Netpress 第2203号 確認事項は?注意点は? 賃貸物件に入居する際の法律知識とトラブル防止策

Point
1.オフィスや借上社宅に入居する際には、賃貸借契約の内容等をしっかりと確認・理解することが重要です。
2.敷金や保証金、保証料、契約の更新に関して押さえておきたい法律知識や実務のポイントを解説します。


弁護士 大和田 準


1.賃貸借契約と敷金

賃貸借契約とは、賃貸人が賃借人に一定の物を使用・収益させ、その対価として賃借人が賃料を支払うとともに、契約終了時にはその物を返還することを内容とする契約です。


そして、賃貸人は、賃借人が賃料や共益費、原状回復費用などの賃貸借に基づいて生じる金銭債務を将来履行しなくなる可能性に備えて、一定額の金銭をあらかじめ預託させることがあります。この預託される金銭が、一般に「敷金」と呼ばれます(民法622条の2第1項)。


敷金は、賃貸借に基づいて生じる金銭債務を担保することが目的であるため、賃貸借が終了して賃借物が返還された後に、賃借人に金銭債務がなければ、その全額が返還されるのが原則です。


ただし、特に建物の賃貸借契約では、賃貸人が建物の原状回復を実施し、賃借人にはその費用を敷金から差し引いた残額を返還することが多いと思われます。

2.敷金と保証金の違い

金銭の名目が「保証金」であっても、ただちに敷金とその意味が異なるわけではありません。


先に述べた民法622条の2第1項は、「いかなる名目によるかを問わず」賃貸借に基づいて発生する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭を「敷金」と定義しています。


したがって、「保証金」という名目であっても、賃貸借に基づいて発生する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭であれば、その意味は法的には敷金と同じことになります。


大切なのは、「敷金」「保証金」という名目にとらわれず、契約書のなかで「敷金」や「保証金」についてどのような規定が置かれているのかをよく確認し、その内容を理解することです。


特に、契約書に「敷引き」や「償却」に関する規定が置かれているときは、注意が必要です。


「敷引き」「償却」とは、敷金の預託時または返還時に、預託された敷金のうち、契約で定めた一定額を賃貸人が取得することをいい、いわゆる「礼金」とほぼ同じ意味を有することが多いと思われます。


つまり、「敷引き」や「償却」は、預託した敷金や保証金のうち、契約書で定められた一定額が返金されないことを意味します。


契約書に「敷引き」や「償却」に関する条項がないかよく確認し、条項があるときは、その内容をよく理解したうえで契約を締結するようにしましょう。

3.「敷金なし・保証会社必須」の借り上げ社宅

敷金がない場合、賃借人は、退去時に原状回復費用を現実に支出しなければならないため、原状回復費用の額によっては、移転に合わせて想定外の支出を迫られる可能性があります。


また、入居にあたって保証会社の利用が必須である場合、賃借人には保証料の負担が生じます。保証料は、たとえ原状回復費用が発生しなかったときであっても、基本的に返金されません。


そのため、賃借人は、敷金があって保証会社の利用が必須ではない賃貸借に比べて、保証料の負担が加わるうえ、退去時に原状回復費用の現実の支出を強いられかねず、トータルの支出や退去前後の一時的な支出が高額になる可能性があります。


(1)保証会社の役割

賃貸人は、保証会社と賃借人の間で、賃借人が賃料等の賃貸借に基づいて発生する金銭債務の履行を怠ったときに、保証会社が賃借人に代わってその債務を履行することを約する一方で、賃借人が保証料を支払うことを約する保証契約を締結させることがあります。この保証契約は、敷金と同様に、賃借人の金銭債務を担保する役割を担います。


もっとも、保証会社が賃借人に代わってその債務を履行したときは、保証会社は、保証料とは別に、履行した債務の求償も賃借人に請求します。賃借人が支払った保証料は、賃料等の不払いや原状回復費用が発生しているか否かにかかわらず、基本的に返金されません。


(2)社宅に特有の留意点

会社が賃貸人から物件を借り上げたうえで、従業員にその物件を又貸し(転貸)する形式をとる場合、賃貸人に対して賃料支払義務や原状回復義務を負うのはあくまでも会社であり、従業員が会社に社宅費を支払わない場合でも、会社は賃貸人に賃料を支払わなければなりません。


従業員が会社を通さず、賃貸人に賃料を直接支払う運用にしても、法的には、従業員が不払いを起こせば、会社が賃貸人に賃料を支払わなければなりません。


なお、従業員による賃料・社宅費の不払いを防止するために、給料から控除(天引き)する場合には、会社は従業員代表者との間で賃金控除に関する協定を締結する必要があります(労働基準法24条1項)。

4.注意すべき賃貸借契約書の条項

賃貸借契約の締結に際して、更新の可否・条件に関する条項には、特に注意が必要です。


建物の賃貸借契約は、更新の可否の観点から、次の2種類に分けられます。


①普通賃貸借(借家)契約
②定期賃貸借(借家)契約


普通賃貸借契約は、賃借人から要求すれば、原則として、契約期間が満了しても契約を更新することができます。


言い換えれば、賃貸人は、たとえば建物の老朽化や賃貸人自ら建物を使用する必要があるなどの「正当の事由」がなければ、契約の更新を拒絶できません(借地借家法28条)。そのため、賃貸人から契約の終了を求める場合には、「正当の事由」を補完する事情として、立退料を提案されることもしばしばあります。


他方で、定期賃貸借契約は、書面による締結などの一定の条件の下で、契約の更新がないこととし、契約期間満了時に必ず終了となる契約です(借地借家法38条1項)。


賃借人は、契約を継続したいときであっても、法的には更新を求めることはできないため、賃貸人の合意のうえで契約を締結し直す(再契約する)必要があります。賃借人からすれば、普通賃貸借契約のほうが一般的に有利ですが、近時、特に都心のオフィスを中心に定期賃貸借契約が増えてきているとされます。


定期賃貸借契約の場合には、更新を求めることができないというデメリットと、その他の条件をよく比較衡量して、契約を締結すべきかどうかを慎重に検討することが大切です。



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