Netpress 第2165号 賃上げ促進税制、グループ通算制度など 2022年度税制改正と本年度の税務トピック

Point
1.2022年度も、税務や経理の分野において、さまざまな改正等が行われることになっています。
2.ここでは、企業として押さえておくべき主な事項と、その影響、対応などについて解説します。


税理士法人日野総研
代表社員・税理士 高井 大輔


1.2022年度税制改正

税制については、ここ最近大きな改正がない傾向が続いていますが、2022年度についても特に大きな改正は行われず、その傾向が続いています。


そのなかで注目の改正といえば、賃上げ促進税制の改組でしょう。この賃上げ促進税制は、当初、所得拡大促進税制と呼ばれていました。導入から10年近くが経過しますが、その間に8回も改正されており、ほぼ毎年見直しが行われている制度です。


今回の賃上げ促進税制の改組は、端的にいうと、新規雇用者への支給増から継続雇用者への支給増促進へと、2020年度以前の仕組みに戻るような改正になっています。


上乗せ措置との合算で、税額控除率が最大で30%、中小企業に関しては最大40%になり、適用した際には大きな影響のある税額控除です。


グループ通算制度に関しても、導入前の段階でしたが、投資簿価修正制度の見直しや時価評価資産の範囲の見直し、繰越欠損金の持ち込み要件の見直しなどが行われました。


個人税務では、近年の低金利傾向を踏まえて住宅ローン控除の控除率が1%から0.7%に引き下げられ、控除対象借入限度額も引き下げられるなどの改正が行われました。


また、電子取引情報の電磁的保存強制適用について、2022年1月1日から2023年12月31日までの宥恕措置も整備されました(詳しくは後述)。

2.連結納税制度からグループ通算制度へ

2020年度税制改正において、連結納税制度を見直し、グループ通算制度へ移行することとされました。グループ通算制度については、上記のとおり、2022年度税制改正でも一部見直しが行われています。


今年度の大きな税制改正というと、連結納税制度に代わって、グループ通算制度が2022年4月1日以後開始する事業年度から導入されたことでしょう。


従来の連結納税制度は、完全支配関係のある連結グループを納税主体として、グループ全体で計算し、按分調整などを行っていたことから、非常に複雑でした。また、修正申告などについても、グループ全体でのやり直しとなることから、その事務の煩雑さが問題となっていました。


グループ通算制度では、単体納税ベースにグループ調整計算を加味する計算方法へと移行することになりました。


具体的には、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算と申告を行い、そのなかで損益通算等の調整をします。


実際にグループ通算制度で税額計算をするのは、2023年3月期決算からになるわけですが、税効果会計などでは、差異解消年度での繰延税金資産・負債を計算するため、早いところでは、2022年3月期決算からグループ通算制度を前提とした税効果会計を早期適用するところもあります。


また、連結納税からグループ通算への制度移行を契機として、そもそも制度自体の適用をとりやめるという選択も可能となりました。


そのため、いったんは連結納税を採用したものの、中小企業特例の使える連結納税グループなどでは、制度の適用を再考する機会となるでしょう。

3.電子帳簿保存法の改正と2022年度の宥恕規定

電子帳簿保存制度が規定する電磁的記録は、大きく分けて次の3種類があります。


①自らがパソコンを使用して電磁的に作成したもの
②取引先からもらったものなどをスキャナ保存したもの
③そもそも取引情報自体を電磁的にやり取りしたものの取り扱いを定めたもの


これらについて、2021年度税制改正により電子帳簿保存制度の要件が緩和され、事前承認制が撤廃されるなどの改正が行われました。


③については、もともと事前承認制ではなく、出力して紙で保存することも認められていました。


しかし、2021年度税制改正により、2022年1月1日以降、電子取引情報の電磁的記録を出力して紙で保存することは、一切認めないこととされました。


強制適用であるうえに、青色取り消しや損金否認などの対象になるかもしれないということで、この改正はクローズアップされることになりました。


ただ、あまりにも準備の時間が少なく、移行への体制が整わない企業に対する配慮から、2022年度税制改正において、2022年1月1日から2023年12月31日まで、この規定を宥恕するという措置が講じられました。


したがって、2023年12月31日までに行う電子取引については、保存すべき電子データを出力して紙で保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば問題はありません。


とはいえ、2024年1月1日以降、電子取引情報は電磁的に保存しなければ証拠資料として認められない、ということは「決定事項」となっています。


まだ、1年半以上もあるではないかと思われるかもしれませんが、2023年10月1日以降、2月のネットプレス第2153号でも取り上げた消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されることになります。そのインボイスも、電子インボイスが一般的になるかもしれません。


つまり、ポイントは、現状の会社にある電子取引情報を網羅するだけではなく、今後起こり得る電子取引情報をも考慮に入れて、どのような保存体制を構築するのかということです。


会社として、電子取引情報をどのようにやり取りしているのかを網羅的に把握したうえで、電子取引情報をどこに、どのように保存するのか、といったことについて、総務や経理はもとより、対外的に取引する営業や購買などの担当者も含めて、統一的な仕組み作りを行うことが必要となります。


そうした準備をすべて整えなければならないことを考慮すると、残された1年半は、決して余裕のある時間とはいえないでしょう。速やかに準備に取りかかる必要があります。



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