Netpress 第2127号 段階的かつ確実に 「経理業務のオンライン化」こうすれば実現できる!

Point
1.コロナ禍で働き方が大きく変わりましたが、経理業務のオンライン化は難しいとの声が多いようです。
2.何がオンライン化を阻んでいるのか、どのようにして問題を解決していけばよいのかについて解説します。


税理士 林 義章


経理業務のオンライン化が進まない要因として、「カミ(紙)」から脱却できない、「カネ(金)」の問題で出社せざるを得ない、「セキュリティ」面の不安が拭えない、といったことが指摘されています。


以下、経理業務のオンライン化を阻む壁を突破する方法を解説していきます。

1.「カミ」から脱却するには

経理業務のオンライン化を阻む最大の原因は、なんといっても「カミ」の問題でしょう。


経理業務においては、法律上、保存が義務付けられている会計帳簿や請求書、領収書などのほか、経費精算申請書、出張申請書、稟議書などの社内手続用の書類など、多くの「カミ」を取り扱います。経理業務をオンライン化するためには、こうした「カミ」の書類から脱却する必要があります。


経理部門が取り扱う「カミ」のなかでも、ペーパーレス化しやすいのは社内手続用の書類です。クラウド会計ソフトや経費精算アプリを使うことにより、経費精算をオンライン化できるとともに、業務を効率的に進められるようになります。


稟議書についても、グループウェアソフトを利用してオンライン化すれば、手元に「カミ」の稟議書がなくても、時間や場所にかかわらず、社内手続を経た適正な支払いであることを確認し、経理処理を進めることができます。


一方、ややハードルが高くなるのが、帳簿書類のペーパーレス化です。


帳簿書類は、会社法によって10年間、税法によって7年間(繰越欠損金が生じた事業年度は9年間または10年間)の保存が義務付けられており、原則として書面で保存することとされています。


帳簿書類については、電子帳簿保存法により、電子帳簿の保存や、請求書、領収書などの書面をスキャンして電子データで保存すること(スキャナ保存)が可能となっています。しかし、電子帳簿については大企業のみにとどまり、スキャナ保存に至っては、ほとんど普及していないのが実情です。


そうした状況下、コロナ禍に見舞われたことで、なかなかペーパーレス化が進まなかった経理業務においても、テレワークの推進が社会的要請となりました。


そこで、令和3年度税制改正において電子帳簿等保存制度の見直しが行われ、令和4年1月1日以後の帳簿書類の電子保存手続が抜本的に簡素化されます。




この見直しにより、帳簿書類の電子保存についての税務署長の事前承認の廃止、スキャナ保存についてのタイムスタンプ付与までの期間の最長約2か月以内への統一、検索要件の緩和など、帳簿書類について「カミ」から脱却するハードルが大きく下がった印象があります。


残るハードルは、電子化に対応した社内のオペレーションの変更です。


これまでの「カミ」を前提としていた業務処理から、電子化を前提とする業務処理へと変更する必要があります。


経理人材についても、税務や会計の知識だけではなく、ITリテラシーの高さが求められるようになるでしょう。

2.「カネ」の自由度を高めるには

経理業務のオンライン化を阻む2つめの壁は、「カネ」の問題です。社内に用意している小口現金の管理や、銀行取引の問題を解決する必要があります。


まず廃止や縮小を検討すべきなのは、小口現金制度です。少額の資金決済であれば、役員や従業員が立替払いをし、その後経費精算をするという流れにすることで、社内に現金を用意する必要がなくなります。


もちろん、一時的にせよ、従業員にとって負担となるような金額を立て替えさせたくないという会社もあるでしょう。その場合には、事前に会社が直接支払うことができないか、現金払いから振込へ変更できないかなどを検討し、変更できるものは変更して、現金をなるべく扱わないようにします。


銀行取引に関しては通帳利用を廃止して、インターネットバンキングを活用するのがお勧めです。インターネットバンキングの特徴は、銀行に出向く必要がないことから、どこにいても手続ができてテレワークとの親和性が高いこと、時間的なコスト・金銭的なコストをいずれも削減できることです。


一般にインターネットバンキングの利用には手数料がかかることから、利用を敬遠する中小企業も少なくないのですが、手数料を支払ったとしても、コスト削減効果のほうが大きいといえます。


また、第三者による不正送金等のリスクについては、現在のインターネットバンキングは二段階認証を取り入れているのが一般的で、銀行側も重点的に対策を講じています。社内的には、インターネットバンキングでの送金の際に申請者と承認者を分けることが、誤送金や従業員による不正送金を防止するための有効な対策になります。


インターネットバンキングを導入する場合においても、一番のネックとなるのは、やはり社内でのオペレーション変更の問題でしょう。「カネ」の自由度を高めるためにも、この点をクリアする必要があります。

3.テレワークの「セキュリティ」面の留意点

「カミ」から脱却し、テレワークを導入しようとするときに留意したいのが「セキュリティ」面です。


テレワーク環境下においては、主に次の脅威があり、しかるべき備えが必要となります。


マルウェア感染
端末の紛失・盗難
不正アクセス
情報の盗聴


これらにより情報漏洩等が発生すれば、会社の信用失墜はもとより、損害賠償責任の発生、取引先や顧客との取引停止などに至る可能性があります。


テレワークを進めるためには、経理業務に限らず、セキュリティの知識は必須のものとなります。会社の業務効率化やコロナ禍の対策の一環としてテレワークを進めていくためには、役員・従業員へのセキュリティ教育が大切です。


セキュリティの知識を身につけて、リスクを避けつつ、業務を効率化していきましょう。



この記事はPDF形式でダウンロードできます

SMBCコンサルティングでは、法律・税務会計・労務人事制度など、経営に関するお役立ち情報「Netpress」を毎週発信しています。A4サイズ2ページ程にまとめているので、ちょっとした空き時間にお読みいただけます。

PDFはこちら


プロフィール

SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 経営相談グループ

SMBC経営懇話会の会員企業様向けに、「無料経営相談」をご提供しています。

法務・税務・経営などの様々な問題に、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・コンサルタントや当社相談員がアドバイス。来社相談、電話相談のほか、オンラインによる相談にも対応致します。会員企業の社員の方であれば“どなたでも、何回でも”無料でご利用頂けます。

https://infolounge.smbcc-businessclub.jp/soudan


受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート