Netpress 第2515号 改正法が10月1日施行! 「カスハラ」対策の義務化で企業に求められる実務対応
1.2026年10月1日に改正労働施策総合推進法が施行され、「カスタマーハラスメント」(以下、「カスハラ」)の防止措置が、事業主の法的義務として明確化されます。
2.ここでは、改正法の施行に備えた事前準備と企業に求められる実務対応について解説します。
厚生労働省の「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下、「指針」)に基づき、事業主が講ずべき措置は、大きく「(1)方針の明確化と周知・啓発」「(2)相談体制の整備」「(3)事後の迅速かつ適切な対応」「(4)プライバシー保護と不利益取り扱いの禁止」の4点に集約されます。
以下、指針の内容も踏まえて、企業の実務対応について解説します。
1.「過度な要求」と「正当なクレーム」の線引き〜判断基準の策定〜
カスハラ対策を行ううえで最も悩ましいポイントは、「どこまでがお客様の声(正当なクレーム)で、どこからがカスハラなのか」という線引きの難しさにあります。現場の従業員が迷わず対応できるよう、企業として明確な「定義」と「判断基準」を設ける必要があります。
厚生労働省のマニュアルおよび指針では、次の2つの軸でカスハラを定義しています。
① 要求内容の妥当性(その要求は、契約や社会通念に照らして正当か?)
② 手段・態様の相当性(その要求の仕方は、社会通念上許容される範囲か?)
この2軸を基にした「カスハラの判断マトリクス」(下表)を作成し、現場に共有することが実務の第一歩です。
| 判断区分 | 具体的な言動・行為の例 | 対応方針 |
| 犯罪・違法行為 | ・殴る、蹴る、物を投げる(暴行) ・土下座の強要 ・店舗への不法侵入、不退去 | 即時の警察通報・対応打ち切り |
| 悪質・迷惑行為 | ・大声での怒鳴り散らし、人格否定 ・長時間(例:30分以上)の居座りや電話 ・SNSへの無断投稿、ネットでのさらし行為 | 組織対応への切り替え・警告 |
| 過剰・不当要求 | ・規定外の過剰な金銭補償要求 ・社長や責任者への不当な面会要求 ・従業員の解雇や処罰の要求 | 毅然とした拒絶 |
| 正当なクレーム | ・商品・サービスの欠陥への指摘 ・接客態度への苦情 ・企業側のミスに対する正当な補償要求 | 誠意ある対応 |
2.顧客向けの注意書き・掲示(抑止力の確保)
カスハラ対策は、「起きてからの対応」だけでなく、「起こさせない環境づくり」も重要です。
「カスハラに対する基本方針」(お客様へのお願い)を店舗、受付、自社ウェブサイトなどに掲示することは、悪質なクレーマーへの牽制になると同時に、従業員に対して「会社はあなたたちを守る」というメッセージになります。
作成のポイントとして、「警察等の外部機関と連携する」という文言を入れることで抑止効果を高めます。
また、「厚生労働省の指針に基づき」と記載することで、自社の勝手なルールではなく社会的要請に基づくものであることを示し、顧客の納得感を得やすくします。
3.従業員が被害を受けた際の対応手順
現場の従業員がカスハラに直面した際、パニックにならずに対応することができるよう、具体的な現場対応のアクションフローを定めます。
(1) 1人にならない(複数名対応)
相手が激昂し始めたら、すぐに他のスタッフを呼ぶか、またはバックヤードにいったん下がるようにします。1対1の状況は恐怖心を増幅させ、言質を取られるリスクを高めます。
(2) 記録を残す(可視化)
指針では、カスハラ対応における録音・録画は、正当な業務行為として広く認められています。「品質向上のため録音させていただきます」等のアナウンスを入れたうえで、堂々と録音してください。メモも有効な証拠です。
(3) 判断を保留する
その場での即答(金銭補償の約束や、個人の責任を認める発言)は避けます。「私の一存では判断いたしかねますので、持ち帰って会社として回答します」というフレーズを従業員に徹底させましょう。
4.企業におけるカスハラ対応のフロー例
組織としてどのように事案を処理するか、エスカレーションフロー(報告経路)を整備します。
●ステップ1:発生・初期対応
| ① | 従業員…相手の言い分を傾聴し、メモを取る。「ご不快な思いをさせて申し訳ありません」といった(相手の感情に対する)限定的な謝罪を行う |
| ② | 判断…相手の言動が「判断マトリクス」(前頁表)の「犯罪・違法行為」または「悪質・迷惑行為」に該当するか確認 |
●ステップ2:エスカレーション・警告
| ① | 従業員…「これ以上の対応は私では難しいため、責任者に代わります」と告げ、上長(店長・管理者)へ代わる |
| ② | 上長…事実確認を行い、カスハラと認定した場合は、相手に対し「お客様、そのような大声を出されますと、他のお客様のご迷惑になりますのでおやめください」「そのような暴言を続けられるようでしたら、対応を打ち切らせていただきます」と明確に警告を行う |
●ステップ3:対応打ち切り・排除
| ① | 上長…警告しても止まない場合、「これ以上の対応はいたしかねます。お引き取りください」と通告(退去要求) |
| ② | 警察連携…退去要求に応じない場合は不退去罪(刑法130条)、暴力や脅迫があるがある場合は即座に110番通報を行う |
●ステップ4:事後措置・ケア
| ① | 記録保存…対応記録、録音データ、防犯カメラ映像の保存 |
| ② | 被害者ケア…被害を受けた従業員の心身のケアを行う。産業医との面談設定や、必要に応じて配置転換、休暇の付与などを検討する。ここをおろそかにすると、安全配慮義務違反を問われる可能性がある |
| ③ | 再発防止…事例を社内で共有し、マニュアルを更新する |
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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