アンガーマネジメントとは? 怒りの発生原因と制御する方法を解説

人間の代表的な感情表現である、『喜び』『怒り』『哀しみ』『楽しみ』をひとつの言葉として表したものに『喜怒哀楽(きどあいらく)』があります。又、人は自分のプラスになると信じる人間・もの・出来事に接近し、自分のマイナスになると信じる人間・もの・出来事を回避する人間の習性を「接近と回避の法則」と呼びます。『喜び』と『楽しい』という感情は、心地よい感情ですから対象に対して接近反応を促進します。逆に『哀しみ』は、不快な感情ですから対象に対して回避反応を促します。ところが、『怒り』は、不快な感情であるにもかかわらず、対象への接近反応を促進するという他の感情に見られない特殊な側面があります。そしてその接近が、対象を傷つけるばかりか、時として自分自身や怒りの対象でない周りの人々をも傷つけることにつながるのです。本記事では、1970年代にアメリカで開発された、「アンガーマネジメント」という怒りと上手に付き合うための心理的トレーニングを紹介し、適切な「怒り」を皆さんと考えていきたいと思います。

1.怒りとは

多くの人は、『怒り』を嫌悪すべき感情であり、できれば感じたくないものと考えています。

 

古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスでさえ、『誰でも怒ることは出来る─それはたやすい。だが、適切な相手に、適切な度合いで、適切なときに、適切な目的の為に、適切な怒り方をすることは、たやすいことではない。』という言葉を遺すくらい、扱いが難しい感情とも言えます。

 

怒りに関する心理学的な研究や脳科学的研究は多く、いくつかのアプローチに大別されます。「怒り」をコントロールするためには、「怒り」が発生するシステムについて理解することが必要です。それでは、それぞれを概観して見ていきましょう。

 

(1)進化的アプローチ

怒りの感情は、生存に必要不可欠な「基盤」であったために進化の過程で残されたものであり、人間のさまざまな感情の中でも根源的な感情であるとする考え方です。

 

動物の生存本能として、外敵に対しては、「闘争か逃走か」しかありません。

 

心理学的には攻撃しようとする際の顔面表情に注目が集まり、怒りの定義は、文化を超えて不変とされる顔面表情によって定義されることが多く、「引き寄せられた眉と緊張したまぶた、四角い口」などが特徴とされています。

 

(2)生理的アプローチ

環境に対する身体的反応が感情体験を引き起こすという考え方です。例えば、外敵と出会うなどの緊急事態に直面した時、「闘争か逃走か」のための身体的反応が感情を引き起こすとしています。

 

つまり、このアプローチでは、怒りは「心拍数や拡張期血圧の大幅な増加と、高い皮膚表面温度がもたらす感情で、何かを殴りつけたり、引き裂いたりしたい衝動を伴う」といった定義となります。

 

例えば、怒りの表情を予め作ることによって、それに応じて感情が喚起されることは、いくつかの研究によって判明していますが、怒りの源泉となる身体的反応を何が引き起こしているかの説明が不十分であるとの批判もあります。

 

(3)動因―行動的アプローチ

欲求不満などの不快感情によって、攻撃行動が引き起こされるプロセスを扱う立場です。

 

ここでの欲求不満とは、ある目標に向かって行動が開始され、目標達成のための努力が始まったにもかかわらず、それが途中で妨害された状態のことを指します。

 

不快感情によって生起する攻撃のレディネス(心の準備性)と状況内の手がかり刺激(武器など、攻撃を連想させる刺激)によって攻撃行動が生じるとされています。

 

不快感情にある被験者に、武器などの手がかり刺激を与えると攻撃しやすくなることが実験により確認されています。

 

「怒りからの攻撃行動が、衝動的なものである」と仮定しているところが特徴的です。 

 

(4)認知的アプローチ

認知的アプローチは、怒りの感情の発生における思考の役割を強調し、環境の中での出来事に対する個人の評価から怒りの感情が生じるとする立場です。

 

心理学でいう認知とは、人間などが外界にある対象を知覚した上で、それが何であるかを判断したり解釈したりする過程のことをいいます。

 

同じ出来事に遭遇したとしても、その出来事に「怒り」が起こるかどうかは、「意味づけ」にかかっています。



 

例えば、職場で同じミスが発生した場合でも、新入社員が起こした場合と、ベテランが起こした場合、あるいはミスの大きさやその時の気分など意味づけの次元の違いによって、怒りの発生や度合いが違うということです。

 

このアプローチから「怒り」は「個人が何らかの被害を受け、その被害の責任が特定の他者にある時に生じる感情」と定義することが出来ます。

 

(5)社会構成的アプローチ

怒りを欲求不満に対する原始的な反応ではなく対人関係を調整することに役立つ、高度に洗練された感情であるとする立場です。

 

また、怒りは道徳的判断を含み、社会規範の維持・確認などにも役立っていると考えられています。この立場からは、認知的アプローチが重視している、個人利益の侵害に対する怒りだけでなく、規範逸脱に対する怒りも存在することになります。

 

「〇〇であるべき」や「〇〇するべき」などの規範は特定の文化や道徳によって共有された慣習やルールであることから、「怒り」は所属する社会に大きな影響を受けることになります。

 

このアプローチからは、「怒り」は「自己または社会への物理的もしくは心理的な侵害に対する自己防衛もしくは社会維持のために喚起された、心理の状態」と定義されます。

 

(6)アドラー心理学の「怒り」へのアプローチ

フロイトやユングと並ぶ著名な心理学者であるアドラーは、「怒り」を『ある感情(第一次感情)が「怒り」というかたちで表面化したもの』で『怒りは第二次感情である』としています。

 

言い換えると、人は不安や恐怖など、自分の中に受け入れがたい「第一次感情」があるときに、それを隠すように怒るという言動をとるものだという考えです。

 

●第一次感情:不安・寂しい・つらい・悲しい・心配・苦しい・落胆・悔しい

●第二次感情:怒り

 

又、アドラーによれば、感情は、ある状況で、特定の人(相手役)に、ある目的(意図)をもって発動されるとされており、怒りの目的にあるのは、大きく次の4つです。

 

ⅰ)支配:相手を自分の思いどおりに動かしたいとき

ⅱ)主導権争いで優位に立つこと:交渉などで相手よりも優位に立ちたいとき

ⅲ)権利擁護:誰かに自分の権利・立場を奪われそうになったとき

ⅳ)正義感の発揮:正しい(と自分が思っている)ことを教えてやりたいとき

 

いずれの要素にも、根底には「~しなければならない」「~べき」という信念があるとしています。

 

(7)脳科学から見た「怒り」へのアプローチ

次に、脳科学の観点から、「怒り」のシステムを見ていきましょう。




まずは、大脳の構造を説明します。大脳は、大きく分けると「大脳新皮質」「大脳辺縁系」「脳幹」という3つの構造で構成されています。

 

怒りの感情が生じるときに関わるのは、大脳新皮質と大脳辺縁系という2つの場所です。

 

大脳新皮質:思考や判断といった、私たちがよりよく生きるための「知性」に関することを司る。

大脳辺縁系:意欲や情緒といった、私たちの本能に近い「感情」に関することを司る。

 

大脳辺縁系は、サルや犬、うさぎやトカゲのような動物も共通して持っている原始的な部位で、人間を含めたそれぞれの動物の本能的な行動や感情に関わっています。

 

たとえば、「強そうな敵が現れた。不安だから逃げよう。」「自分の縄張りを侵す者がいる。戦いを挑もう。」といったときには、大脳辺縁系が活性化します。

 

一方、怒りなどのさまざまな感情をコントロールする機能や理性的な判断、論理的な思考やコミュニケーションといったことを行うのが、大脳新皮質のなかにある「前頭葉」と呼ばれる場所です。

 

感情的な状態から冷静さを取り戻すことができるのは、前頭葉が活性化するせいだと考えられています。 

 

つまり、怒りの感情は、「大脳辺縁系で生じ、それを前頭葉で抑える」というシステムで、この2つの部位の働きによって、怒りの感情は引き起こされたり抑制されたりしています。

 

ただし、前頭葉は常に感情をコントロールする役割を果たしてはいるのですが、突発的に発生する怒りの感情には、すぐに対応できず、前頭葉が本格的に働きはじめるまでにかかる時間は35秒程度と考えられています。

 

2.アンガーマネジメントの進め方

それでは、「怒り」の感情をコントロールすることで、健全な人間関係を作り上げていく技術である「アンガーマネジメント」の具体的な進め方を見ていきましょう。

 

(1)進化的アプローチから考える

怒りは脅威に対する自然な適応反応であり、ある程度の怒りは生き残るために必要なものだと述べました。

 

無理に怒りを抑え込むと、表現されなかった怒りは、別の問題を生み出す恐れもあります。そのため、怒りの感情を攻撃的にではなく明確に主張し、他人と自分を尊重する技術としてのアンガーマネジメントが必要です。

 

(2)アドラー心理学を応用した解決策  

「どうしてそんなにミスをするんだ。いい加減にしろ。」職場でこのように上司が怒っているところを目にしたことのある人は多いと思います。

 

この場面をアドラーの考え方で分析すると、仕事をこのままでは任せられないという「不安」や、指導しても成長が遅いという「落胆」の第一次感情を受け入れられず、部下に対して、もっと注意深く仕事をするように行動を「支配」することを目的に「怒り」が発生していると捉えます。

 

ここで、もし、上司が第一次感情をうまく相手に伝えられたらどうなるでしょうか。「これだけミスが重なると仕事を任せることに不安になるよ。」「前回のミスの際に、対応策を考えたつもりだが、再発してしまい残念だ。」と伝えることが出来ます。

 

こういった表現の方が、自分も相手も不快にせず、こちらの思いを伝えることが出来るようになるのです。 つまり、第一次感情を伝える言い方に変えることで、「怒り」の表現を抑えることが出来ます。

 

(3)生理的アプローチから考える

怒りは「心拍数や拡張期血圧の大幅な増加と、高い皮膚表面温度をもたらす感情」であると述べました。

 

感情と体は相互に影響し合っており、怒りは身体的反応を生じさせますが、逆に、身体的反応を低減させることで、怒りを抑制することも出来るのです。

 

具体的には、簡単なリラクゼーション方法である深呼吸やイメジェリー(リラックスした状況を思い浮かべること)を用いて低減させることができます。

 

簡単な深呼吸の方法

 

〇お腹を膨らませながら、鼻から大きく息を吸い込む

〇体中に吸い込んだ空気が行き渡るのを感じつつ数秒そのまま

〇お腹をへこませつつ、口から息を思いっきり吐きだす。

〇からっぽになった肺の中に、再び鼻から新鮮な空気を取り入れる

〇「リラックスして」「気を楽にして」など、穏やかな言葉やフレーズを深呼吸をしながら自分自身に向かって繰り返しこれらの言葉を話しつづける

 

イメジェリー(リラックスした状況を思い浮かべること)を用いる

 

〇怒りが湧いたときに、その怒りに対処できるような心がおちつく光景を思い浮かべることです。デスクの上に、お気に入りの風景の写真や絵を置いておき、しばらく眺めてみるのもよいでしょう。

 

(4)動因―行動的アプローチから考える

「カッとなって頭に血が上った」というような場合、売り言葉に買い言葉のような状況を回避するために、怒りから攻撃に向かう衝動的な行動を抑制する必要があります。 

 

脳科学を使った解決策 

「怒り」の状態から冷静さを取り戻すことができるのは、前頭葉が活性化するためですが、本格的に働きはじめるまでに35秒程度かかると考えられています。

 

つまり、前頭葉が活性化するまでの時間をやり過ごすことが出来れば、怒りに任せた行動を抑制することが出来ます。「カッとなって頭に血が上った」という表現を使うときは、多くの場合、その後の行為に対する後悔の言葉が続きます。

 

そういう意味では、「アンガーマネジメント」は後悔のない怒り方をするする技術とも言えます。


具体的には、

〇100から「97949188……」などのようにカウントダウンを行う。

〇「大丈夫。なんとかなる」「怒るより話を聞いてみないとわからない」など心が落ちつく言葉を言い聞かせる。

などの方法により、前頭葉が活性化するまで上手く時間稼ぎをしましょう。

 

(5)認知的アプローチから考える

「あの取引先は何かと私に難癖をつけるので腹が立つ」「ちゃんと運営できるようにしっかり準備しろと言ったのに」など、外的な要因のせいで「怒り」を感じることは多いと思います。

 

このような状況は、自分自身の感情が誰かにコントロールされている状態だと言えます。認知的アプローチは、「怒り」は「出来事」に対する「意味づけ」によって発生する感情であり、自分が生み出したものであると教えてくれています。

 

したがって、解決策は、簡単に言うと「意味づけ」を変えることで怒りを発生させないようにすることです。又、怒っている時は考えが誇張されたりしますので、そのような考えを合理的なものにする努力をすることも大切です。

 

「あの取引先は何かと私に難癖をつけるので腹が立つ」と考えるかわりに「あの取引先は、私のことを頼りにしてくれているので、信頼に応えよう」や「十分にサービスは提供しているので、自分が怒りを感じるのは当然だ。でも世界が終わるわけではないし、怒ることで問題が解決するわけでもない」と自分に言い聞かせるのです。

 

また、皆さんもこれまでに、思い込みで怒ってしまったという経験をされていると思います。誤解に気付けば、当然怒りは解消されますが、自分自身の「意味づけ」の間違いになかなか気づけず、怒りを持ち続けている場合もあります。

 

「ちゃんと運営できるようにしっかり準備しろと言ったのに」ではなく、「ちゃんと」や「しっかり」の程度を相手と具体的に話し合っておけばよかったと考えてみる方が、よほど健康的です。不正確な言葉によって、怒りを正当化しても何も解決はされません。

 

また、怒りやすい人は、色々なことを相手に欲求する傾向にあることも覚えておき、自分自身を振り返ってみることも大切です。

 

(6)社会構成的アプローチから考える

社会構成的アプローチの中心にあるのは、怒りの発生と対象への行動は、学習あるいは規則に左右され、文化によって違ってくるという考え方です。


「部下は上司より早く帰るべきではない」や「営業は足で稼ぐものなので、事務所にはいるな」など、今ではそれほど聞かなくなりましたが、30年ほど前なら、上司が部下に対してよく言っていた言葉です。

 

少し、拡大した解釈になりますが、これも当時は社会的に認められた規則の一つだったのです。

 

「〇〇すべきなのに」という怒りは、非常に注意が必要です。「べき」は時代や環境によって変化することを覚えておかなければなりません。

 

「ダイバーシティ(多様な人材を積極的に活用しようという考え方)」や「インクルージョン(多様な人々が対等に関わりあいながら一体化している状態)」は、異なる価値観を認め合うことによって達成されます。

 

怒りやすい人はすぐに結論に飛びつきがちですが、落ち着いて自分がどういう規則に基づいているのかを伝え、同時に相手の言い分をよく聞き、良いコミュニケーションをとることが大切です。

3.まとめ

「怒り」は、必ずしも悪い感情であるとは言い切れません。「怒りを原動力にして」何かを成し遂げたという経験をお持ちの方も多いと思います。

 

そういう面から言えば「アンガーマネジメント」はマイナスな結果を引き起こす原因となる「怒り」を抑え、プラスの結果を生む「怒り」によって建設的な行動を呼び起こすテクニックと言えるかもしれません。

 

「アンガーマネジメント」は、練習すればだれでも身に付けることが出来る「技術」です。実際に、医療の現場でも多くの実績から裏付けられています。今回ご紹介した方法はほんの一部ですが、参考にしていただければと思います。


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