Netpress 第2174号 有効に機能させるために ハラスメント相談窓口の運営のノウハウ

Point
1.4月から中小企業にもパワハラ防止措置が義務化されましたが、相談窓口の機能不全は経営リスクです。
2.適切にハラスメント相談窓口を設置・運営し、ハラスメントのない働きやすい職場を目指すことが重要です。


特定社会保険労務士
三戸 礼子


1.ハラスメント相談窓口を設置する目的

改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)により、2022年4月から中小企業に対してもパワーハラスメントの相談窓口の設置等が義務化されました。


義務を怠った場合には、法律違反として処分の対象になり、企業名公表といった社会的制裁措置がとられる場合もあります。企業名が公表されれば企業イメージはダウンし、人材確保が困難になったり、上場企業であれば株価が下落したりするなど、経営へのインパクトも大きいでしょう。


パワハラに限らず、「相談窓口の設置と体制の整備」は、ハラスメント対応への第一歩に過ぎません。最も重要なことは、その体制をうまく機能させて、現に起きているハラスメントによる職場環境の悪化を改善すること、そしてハラスメントのない働きやすい職場を目指すことです。

2.相談窓口の活用の実態

企業に対しては、すでにセクシュアルハラスメントやマタニティハラスメント等の防止対策が義務化されていることもあり、中小企業においてもハラスメント相談窓口の設置自体は進んでいます。


しかし、多くの企業では、ハラスメント相談窓口が有効に活用されていないのが実情です。では、なぜ従業員は相談窓口を利用しないのでしょうか。考えられる理由は2つあります。


1つは、従業員が相談窓口の存在を知らない、もしくは利用の仕方がわからないという場合です。


これは、単に従業員に対する周知の仕方に問題があるだけですので、解決方法は簡単です。たとえば、ポスターを掲示したり、イントラネットでアナウンスしたりして、相談窓口の認知度を上げればよいのです。


問題なのは、もう1つの理由です。従業員が相談窓口に対して不信感を持っていること、つまり安心して相談できるような体制・環境が整っていないケースです。


たとえば、相談窓口の利用について、従業員が次のような印象を抱いていないでしょうか。


・相談窓口の担当者が管理部門の担当役員や上司であるため、相談しにくい
・相談したことをハラスメントの行為者に知られ、報復を受けそうで不安を感じる
・相談しても会社が必要な対応をしてくれないので、相談自体がムダだと感じている


こうした状態では、相談者の信頼が得られず、相談窓口は機能しないでしょう。その結果、ハラスメントの実態に気づかずに対応が遅れて精神疾患者や退職者が続出するなど、経営上の大問題に発展することにもなりかねません。

3.安心できる体制・環境づくりのポイント

ハラスメント相談窓口に対する不信感を払拭し、本来の目的を達成できるようにするためには、次のような運営のポイントに留意しながら、体制・環境を整備することが重要です。


(1)安心して相談できる担当者を選任すること

①できるだけ男女を含む複数の担当者を選任する

原則として、相談者と同性の担当者の同席が好ましく、ラインの上司が担当者とならないように配慮すべきです。セクハラやマタハラといった相談の場合には、女性の担当者のほうが適任であることもあります。


②ハラスメントや人権問題に十分な理解を持つ

相談者の心情に配慮しながら、中立・公正な立場で相談を受けられる人であることが望まれます。


③専門スキルの研修を受けている

担当者のスキル不足は、問題をこじらせる原因にもなります。担当者に対しては、その役割を理解させ、専門スキルを向上させるような研修を受けさせることが必須です。


(2)相談者の秘密を守れる体制を整備すること

①相談者のプライバシーが確保できる部屋を準備する

相談者が相談していることを周囲に知られないような環境づくりが大切です。プライバシーに配慮した相談受付のしくみも整えておく必要があるでしょう。


②内部だけでなく、社外の相談窓口の設置も検討する

ハラスメントは、基本的には職場内の問題であるため、自社の相談窓口を利用して、自社で解決するのがスムーズですが、外部の相談窓口を設置することも検討しましょう。


たとえば、弁護士や社会保険労務士が代行している相談窓口の活用です。専門家に依頼することで、ハラスメントという行為の深層に潜む問題があぶり出されることもあるでしょうし、迅速な問題解決も期待できます。


(3)相談窓口の対応を明確にすること

①複数の相談方法を用意し、周知する

相談は対面に限定せず、電話や手紙、電子メール・オンライン面談など、さまざまな選択肢が準備されていれば、相談窓口の利用がしやすくなります。


また、匿名や代理による相談にも対応すべきですが、その場合には事実確認の調査ができず、解決に至らない可能性もあることを周知しておく必要があります。


②相談窓口の役割(事実関係の整理)を周知する

相談窓口の役割は、相談者が話す内容を正確に聞き取り、事実関係を整理することです。原則として、相談内容について担当者が意見等を表明することはありません。この点をあらかじめ周知しておきましょう。


そうしておかないと、アドバイスを期待していた相談者からのクレームなど、トラブルにつながります。


③相談対応の全体の流れを周知する

相談者は、相談から解決までの道筋がわからないと不安を抱きます。「相談 → 事実関係の確認 → 必要な措置の検討・実施 → 関係者のフォロー → 再発防止策の検討」といった一連の対応の流れを明確にしておきましょう。

4.問題の早期発見・解決につなげる

相談窓口では、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生の恐れがある場合や、ハラスメントに該当するかどうかが微妙な場合であっても、広く相談に応じることが重要です。


どんなに些細なことでも、従業員が積極的に相談窓口を利用するようになれば、ハラスメントの芽を早期に摘むことができます。ハラスメントを早期発見し、早期解決を図ることで、ハラスメントのない働きやすい職場を目指しましょう。



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