マネプラ・オピニオン ファシリティマネジメントという考え方

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



社会や世界が変化していくとき、組織も次の姿を考えねばならなくなる。例えば高度経済成長や株価の上昇期に建物を増やしていった組織は、経済全体が下り坂になって節約が不可避となったとき、そのメンテナンスや維持が重荷になる。しかし、だからと言って、簡単にほかに移るわけにはいかない。ではどうするか?


総長を務めていた法政大学にも、そういう悩みがあった。学部数が増え、学生数も増え、それに合わせて高層ビルも建て、新しい建築物も建てた。


しかし私が総長になった時代は、少子化が確実となり、東京23区の大学の定員規制が厳しくなり、しかもコロナ禍を体験した。人気が出て受験生は増えたが定員を増やせない。従って収入も増えない。そこが企業とは違うところだ。教育研究環境の整備と財政健全化のバランスをとっていくことが、大学経営なのである。


大学の施設部はそれまで、建物を新築することが役割だった。しかしこれからは計画的に減らし、既存のものをメンテナンスして使用期間を延ばさねばならない。従来、お金を使うのは建築だったが、今はデジタルシステムのリプレイスにも多くの費用がかかる。そこで「ファシリティマネジメント」という考えに沿って既存の建物リストをつくり、コスト低減、安全な長寿化、改築計画を練っていくことにした。


そのために施設部と経理部を合体して財政企画部を新設した。デジタルシステムの費用や理工系の研究備品も、ファシリティマネジメントの対象になる。


こういったことを総長退任後に日本経済新聞の連載で書いたところ、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会からインタビューを申し込まれ、講演も行うことになった。その過程で私も学んだ。


それは、ファシリティマネジメントとは単に一組織の問題ではなく、未来社会をマネジメントする上でも重要だということである。持続可能な地球をつくっていく上で、SDGsの17目標とも不可分であり、今までとは異なる方向に向かうためのマネジメントなのである。



◎「SMBCマネジメント+」2022年6月号掲載記事

プロフィール

法政大学 前総長 田中 優子

(たなか・ゆうこ)1980年度より法政大学専任講師。その後、助教授、教授。2012年度より社会学部長。14年度より総長。21年度より名誉教授、江戸東京研究センター特任教授。専門は日本近世文化・アジア比較文化。研究領域は、江戸時代の文学、美術、生活文化。『江戸の想像力』、『江戸百夢』、『カムイ伝講義』、『未来のための江戸学』、『グローバリゼーションの中の江戸』、『布のちから』、『江戸問答』など著書多数。サントリー芸術財団理事。TBS「サンデーモーニング」のコメンテーターも務める。

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