Nrtpress 第2225号 段階的に施行! 民事訴訟法の改正でIT化される民事裁判手続

Point
1.ことし5月に民事裁判手続のIT化を主な目的とする改正民事訴訟法(以下「新法」、改正前を「現法」といいます)が成立し、公布日(5月25日)から4年以内に、段階的に施行されることが決まっています。
2.今回の法改正により、民事裁判手続はどう変わり、どのような影響があるのかなどについて確認します。


弁護士法人広島メープル法律事務所
弁護士 甲斐野 正行


1.改正の背景と経緯

日本の民事裁判手続は、申立て等に関しては書面での提出が必要なことや、関係者の多数が一堂に会さねばならないこと等、IT化の面に関しては他の先進国に比べてかなり立ち後れていました。


「裁判手続等のIT化検討会」で検討した結果、民事裁判手続のIT化について、以下の「3つのe」が提唱されました。


「e提出」
紙媒体の裁判書類を裁判所に持参・郵送等する現行の取り扱いに代え、24時間365日利用可能な、電子情報によるオンライン提出へ極力移行し、一本化していく。
「e事件管理」
裁判所が管理する事件記録や事件情報につき、訴訟当事者本人および訴訟代理人の双方が、随時かつ容易に、訴状、答弁書その他の準備書面や証拠等の電子情報にオンラインでアクセスすることが可能となり、期日の進捗状況等も確認できるしくみの構築を目指す。
「e法廷」
裁判所へ出頭する時間的・経済的負担を軽減し、審理の充実度を高めるため、民事訴訟手続の全体を通じて、テレビ会議やウェブ会議の活用を大幅に拡大することを目指す。


2020年2月から、法改正を待たずに、実務的な運用で実現できるIT化が先行して進められています。


具体的には、「e法廷」の一部として、裁判所と代理人弁護士の事務所をウェブ会議システムでつなぎ、当事者が直接顔を合わせることなく争点整理手続を行う取り組みがあります。


また、「e提出」の一部として、事件の訴訟代理人(弁護士等)が双方ともに希望する場合、24時間365日利用できる民事裁判書類電子提出システムを利用した裁判書類のオンライン提出が、ことし2月から試行されています。


そして、民事裁判手続をIT化するうえで法改正が必要な部分について新法が成立し、公布されたのです。

2.民事裁判手続はどのように変わるのか

(1)「e法廷」でこう変わる!

【争点整理手続等】

前述のように、ウェブ会議を利用した争点整理手続の運用が前倒しで開始されていますが、現法のもとでは弁論準備手続などでウェブ会議を利用するには、一部の当事者の出頭が必要となっています。


そこで新法では、こうした制約なくウェブ会議による弁論準備手続ができるように整備したうえで、本来公開の法廷に双方当事者が出頭することが必要とされた口頭弁論期日(事前に裁判所に提出した書面に基づいて主張を述べ、それを裏付けるための証拠を提出する期日)も、ウェブ会議で開けるようになりました。


進行協議期日についても、最高裁規則で同様の手当てがなされる予定です。


【証人尋問等】

新法では、証人尋問の点でも、当事者や関係者が裁判所に出向かずに柔軟に行えるようになりました。


まず、ウェブ会議による尋問が実施できる要件が緩和されました。現法下においても、テレビ会議システムによる尋問の規定はあるのですが、使える場面が極めて限定されていました。


さらに現法下では、ウェブ会議等を利用した証人尋問を行う場合には、証人が裁判所に出頭する(ただし、証人は法廷ではない別室にいて、ビデオリンクで法廷とつなぐ)こととされていましたが、新法では裁判所が相当と認めれば、当事者の意見を聴いて裁判所外でウェブ会議を用いた尋問もできることになりました。


これにより証人の協力が得やすくなり、裁判所への出頭のために、当事者、証人、裁判所の都合を合わせるのが難しく、尋問期日が先に延びてしまう事態も少なくなることが期待できます。


離婚調停でもウェブ会議での参加が可能とされ、暴力的な配偶者と対面せずに離婚成立が可能になりました。


(2)「e提出・e事件管理」でこう変わる!

現法では、当事者が裁判所に提出する裁判書類、裁判所が作成する判決書・調書・呼出状等は、すべて紙で提出・保管・管理がされていますが、新法では、これらの訴訟記録を電子化することで合理化を図りました。


【オンライン提出】

裁判書類は、現法では紙で裁判所へ持参するか、郵送かFAX(訴状等の一定の裁判書類は持参か郵送のみ)での提出しか認められていません。これでは手間も時間もかかりますし、FAXの場合は、再度明瞭な書類を郵送することもあります。新法ではオンライン提出が可能となり、こうした不都合の大部分が解消されます。


また、弁護士を立てる訴訟の場合は、裁判書類のオンライン提出が義務化されます。弁護士を立てない本人訴訟の場合は、IT弱者への配慮から、従来どおり紙の書面等による申立ても可能とされています。


【システム送達】

新法では、オンラインで提出された訴状等は、出力して紙の書面として相手方当事者に送達されるのが原則ですが、訴状等を受ける者がオンラインでの通知による送達(システム送達)を受ける旨の届出をすれば、システム送達により受領することができます。弁護士を立てる場合は、システム送達を受ける旨の届出が義務付けられますので、通常はシステム送達の対象となります。


【訴訟記録の電子化】

新法では、オンラインで提出された電子書類のほか、裁判所が作成する呼出状、判決書等も電子化され、訴訟記録は原則として電磁的に記録することとされます。


オンライン提出された証拠書類も、その電子データを事件管理システム上で取り調べることができます。


また、判決は、言渡し自体は新法においても、従来どおり公開法廷において口頭でなされます。


一方、判決書に関しては、現法では裁判官が作成した紙の判決書が当事者に窓口で交付または郵送されています。


新法では、裁判官が電磁的記録として作成した電子判決書(署名は電子署名)を事件管理システムにアップロードし、裁判の当事者は、このシステムに登録・アクセスして閲覧やダウンロードをすることになりました。


さらに、訴訟記録の閲覧等の場合は、現法では当事者も裁判所に出向く必要がありましたが、新法では訴訟記録の電子化に伴い、当事者および利害関係のない第三者は、電子訴訟記録を裁判所外の端末から閲覧・複写することができるようになりました。



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