壊された地域コミュニティを復活させた方が良いという考え方に代表されます。深井さんが、さまざまな方と話す中で、相当数の人がポスト資本主義的な考え方を持っているものの、各々が持つ情報や資本主義に対する理解は、さまざまな派閥や分布によりグラデーションがあると仰っています。

もし、著者らの論調が体系化されたデータベースが出来上がったら非常に面白いですね。まさに歴史をディープかつフラットな視点で伝えていくコテンの真骨頂なのではないでしょうか?

「『公益』資本主義 」―原丈人

原丈人さんは、実業家や考古学者、ベンチャーキャピタリストといった多彩な顔があります。コクヨの創業家に連なる方でもあります。

原丈人さんが提唱する「公益資本主義」とは、会社は株主の物であることを明確に否定します。会社は株主のものではなく、顧客や取引先、社員など、社会に所属する多様なステークホルダーすべてのもの。そして、多様なステークホルダーにきちんと利潤を分配するよう経営をしていくべきと説きます。原さんは、会社は社会の公器であると仰っています。この考え方はどちらかというと、近江商人の三方よしのような伝統的な日本型経営の価値観に近しいものです。

また、公益資本主義の特徴として、明確に金融資本主義を否定している点があげられます。欧米型の経営の目的の多くが、株価の吊り上げにフォーカスしてしまっていると警鐘を鳴らします。特にストックオプション制度を否定しています。本来資本主義とは、実体経済を豊かにすべきもの。ところが、金融資本主義や株主資本主義は、株価のつり上げに主目的が置かれるようになってしまいます。

原さんは、資本主義をアップデートするにあたって、以下のポイントを重要視しています。まず一つ目に、短期的な投資ではなく「中長期的な投資」を推奨していくこと。これによって投機的な株主よりも、中長期的に企業を応援する株主の方が優遇されるようになることを意図しています。二つ目は、「社中分配」という概念の導入。これは先述した利潤を株主以外の多様なステークホルダーにも分配するという考え方になります。ステークホルダーのなかでも特に、会社を支える社員全体に公平に分配し格差や貧困の是正を図ることを期待しています。そして三つ目は、「起業家精神による改良改善」を続けていくことです。

さらに、企業の価値を利益のみで測ることを停止し、三つの指標を持つことが必要であるとしています。一つ目は、富の分配の公平性に対する指標。二つ目は、経営の持続性に対する指標。最後はイノベーションへの取り組みの指標です。この三つを企業指標にして企業価値を測っていくべきと説いています。そしてこの指標を実現するためのポイントとして以下のルールを設定しています。ルールその1「会社の公器性」ルールその2「経営者は公器に従事する人間であるという責任の明確化」ルールその3「中長期株主の優遇、短期株主の排除」ルールその4「株式の保有期間により売却税率を変える」ルールその5「ストックオプションの廃止」ルールその6「四半期決算の廃止」ルールその7「社外取締役制度の改善」原さんはこのように非常に具体的な指標を示されています。

「鎌倉資本主義」―柳澤太輔

柳澤大輔さんは実業家で、面白法人カヤックの代表取締役CEOです。鎌倉資本主義を提唱しています。柳澤さんは、経済成長を否定はしないが、既存の資本主義には課題があると考えています。この課題は、GDPという単一の指標を追い求めすぎた結果、富の格差が拡大し、地球環境汚染が広がったと続きます。

柳澤さんが提唱する三つの資本、①地域経済資本(財源)②地域社会資本(人とのつながり)③地域環境資本(自然や文化)。この三つの資本を指標化し、バランス良くいずれも伸ばすように動いていくことが大切であると説いています。このようなローカル軸を大切にするという考えは、先ほどの原さんの「公益資本主義」の中には見られなかった特徴ですね。

地域社会というステークホルダーに着目し、そのなかでも行政や民間企業、NPOが協力してバランスよくこの三つの指標を伸ばしていくと、その地域の人は幸せになるという提言をしています。

株主と共に地域資本を増大させると、地域の人たちが株主になることもあります。よって自身が最大のガバナンスとなって監視をされるので、その結果企業が公器となると説きます。そして、企業と地域、地域と地域、行政と地域がそれぞれにコミットすれば、全体的に良い循環が生まれます。


「里山資本主義」―藻谷浩介

藻谷浩介さんは、地域エコノミストで、日本総合研究所の主席研究員です。

藻谷さんは「里山資本主義」という考えを提唱しています。ローカルに軸を置きますが、鎌倉資本主義と似て非なる考えです。藻谷さんは、お金に依存しない資本主義の欠陥を補うサブシステム=セーフティネットで里山を活用して持続可能な豊かな暮らしを実現するという考え方を展開します。現状の社会では、生活物資を遠方からコストをかけて仕入れている状況です。しかし近いところで、里山を活用し、水道、燃料、食糧を調達できればコストが下がります。そして老後は、相互扶助のコミュニティを作ることができます。これは、狩猟採集民族に帰るという意味ではありません。金銭だけに依存するのではなく、ハイブリッド型のライフスタイルを実現し、資源の活用を最大限に生かして生きていこうとすることを目指しています。

「ポスト・キャピタリズム」ーポール・メイソン

ポール・メイソンは、イギリスのジャーナリスト兼ブロードキャスターです。ポール・メイソンは、資本主義は非常に適応能力があり柔軟なシステムだと説きます。しかしIT産業の跋扈は、基本的にコストや価格を限りなくゼロにしていく経済という性質であるため、本来市場経済とは相いれないものだとメイソンは指摘しています。これまでの新自由主義は、労働者や発展途上国から利潤を搾り取るシステムでした。そしてリーマンショックの勃発により、行き詰まりました。これまで当たり前に持っていた、労働や価値により生み出してきた利潤は限界を迎えたと説きます。そこで明らかになったのは、ここから先の時代はIT産業の技術革新によってのみ経済は成長し、利潤が生まれる可能性があることでした。技術革新によって直近に生まれたものに情報技術があります。情報技術の概念は市場経済による利潤の概念とは相いれないものではあるが、うまく組み合わせていかなくてはならないとメイソンは語っています。

メイソンの主張の面白いポイントは、今の社会のロールモデルはビジネスパーソンであり、個々の異なる知識を繋ぎ合わせた、イノベーションを起こせる人たち=知的エリートを生み出していかなければならないと主張しています。そして、このネット社会において、一人ひとりがスマートフォンを持つ世界では、誰でも知的エリートになれる可能性があると説いています。さらに、その知的エリートたちが生んだイノベーションによる利潤によって人々の生活を安全にするシステムを組む必要があると主張しています。

イノベーションによる価格をゼロにする行為は、辞書という価格をゼロにしたウィキペディアの例を見れば明らかです。一方、巨大な組織のGAFAは、情報技術の恩恵を受けているにも関わらず、情報を独占することで価格がゼロにならない施策を取っています。メイソンは、そういった巨大組織のスタンスは、本質的には情報技術の能力と逆行していると主張します。メイソンの進める異なる知識を繋ぎ合わせた新しい価値を見出すデータベースの構築はまさに深井さんご自身が目指すビジネスのカタチであると仰っています。

「脱成長」―セルジュ・ラトゥーシュ

セルジュ・ラトゥーシュは、フランスの経済哲学者であり思想家です。『脱成長』という書籍を紹介します。ラトゥーシュの思想は、経済成長は二つの欺瞞をはらんでいる、そして抽象的な経済成長とは宗教化したものであると説く点に代表されます。ラトゥーシュは、経済成長には限度があるという感覚を再発見させることが重要である、そして「際限のない消費」からの脱却=つまり脱成長であると指摘します。脱成長は政治的スローガンであり、際限のない収奪や生産を行わないこと、経済成長を崇拝しない態度のことを言います。

際限のない収奪や開発によって経済成長を進めていくということは、どうやら人間の幸福には繋がりません。同時に、環境の維持も不可能です。ラトゥーシュは三つの理由で維持が不可能と唱えます。第一に不平等と不正義の拡大を生じさせること。第二に偽りの豊かさを生み出してしまうこと。第三に資本主義は、富裕層自身の手によって、自らのクビを絞めていってしまう構造があること。共に生きるような生活環境を作らずに、反社会的な状況に追い込んでしまうと続けます。

これらは、以前のエピソードでご紹介した、市場経済が自分たちの生活を破壊していく話と一緒です。例えば、生活時間を含め貨幣計算されている現代社会。人間の生物としての営みが阻害されうつ病や食生活の乱れを引き起こしてしまっている現代社会。核家族化により、生活基盤としてのコミュニティが成り立たない現代社会。お金のやりとりのみであらゆるものをソリューションしようとする姿勢は、人間にとって不幸なことです。ラトゥーシュは、マイナス成長をしろと言っているわけではありません。また経済成長が起こらないということを言っているわけでもないのです。「経済成長を目指す」ことを止めるべきと説いています。


「ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す」― 山口周

山口周さんは、著作家、パブリックスピーカー、経営コンサルタントです。資本主義は、物質基盤の充足と成長限界に伴って、その役目を終えつつあると説きます。個がヒューマニティ(人間性、人間らしさ)を持って参画し、資本主義の仕組みをハックして、社会をより良いものに変えていこうとする考えを提唱しています。

我々の社会は既に物質的な不足を充足させるための文明化を目指した活動を終え、経済成長を追い求めることではない、新たなフェーズ=明るく開けた高原社会へと軟着陸しようとしています。この高原社会とは、右肩上がりに伸びていた時代と異なり、穏やかな上昇あるいは維持の状態を指しています。そしてその高原社会に必要なのは、人間性に根差した衝動による活動だと説いています。

深井さんの解説によると、山口さんは、しばしは低成長停滞衰退という言葉で表現されるネガティブな表現で現在の状況を説明するのは極めて不適切であると指摘しています。19世紀半ば以降私達が苛まれ続けてきた無限の上昇、拡大成長という強迫から解放された社会をどのようにしてより豊かで瑞々しいものにするかを構想して活動することが次の使命になるという考えです。そして、様々な制度疲労が指摘される資本主義の仕組みを全否定して新しいシステムを求めれば、観念の虜に陥る危険性があると警告しています。

深井さんは、現状資本主義に不満のある経済学者は、怒りを持って現状に対する不満ゆえの極端な話をしてしまう、しかし極端な話は極端なので、もしかしたら間違っているかもしれない中で、「山口さんは、それを全否定するのではなく、既に社会に根付いている資本主義の仕組みの原理の仕組みをハックする、乗っ取るということを考えた方が良いと、捉えているのではないか」分析しています。

さらに引き続き、山口さんの考えを見ていきます。

ハックした経済性原理、エコノミーの中に人間性の原理を稼働ロジックとして埋め込み、社会という集積回路において、プロセッサーの役割を果たす個人の演算に人間性を組み込みます。そして喜怒哀楽に基づいた衝動により労働と消費をします。そうすると、これまで経済合理性にハックされた思考や行動様式を再びハックし直すことによって経済合理性だけに頼っても解けなかった問題の解決ができるであろうと推測しています。そして大切なことは、一つ目は、未来のために今を犠牲にするという手段主義的な思考です。行動様式から変化をしていく事、そして二つ目は、そして永遠に循環するという自己充足的な思考です。行動様式への転換をしていく事が大切であると仰っています。
今までは、マックス・ウェーバーやその他の近代的概念の中では、未来を計算予測可能なものとして捉えてきました。それは未来のために、今を犠牲にして投資していくとされた概念でした。それが、永遠に循環していく感覚に変わっていきます。

そして、衝動による経済活動を取り戻すことで、過度の経済合理性の追求に停滞してしまった社会イノベーションが再び活性化することが予見できるとしています。

その実現のためには、教育福祉、税制等の社会基盤のアップデートが必要です。そして衝動に根ざした経済活動を促進するためにベーシックインカムの大切さについても山口さんは言及されています。高原社会の健全性や豊かさを計量するための新しい複数の指標が必要です。それをソーシャルバランススコアカードと呼んでいます。
そして、自分の衝動に気づいて行動して、仲間と一緒に働いて価値を出すことができる人材を育成するための教育制度の刷新が必要です。そしてそのために税制度をより高負担高福祉型に転換して、富のダイナミックな再分配を図ることを提言しています。


このように、ポスト資本主義と一言で言ってもさまざまな解釈と概念を持つ人達がいます。

さて、次のエピソードでは、いよいよ、株式会社コテンが、なぜポスト資本主義に舵を切った理由が、明らかになります。なぜ既存の資本主義的な利潤を追求することを第一とせず、法人サポーターや個人サポーターと繋がったのか、そして直接的な見返りを求めないビジネスモデルを築いていくまでのプロセスを探っていきます。


COTEN RADIOとは
株式会社COTENの広報活動として2018年11月に始まった歴史系Podcastです。株式会社COTEN 代表の深井龍之介氏、メンバーの楊睿之氏と株式会社BOOK代表の樋口聖典氏の3名が、日本と世界の歴史を面白く、かつディープに、そしてフラットな視点で伝える人気番組です。Podcast、Youtube、Voicyなどで配信しています。。
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SMBCコンサルティングは、COTENが掲げるビジョンやミッション、世界史データベース事業に共感・賛同し、2022年4月に「法人COTEN CREW」(コテン・クルー)の一員になりました。COTENでは、2020年にサポーター制度を導入。2022年1月から、企業であるCOTENと同じVisionを描き、同じ船に乗って未来へ共に進む仲間として「COTEN CREW」という名称でメンバーを募集しています。
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