Netpress 第2113号 SDGs時代への対応 ステークホルダーとの信頼醸成のための情報発信

Point
1.ステークホルダーの情報環境が変化するなか、発信強化を行うと同時に、「企業の価値観」が問われます。
2.「企業の価値観」の発信が取引に影響する可能性もあるため、これからの情報発信のあり方を確認します。


クロスメディア・コミュニケーションズ株式会社
代表取締役 美奈子・ブレッドスミス


1.情報過多と個人最適化の弊害によるステークホルダーとの距離


コロナ禍で対面のコミュニケーションが自粛されるなか、ウェブサイトやソーシャルメディアを活用した情報発信の強化に関心を寄せる企業が増えています。しかし、単純に「発信」の量を増やすだけでは、顧客などのステークホルダーに「伝わった」ことにはならないのが現実です。


情報通信網や速度の発展、デジタルメディアの多様化、情報端末のモバイル化等を背景に、一般生活者が1日に取得する情報量は増加し、いわゆる「情報過多」と呼ばれる状態にあります。


博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が行った「メディア定点調査」(2021年)によると、生活者の2021年のメディア総接触時間は450.9分で、10年前から約100分増加しています。


また、ソーシャルメディアでは友人や企業の投稿に「いいね!」ボタンを押す機能があり、共感によって無数のコミュニティが誕生し、成長しています。さらにGoogleなどの検索エンジンでは、個人の検索や閲覧履歴から個人が好む情報を優先的に表示するなど、個人最適化が進んでいます。


こうした環境を端的に表現するならば、「生活者は自分の好む情報を取得することが当たり前であり、それ以外の情報に触れる機会は減っている」ということになるでしょう。つまり、「特段の施策を講じていなければ、企業が発信した情報は見られていない」ということです。本当の課題は、「発信」ではなく、「届いていない」ことにあると考えるべきではないでしょうか。

2.発信強化を行うと同時に、問われる「企業の価値観」


「共感」を中心として情報が拡散される特性を持つソーシャルメディア。その利用率が増加傾向にある現状にあって、企業の情報発信にも、同様に「共感」という視座を取り入れる必要があります。


過去には、「共感」を目的とした企業コンテンツやCMが炎上したケースもありました。特に非難が集まったのは、働く女性や子育て中のお母さんの大変さに焦点を当てたものでした。


当事者の苦労に寄り添う意図で発信されたコンテンツは、結果として、「家事・育児は女性がやる仕事と押し付けている」「女性の大変さを美化し、男性の家事・育児の関与に対する問題認識が欠けている」等のコメントとともに、批判的に捉えられることになりました。


しかし、このような炎上事例以降に投稿された企業コンテンツのなかには、男性の家事・育児への参画が表現されたものもあり、社会的な感情を見極めて制作されたものに関しては高い評価を得た例もあったのです。


上記の事例では、「共感」はマーケティングの手法のように利用されている面もありますが、重要な点は「企業がステークホルダーと共有したい価値観は何であるか」ということです。


事例が示すのは、「企業のコンテンツと社会的な感情との乖離」です。これまでは広告や広報活動に企業の価値観を込めることは想定されていなかったかもしれません。しかしながら、個人が意見や主張を容易に発信できる今日においては、法人としての価値観を意識したうえで、対外的なコミュニケーションを行うことが望まれます。


それゆえに具体例はジェンダーの件に留まりません。就職サイトや転職サイトにおいては、「レビュー機能」として就職活動中の学生や元社員が組織について感じたままに意見や感想を残すことができるため、労働環境や待遇についても企業の姿勢を明確にし、実行していかなければなりません。社外に向けて魅力を発信するためには、社員の実感が伴っていなければならないということです。

3.「企業の価値観」の発信が取引に影響する可能性


直近では、某化粧品企業の会長がヘイトスピーチを自社サイトに掲載したことが問題となり、自治体との取引が解消されるという事例がありました。


こうした人権に関わることは、昨今注目が高まるSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた17の持続可能な開発目標)とも逆行するものといえます。


                                                         

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 1.貧困をなくそう
 2.飢餓をゼロに
 3.すべての人に健康と福祉を
 4.質の高い教育をみんなに
 5.ジェンダー平等を実現しよう
 6.安全な水とトイレを世界中に
 7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに
 8.働きがいも経済成長も
 9.産業と技術革新の基盤をつくろう
 10.人や国の不平等をなくそう
 11.住み続けられるまちづくりを
 12.つくる責任つかう責任
 13.気候変動に具体的な対策を
 14.海の豊かさを守ろう
 15.陸の豊かさも守ろう
 16.平和と公正をすべての人に
 17.パートナーシップで目標を達成しよう



2020年の経団連の調査(「企業行動憲章に関するアンケート調査」)によると、SDGsを経営戦略に取り込むと回答した企業は42%で、2018年の調査と比較すると4倍にもなり、ジェンダー、人権、環境等に対する企業の取り組みや考えは、今後ますます事業活動に大きな影響を及ぼすことが推察されます。


つまり、ビジネスに貢献する発信強化は、「自社を知ってほしい」という視点から、「自社が大切にしていることを知ってほしい」に切り替える必要があると考えます。


製品やサービスに込めた想いや考え、企業成長や品質維持のために行っている社員への研修制度や待遇等が同業他社との差別化でもあり、SDGsを重視する企業との取引においても共感のポイントになる可能性があります。


このような自社の価値観は、発信しなければ他者に伝わりませんので、事業全体の実態とコンテンツの質、情報を届ける方法のバランスを考慮しつつ、従来の情報発信を見直すことをおすすめします。



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