Netpress 第2102号 人が育つ! 効果的な「社内教育制度」の考え方・作り方

Point
1.人材育成は、企業の経営戦略を実現する手段であり、育成そのものを目的化しないよう注意が必要です。
2.社員に不足している能力を特定(具体化)したうえで、それを補って強化するための育成方策を立案し、経営資源を配分していくことになります。


株式会社グローディア
代表取締役 各務 晶久


1.人材育成は手段であって目的ではない

ほとんどの企業で人材育成が経営課題に挙げられるとおり、業種・業態を問わず、いつの時代も人の育成は難しい課題であり続けています。


企業の人事担当者とディスカッションすると、漠然と「人材育成が必要だ」と言うばかりで、具体的にどのような点を育成すればよいかを明確に言語化できていないケースが少なくありません。これは、「何のため」に人材育成が必要なのかが曖昧だからです。


人材育成は、企業の経営戦略実現の手段であって目的ではありません。戦略を実現するために既存人材の能力が不十分であれば、不足する能力を特定(具体化)したうえで、それを強化する「手段」が人材育成といえます。


たとえば、「新しい分野に進出する」という企業戦略を立てているが、うまくいかないとします。この場合、次のような能力の不足が考えられるでしょう。


・「事業計画を立てる能力がない」
・「マーケティング能力が足りない」
・「商品企画力が不十分である」


このように、どのような能力が不足しているのかを特定(具体化)し、それを補って強化するための育成方策を立案して、経営資源を配分していくことになります。


これからの時代、人事担当者は企業戦略を十分に理解したうえで、その推進役を担わなければなりません。それなのに、「管理職研修は何をやったらいいのだろう」といったように、社員教育の実施そのものが目的化しているケースが散見されます。


これでは、戦略推進部門としての人事の機能が十分に果たされているとは言い難いでしょう。

2.環境変化からのアプローチ

戦略は、個々の企業が、自社の「強み」や「弱み」を踏まえて決定していくことになりますが、そのベースとなるのが環境の変化です。


自分たちの「強み」「弱み」に対して、環境は「追い風(機会)」になるのか、「向かい風(脅威)」になるのかを考察しなければなりません。


2020年9月の経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告資料では、現在の経営環境を考察するうえで重要なキーワードとして、次の4点が挙げられています。




これらの環境変化に対応できる人材をどのように育成すればよいのかという観点から、人材育成にアプローチしていくことも有効でしょう。


たとえば、DX化(デジタル化)は自社の事業に追い風だとわかっているが、なかなかDX化が進まない状況なら、まずその原因を探ってみることからスタートします。


その結果、「デジタル情報の活用能力」「ITリテラシー」「プロジェクト・マネジメント能力」といった個々人の能力不足に起因する問題が発見されれば、それらを伸ばす施策を考えていくのです。

3.研修だけが人材教育ではない

社員の能力を伸ばすための施策が「研修」や「OJT」しか思いつかないようでは、人材育成はままなりません。育成は、もっと大胆に行うべきです。


たとえば、ノウハウを持つ企業への出向や、出向者受け入れによるノウハウ移転も人材育成です。近年では、「他社留学制度」という人材の相互交流システムを導入する先駆的な取り組みが見られます。身近なところでは、ジョブ・ローテーションで他部門の経験を積ませることも、立派な人材育成です。そのほか、社内ベンチャーコンテストの入賞者に経営をやらせてみることなども、貴重な人材育成の機会といえます。


人材育成制度は、「育成機会」を与える一連の取り組みと定義することができます。研修やOJTといった狭い範囲に限定して考えないようにしましょう。

4.マス教育から個別対応へ

社員教育の分野では、コロナ禍を機に急激な変化が起こっています。それは、「EdTech(エドテック)」がすさまじい勢いで普及していることです。


EdTechとは、ICTシステムを用いた「学びのためのテクノロジー」のことで、企業の人材育成向けにさまざまなツールが開発・提供されています。特に、オンライン講座やオンデマンド講座など、時間と場所を選ばない新しい学びのスタイルが普及しつつあります。


これらがもたらす最大の変化は、従来、「集合教育」で画一的に行ってきた教育スタイルから、必要な人に必要な内容を学ばせる「個別教育」への変革です。


これにより、低コストで最大の教育効果を狙うことが可能になりますが、そのためにはタレント・マネジメント・システムの導入が望ましいでしょう。近年では、クラウド型の安価なタレント・マネジメント・システムが各社からリリースされているので、検討してみてはいかがでしょうか。

5.最後に

人材育成は、企業の経営戦略を実現する手段であり、育成そのものを目的化しないよう注意が必要です。また、経営戦略を考えるうえでは、環境の変化を考慮しなければなりません。「環境変化に対応できる人材の育成」という視点からアプローチすることが重要です。


さらに、社員教育はOJTと研修だけでなく、さまざまな施策を組み合わせることが大切です。近年、ICT技術の進展に伴って、マス教育から個別教育にシフトしつつあり、その対応が求められます。



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