Netpress 第2211号 所有者不明土地の発生を防止 2024年4月1日から相続登記が義務になる!

Point
1.所有者が亡くなったにもかかわらず相続登記がなされないと、登記簿を見ても所有者がわからず、不動産取引や災害復旧・復興事業を進められないなど、さまざまな問題が生じます。
2.そこで、所有者不明土地の発生を防ぐための法改正が行われ、相続登記が義務化されることになりました。
3.併せて、相続登記の義務化に伴う負担軽減策・環境整備策がパッケージで導入されました。


小林・福井法律事務所
弁護士 福井 大介


1.相続登記の義務化とその背景

2021年4月に、相続登記を義務付ける「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。


相続登記とは、不動産(土地・建物)の所有者が亡くなった場合に、その不動産の所有名義を、亡くなった方から遺産を引き継いだ方(相続人)へ変更する手続のことです。


民法等の一部を改正する法律により、2024年4月1日から、相続人に対して相続登記することが義務付けられることになりました。


今回の改正の背景には、所有者不明土地の増大があります。


2020年に行われた国土交通省の調査によると、国土の24%の土地の所有者が不明(所有者が判明しても、その所在が不明の土地を含みます)であったとのことです。


これまでは相続登記が義務付けられていなかったことから、登記しなくても相続人が不利益を被るということは多くありませんでした。


相続登記には費用や手間がかかることも所有者不明土地が増大した理由として挙げられています。


遺産分割を行うことなく、相続登記しないまま相続が繰り返されると、土地共有者がネズミ算式に増加してしまうことになります。


所有者不明土地が増えることによって、不動産売買などの取引に支障をきたすほか、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まないといった問題が深刻化しました。


また、所有者不明土地には、管理されずに放置されるものもあるようです。

2.相続登記義務化の内容

相続(遺言による場合も含みます)によって不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に、相続登記を申請することが義務付けられました。


また、後述する相続人申告登記制度を用いた後に遺産分割協議が成立した場合には、不動産を取得した相続人は、遺産分割協議成立の日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請しなければなりません。


正当な理由がないのに申請しなかった場合、10万円以下の過料(行政罰)の制裁があります。


正当な理由がある場合とは、次のようなケースが該当すると考えられています。



相続が繰り返されて相続人が極めて多数に上り、他の相続人の把握や、戸籍謄本等の必要な資料の収集に多くの時間を要するケース

遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース

相続人自身に重病等の事情があるケース


なお、施行日(2024年4月1日)前に発生していた相続についても、登記申請は義務付けられます。

3.実効性確保のための環境整備策

相続登記が義務付けられたことに伴い、その実効性を確保するために、次のような環境整備策がパッケージで併せて導入されました。



登記の手続的負担の軽減(2024年4月1日施行)

登記手続の費用負担の軽減(既施行)

登記漏れの防止(2026年4月までに施行)

地方公共団体との連携


①は、相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることによって、相続登記申請義務を履行したことにするものです。


遺産分割が未了の場合に、相続人が単独で相続登記を申請すると、本来、法定相続分の割合で共有持分が登記されますが、この相続人申告登記を用いると持分は登記されません。添付書類も簡略化されています。


なお、相続によって権利を取得したことまでは公示されません。この点で、相続人申告登記は、従来の相続登記とはまったく異なります。


相続登記の登録免許税の免税措置を延長・拡充したり、前述①の相続人申告登記への非課税措置を導入したりしたのが②です。


③の施策として、所有不動産記録証明制度が新設されます。特定の者が名義人となっている不動産の一覧を証明書として発行するもので、相続人が、相続登記の必要な不動産を把握するのが容易になります。


なお、この証明書の交付請求が可能な者は、本人または相続人その他の一般承継人に限定されています。


④は、主に、国が地方公共団体に対し、死亡届の提出者に対する相続登記の必要性に関する周知・啓発を要請するというものです。

4.その他の改正

相続登記義務付けのための措置ではありませんが、所有者不明土地の発生を予防する方策の一つとして、登記官による職権登記制度(死亡情報についての符号の表示)も新設されました。


これは、登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から不動産の所有名義人の死亡情報を取得した場合、その死亡の事実を職権で不動産登記に符号によって表示する制度です(2026年4月までに施行)。これによって、登記で名義人の死亡の有無を確認できるようになります。


同様に、住所等の変更登記の申請が義務化されます(2026年4月までに施行)。登記上の所有名義人は、その住所等を変更した日から2年以内に、住所等の変更登記の申請をしなければなりません。


正当な理由がないのに義務に違反した場合、5万円以下の過料の適用対象となります。



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