Netpress 第2183号 法人税や地方税など オフィスの縮小・移転時に留意すべき税務上の取り扱い

Point
1.働き方や働く場所の多様化によって、オフィスを縮小したり、移転・廃止したりする動きが加速しています。
2.ここでは、オフィスを縮小する場合と、移転後に新オフィスに入居した場合の税務上の取り扱いを確認します。


公認会計士・税理士
森 智幸


1.オフィス面積を縮小する場合


(1)有形固定資産の除却損の損金算入

オフィス面積を縮小すると、有形固定資産の除却(固定資産の取り壊し・廃棄)が行われることが多くなります。


たとえば、パーテーション、自社購入した机や椅子、ロッカーやキャビネットなどは、オフィスを縮小すると一部は不要になるので、廃棄業者に引き取ってもらうことになります。除却が行われると、会計上は固定資産除却損が発生します。


有形固定資産の除却に関する税務上の注意点は、以下のとおりです。


①除却損の否認のリスク

有形固定資産の除却を行う際には、除却を行ったことを客観的に証明できるようにしておかなければなりません。


固定資産除却損は、法人税の計算上、損金の額に算入することができますが、実際に除却が行われたことを証明できないと、税務調査で損金算入を否認されてしまう可能性があります。


②除却に関する手続の整備

税務上、固定資産除却損の否認を避けるためには、まず除却に関する手続を整備します。具体例としては、除却の手続を社内で定める、除却を行うときは稟議で承認を得る、といったことが挙げられます。除却の承認を得る際には、除却対象資産のリストを作成し、どの固定資産を除却するのかを明らかにしておく必要もあります。


③実際に廃棄したことの証明

除却の事実を証明できるようにしておくために、信頼できる適切な廃棄業者、引き渡した除却資産を適正に廃棄してくれる業者を選定します。すなわち、品質面での評価も必要です。


そして、実際に廃棄を行う際は、除却資産を確実に引き渡し、そのうえで廃棄証明書を発行してもらいます。もちろん、廃棄業者からの請求書や領収書といった証憑も保存します。


また、廃棄業者に引き渡す際は、複数の従業員が立ち会うようにするとよいでしょう。なぜかというと、この作業を1人で行った場合、実際には除却資産を引き渡していないにもかかわらず、廃棄証明書を偽造して廃棄したように装い、ネットオークションなどで売却する、自宅に持ち帰る、といった不正行為も想定されるからです。


④固定資産除却損は消費税の課税対象外

固定資産除却損は、消費税においては課税対象外となり、廃棄業者に支払った対価は、消費税において課税仕入となります。


(2)一括償却資産の除却

一括償却資産については、滅失、除却等の事実が生じたときであっても、当該各事業年度に損金の額に算入される金額は、一括償却延資産の計算における損金算入限度額に達するまでの金額となります。


つまり、一括償却資産の場合は、残存帳簿価額を固定資産除却損として計上することはできず、あくまで、もともと一括償却資産の計算で行う金額が損金算入限度額になるということです。


(3)事業所税

オフィスの縮小によって事業所床面積が変わってきますので、事業所税の申告義務がある会社は、資産割の計算を誤らないよう注意する必要があります(事業所税の詳細は、課税団体によって異なります)。

2.オフィスを移転する場合

オフィスを移転する場合も有形固定資産の除却が行われますが、税務上の注意点は前述したものと同様です。


以下では、新オフィスに入居した後の税務上の注意点について解説します。


(1)敷金や保証金の不返還部分

①不返還部分は法人税法上の繰延資産

敷金や保証金は、賃貸借契約書によって、その一部が返還されないことが明らかになっていることがあります。


この返還されない部分の金額は、建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用として、法人税法上の繰延資産に該当します。会計実務では、長期前払費用として計上することが多くみられます。


したがって、賃貸借契約を締結したときは、契約書の内容をよく確認し、返還されない部分の金額の有無、返還されない部分がある場合はその金額を把握しておく必要があります。


②償却期間

敷金や保証金の不返還部分は、法人税法上の繰延資産に当たりますので、償却処理が必要です。


償却期間は原則として5年ですが、契約による賃借期間が5年未満の場合で、契約の更新に際して再び権利金等の支払いを要することが明らかであるときは、その賃借期間となります。


③少額繰延資産の特例

支出額が20万円未満の少額な繰延資産は、その支出した事業年度において損金経理をすれば、その全額を損金の額に算入することができます。


④消費税等の注意点

敷金や保証金の不返還部分は、権利の設定の対価となることから、消費税の処理においては、資産の譲渡等の対価として課税の対象となります。したがって、返還されない部分は課税仕入として処理します。


(2)造作の耐用年数

造作が、建物についてされたときは、その建物の耐用年数、その造作の種類、用途、使用材質等を勘案して、合理的に見積もった耐用年数により償却します。その建物の耐用年数を適用するものではないことに注意が必要です。


一方、造作が、建物附属設備についてされたときは、建物附属設備の耐用年数により償却します。ただし、その建物について賃借期間の定めがあり(賃借期間の更新ができないものに限ります)、かつ、有益費の請求または買取請求をすることができないものは、その賃借期間を耐用年数として償却することができます。


(3)異動届出書の提出

住所が変わりますから、所轄税務署、都道府県、市町村に異動届出書を提出します。


(4)事業所税

オフィスの移転により事業所床面積が変わる場合、事業所税の申告義務がある会社は、資産割の計算を誤らないよう注意する必要があります(事業所税の詳細は、課税団体によって異なります)。



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