Netpress 第2196号 運送費上昇を抑えるために 物流業界の「2024年問題」で早めに取り組むべきこと

Point
1.働き方改革関連法により、2024年4月から、物流業界にも時間外労働の上限規制が適用されます。
2.ここでは、物流業界の「2024年問題」とは何かを確認したうえで、物流業界に求められる取り組みと、荷主である中小事業者への影響、対応を探ります。


行政書士 楠本 浩一


1.物流業界の「2024年問題」とは

物流業界の「2024年問題」とは、時間外労働の上限規制が適用されることによって生じる諸問題を意味します。


物流業界の労働環境は決して良好とはいえず、トラックドライバーの長時間労働などが大きな問題となっています。


現在、時間外労働の上限は、原則として年360時間(例外で年720時間)で、違反した場合の罰則も定められています。この上限規制は、大企業には2019年4月から、中小企業にも2020年4月から適用されていますが、トラック事業者(自動車運転の業務)等の一部事業・業務に関しては、2024年3月まで適用が猶予されています。


2024年4月からは、規制内容が一部異なるものの、トラック事業者(自動車運転の業務)にも上限規制が適用されることになりますが、規制の遵守は容易なことではありません。


長時間労働の削減に向けた取り組みを行わないまま、2024年4月から上限規制が適用されれば、ドライバー1人当たりの仕事量が制限されかねません。そうなると、時間外手当の減少による賃金低下で離職が加速し、ドライバーの数がさらに減少することも懸念されます。労働力不足により、「ドライバーが確保できないから、明日は荷物を運べない」といった事象が、現実に起こる可能性があるのです。


そうした事態を避けるためにも、猶予期間であるいまのうちに、物流業界全体で長時間労働の原因を特定し、改善に向けた取り組みを推進していかなければなりません。

2.物流業界に求められる取り組み

すでにさまざまな取り組みが行われており、物流業界全体が大きく変革しつつあります。


(1)物流DXの導入

物流のデジタル化を通じて、既存のオペレーションの見直し、働き方改革の実現などが図られています。たとえば、自動車運転時の速度・走行時間・走行距離などの情報を記録するデジタルタコグラフ(俗称:デジタコ)の導入や、トラック車両の現在地、到着時刻、実際の走行ルートが一目でわかる動態管理システムの導入などが挙げられます。


物流DXの導入により、ムリ・ムラ・ムダのない簡素で滑らかな物流への転換が進められているのです。


(2)労働力不足対策

ドライバー不足への対策として、物流業界ではいま、若年層や女性ドライバーを育成して、ドライバーの総数を増やそうとしています。


また、1運行当たりのドライバーの生産性を向上させるため、高速道路の活用、中継輸送によるドライバー交代、ツーマン運行(ドライバー2人が交代で運転する)によるワークシェアリング等、働き手にやさしい物流の実現に向けた試行錯誤が行われています。


(3)持続可能な物流ネットワークの構築

時間指定、1日2回配送、受注当日出荷、不在時の再配達など、業界の商習慣となっている過剰サービス、配送頻度、輸配送経路の見直しが、荷主やその顧客とともに進められています。

3.荷主側の中小企業への影響と対応

働き方改革の狙いは、時間外労働時間を削減して、なおかつ、賃金水準を維持することです。トラック事業者は、典型的な労働集約型産業で、費用に対する直接人件費が約4割を占めています。


ドライバーの時間外労働を削減しても賃金水準を維持するためには、運送費の値上げは避けられず、荷主側は、トラック事業者から値上げ要請を受ける可能性があります。


運送費の上昇を最小限にとどめるには、荷主側としても、発注形態や現状のしくみを改善する必要があります。


(1)運送以外の作業時間の削減

ドライバーの労働時間は、実際に運転している時間だけではありません。荷待ち、積込み・積降ろし、ラベル貼りや検品等の附帯作業に多くの時間をとられています。


以前は、これらすべてが「運賃」に含まれましたが、標準貨物自動車運送約款等の改正により、2017年11月からは「運賃」と「料金(運送以外の役務等の対価)」を区別して取り決め、荷主都合による荷待ち時間の対価として「待機時間料」を規定することなどが定められています。荷主側としては、現状の契約内容を見直して、荷待ち時間、積込み・積降ろし時間を改善することが最重点課題となります。


①荷待ち時間の短縮

荷待ち時間を短縮するためには、出荷時間の厳守が重要です。生産の遅れが常態化して、毎日1時間以上の荷待ち時間が発生しているような場合は、生産部門と調整して、出荷時間を変更するなどの対応を行いましょう。出荷が週末や月末に集中する場合などは、非常に難しいことですが、顧客や調達先と調整して、平準化することが大切です。


また、「トラック予約受付システム」の導入も有効です。作業内容やトラックの到着(予約)時間を可視化できるので、積込み作業場の空き状況の把握、ドライバーへの連絡等の効率化が図れます。


②積込み・積降ろしの効率化

積込み・積降ろしを効率化するには、車上受け・車上渡しの条件で契約して、ドライバーは積み込まれた荷物を運ぶだけにすることが考えられます。積込み・積降ろしは、荷主側や委託先の倉庫会社が行います。


荷主側が自社で積込み・積降ろしをするには、パレットやかご台車、折りたたみコンテナを使用した荷姿にして効率よく作業をすることが求められます。初期コストがかかりますし、関係する事業者との調整なども必要になります。


(2)物流業界のホワイト化

荷主側の企業としても、トラック事業者や倉庫会社を巻き込んで現状のやり方を改善し、ドライバーの労働時間削減につながる施策を考えるべき時期にきています。


国土交通省は現在、業界団体・トラック事業者・荷主企業を巻き込んだ「ホワイト物流」推進運動を展開しています。そのなかで、①トラック事業者の法令遵守への配慮、②契約内容の明確化・遵守、③自主行動宣言の提出への協力を荷主企業に対して要請しています。



2024年4月に向けて、トラック事業者のドライバー不足により、必要なトラック台数が確保できない、といった問題も発生してくる可能性があります。日頃より、トラック事業者とは、Win・Winのパートナーとして、困ったときに助けてもらえるような関係を築いておくことが重要です。



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