Netpress 第2516号 システムに振り回されない! 経理業務を起点にしたデジタル活用の進め方
1.システムを導入したものの、結局使いこなせない、かえって負担が増える、というケースは少なくありません。
2.ここでは、それらの原因を明らかにしたうえで、経理業務を起点にしたデジタル活用の進め方を考えます。
1.DXを進めるうちに迷走してしまう理由
経理部門は、営業や購買をはじめとする各部門の現場で生じた取引や活動の結果を「数字」や「帳票」として取りまとめるアンカーのような役割を担っています。必要なデータや資料が揃って初めて処理を進められるため、経理の業務が滞っているように見える場合でも、その原因が前工程にあることは少なくありません。
たとえば、請求書の取りまとめに時間がかかり、月次決算が遅れてしまうケースを考えてみましょう。
一見すると、作業が遅れる原因は経理にあるように見えますが、実際には、必要な情報が揃わないまま、前工程から請求書が経理に回ってくるため、経理側で確認や差し戻しが発生していることが原因という場合があります。つまり、前工程における情報不備のしわ寄せが、経理に集中してしまうのです。
2.問題が顕在化する前工程に目を向ける
このような状況を改善するうえで参考になるのが、「シフトレフト(Shift Left)」という考え方です。もともとはソフトウェア開発の分野で使われてきた言葉で、工程を時間軸や作業順に並べたときに左側に位置する前工程へと、課題解決の取り組みを移していくことを意味します。

問題が顕在化してから対処するのではなく、できるだけ工程の前半で手を打つという発想です。これを請求書発行業務に当てはめると、トラブルや手戻りが発生してから経理で対応するのではなく、その原因となっている前工程の業務やルールに目を向けることが重要になります(右図参照)。
経理は最終工程に近い立場だからこそ、前工程の影響を強く受けます。前工程の影響を強く受けるにもかかわらず、経理業務という後工程だけを切り出し、システムを導入することで改善しようとすると、本来は前工程で解消すべき問題が置き去りにされたままになるのです。その状態では、「システムに業務を合わせる」かたちで対応せざるを得ず、確認作業や例外対応が増えて、かえって経理担当者の負担が大きくなってしまいます。
DXやシステム導入を考える際は、いきなり「どのシステムを導入するか」という話に入るのではなく、「どの工程で無理が生じているのか」「本来、どこを整理すべきなのか」といった前工程の課題に目を向けることが、有益な第一歩になります。経理からさかのぼって前工程を見直すことこそが、DXを形だけで終わらせず、実務に根付かせる近道です。
3.業務内容を言語化し関係者の認識を揃える
システム導入を検討する前にまずやっておくべきことが、「業務の要件定義」です。ここでいう要件定義とは、自社の業務をできるだけそのままの言葉で整理し、関係者の認識を揃える作業を指します。
業務の要件定義を考える際には、完璧な業務フロー図や専門的な資料をつくる必要はありません。最初は付箋やスプレッドシートなどに複数人で書き出しながら、最終的にはA4の紙1枚にまとめるかたちで、業務を適度な抽象度で言語化します。この作業で重要なのは、業務を図や雰囲気で理解したつもりになることではなく、関係者が同じ言葉で業務を説明できる状態をつくることです。
本来、業務の見える化や要件定義は、経理担当者だけで完結させるものではなく、前工程を担う現場や他部署と一緒に行うのが理想ですが、中小企業では、最初から関係部署すべてを巻き込むのが難しいケースも少なくありません。そのような場合は、まず経理側で整理した内容を叩き台として共有し、確認や補足をしてもらうところから始めましょう。
関係者の認識をすり合わせていくと、「その情報は伝わっていると思っていた」「そこまで求められているとは知らなかった」といったズレに気付くことができます。このズレこそが、後工程である経理に負担を集中させる大きな要因です。
システム導入を検討する前に業務の要件を整理しておくことで、「何をシステムで処理し、何を人が担うべきか」も見えてきます。結果として、導入後のギャップを減らし、実務に合ったデジタル活用につなげることができます。
4.課題を洗い出し優先順位を決める
次に取り組みたいのが、「課題の整理と優先順位付け」です。いきなり「どのシステムを入れるか」を考えるのではなく、まずは現状の課題を書き出してみることが重要です。業務を言語化してみると、これまで当たり前だと思っていた業務の進め方やそのなかで発生している手戻りのなかに、さまざまな課題が潜んでいることに気付きます。これらは、特定のシステムを前提にしなくても整理できる、業務そのものの問題です。
課題を書き出す際は、経理担当者だけで机に向かって考えるよりも、関係者が集まり、付箋などに1つずつ書き出していく進め方をお勧めします。このとき留意すべきなのは、個々の業務を否定する場にしないことです。どこで負担が大きくなっているか、どこで手戻りが発生しているかを「共有する」ことが目的です。
洗い出した課題はそのままにせず、優先順位を付けて整理します。ここで有効なのが、「効果」と「実行のしやすさ」という2つの軸で考える方法です。改善による時間短縮や品質向上といった効果が大きいかどうか、また、関係者が少ない、業務範囲が限定されているなど、実行に移しやすいかどうかを基準に整理していきます。
すべての課題を一度に解決しようとする必要はありません。効果が高く、実行しやすいものから着手することで、小さな成功体験を積み重ねやすくなります。この積み重ねが、社内の理解や協力を得るうえでも重要な役割を果たします。
課題と優先順位が整理されていれば、「そもそもシステム導入が必要なのか」「どの業務からデジタル活用を進めるべきか」といった判断も自然に見えてきます。
5.導入後に始める運用の確認と改善
デジタル活用は、システムを導入して終わりではありません。むしろ、導入後からが本当のスタートです。
実際に業務を回し始めると、事前に想定していなかった使いづらさや業務とのズレが見えてくることも少なくありません。例外的な処理が発生したり、時間の経過とともに業務要件そのものが変化したりすることで、当初はうまく回っていた運用に少しずつズレが生じてくるのは自然なことです。
そのため、システム導入後は業務を回しながら、定期的に振り返る場を設けることが重要です。この振り返りにおいて、経理は重要な役割を担います。最終工程に近い立場にある経理は、日々の処理を通じて変化や違和感に気付きやすいからです。経理が感じたことを言語化し、関係者と共有するようにしましょう。
業務や運用は、周囲の環境や人の入れ替わりなどに応じて変わるものという前提で、小さな見直しを積み重ねていく姿勢が、結果としてデジタル活用の失敗を防ぎ、業務を改善し続けていくことにつながります。
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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