Netpress 第2155号 シン・働き方改革の進め方 「ゆるブラック企業」と言われないために

Point
1.「ゆるさ」が「ブラック」になってしまったのは、将来に対する不安が高まったことに原因があります。
2.多様性に配慮するだけの働き方改革は、その「ゆるさ」を強めてしまうことにもなりかねません。
3.多様性への配慮に加えて、チャレンジを促す評価・報酬制度を整備することが必須となります。


セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 平康 慶浩


1.ストレスなく働けるのは、良いことだったのでは?

「ゆるブラック企業」という言葉を聞くと、良いことのような、悪いことのような、不思議な感覚を覚えます。


『日経ビジネス』の特集で広まったこのキーワード。端的に言えば、「ストレスなく働けるけれど、やりがいも成長もない会社」のことを指しています。


このキーワードが広がったのは、なんと若い世代の転職市場においてだそうです。「働きやすい会社だけれど、このままここにいて大丈夫なのかな?」という疑問を感じる人が増えているのです。


けれども、「ストレスなく働ける」ことを求めていたのは、若い人たち自身じゃないのか、と感じる方も多いでしょう。


「ストレスなく働ける」ようにするために、良心的な企業では、サービス残業をなくすことはもちろん、定時で帰れるように業務の効率化を進めてきました。


また、ハラスメントが生じないように研修を行い、管理職の教育も進めてきました。


しかし、その結果が「ストレスなく働けるけれど、やりがいも成長もない会社」だと言われ、優秀な若手社員が去って行ってしまう、ということなら、何のために変革を進めたのかがわからなくなります。


では、いったいどこが間違っていたのでしょうか。


2.「ゆるさ」がダメになってしまったのは、将来不安のため

実は、「ゆるい」会社は新しく出てきたわけではなく、以前から存在していました。また、それは必ずしも「悪い」会社という位置づけではありませんでした。


典型的には、大企業の子会社・孫会社などで、取引先はすべて親会社、というような場合です。




こうした関係にある場合、子会社や孫会社の主要ポストは、すべて親会社からの天下りで占められることが一般的でした。


また、親会社がコンプライアンスを強く意識している場合には、残業やハラスメントなどは決して行わないような取り組みが進んできました。


そして、プロパー社員には、決められた業務をミスなく、遅れなく進めることが期待されてきました。


そのような会社では、「ストレスなく働ける」ことがメリットでもあったのです。


大半の職種が一般職と派遣社員で構成されることが多かったので、管理職になりたくない従業員たちと、決まったことだけをやってほしい会社側と、双方の利害が一致していたからです。


しかし、長寿命化や年金給付水準の引き下げなどの将来不安が高まるなかで、昨日と同じ今日、今日と同じ明日が決して望ましいものではない、とも感じられるようになってきました。


この環境変化によって、今ゆるやかに働くことよりも、将来への備えを優先しなければいけないのではないか、という不安が高まったことが、「ゆるブラック企業」が生まれた原因なのです。


だとすれば、会社側としては、どうすればよいのでしょうか。


3.チャレンジを促す人事制度が必須

大事なことは、働きやすいことを当然としたうえで、将来不安を解消することです。


そのためには、将来にわたって、会社も個人も安心である状況を作り上げなければなりません。それはすなわち、会社にとっては売上や利益の成長であり、個人としては能力と成果を伸ばすことです。


この状況を作り上げるために、「チャレンジを促す人事制度」が必須となるのです。


不安の原因は、変わらない売上であり、年老いていく自分自身にあります。


だから成長しなければいけないのですが、成長は新しいことや難しいことにチャレンジすることによって加速します。そのための評価と報酬の仕組みをしっかり作り上げなければなりません。


実際に私が働き方改革を支援する際には、必ずチャレンジを促す人事制度改革をあわせて行っています。働きやすくするだけでは、ゆるくてぬるい会社になってしまうからです。


会社というのは、利益を上げ続けることで存続していきます。利益を上げるには、過去と同じことをするだけでなく、新しいことや難しいことに取り組み、成長し続けなくてはいけません。そのために、自ら成長し結果を出したくなるような、行動変革の仕掛けとしての評価・報酬制度が必須となるのです。


昔からの年功処遇が残っている場合には、どうしても会社にしがみつくタイプの40歳台、50歳台の中高年社員が目立つようになります。


そのような先輩社員や上司を見て、若手社員は「このままだと、自分もあのようになってしまうのか」と不安を感じ、転職してしまいます。


「ゆるブラック」という状態は、そんな先輩社員や上司たちを指し示す言葉でもあるのです。


4.成果を評価できれば働き方は多様にできる

「ゆるブラック企業」という汚名を着せられてしまった際には、チャレンジを促す人事制度改革を含めた、シン・働き方改革を進める必要があります。


チャレンジを促すためには、「有言実行」と「心理的安全性」の両立が求められます。


●有言実行 → 自分が宣言したことを確実に実行できる有言実行の制度
●心理的安全性 → 年齢や役職を問わず提案し、失敗したとしても再起できる心理的安全性


これらを兼ね備えた人事制度と働き方改革によって、会社は「ゆるブラック」を脱却できるようになります。


もし、多様な働き方を目指すだけの改革を進めてしまっているのであれば、ぜひチャレンジを促す人事制度改革について検討してみてください。



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