【越境ワーク③】越境ワーク(労働災害、健康保険、出産・育児休業)

越境ワークのコラムも最終回になりました。最終回では越境ワークの労働保険・社会保険について取り上げます。


1. 越境ワーク中の労働災害

 海外で就労している従業員の労災保険として第三種特別加入がありますが、越境ワーカーはこの特別加入の対象になりません。海外赴任者と違い、越境ワーカーは特別加入するための海外の事業所がなく、海外出張者と同様、通常の労災保険制度が適用されることとなります。したがって、労災保険の給付も日本で発生した労働災害の場合と同様ですが、海外という点で手続きに違いがあります。

 日本では労災指定病院で自己負担なしに診療等を受けられ、医療費は指定病院から労働基準監督署に請求されます(下の図、上段)。一方、海外での労災では、越境ワーカーが現地での診療費等を立て替えて、外国語の診療内容等を訳し、会社の証明を受けて労基署に提出、立て替えた費用の戻し入れという流れとなります(下段)。


【日本での労災保険給付手続き】



【日本国外での労災保険給付手続き】



2. 健康保険(私傷病)

 健康保険による私傷病の給付も労働災害での給付と共通の特徴があります。労災保険の労災指定病院と同様、海外には健康保険の指定医療機関はありません。したがって、越境ワーカーが現地で受診し、診療費等を立て替えて、外国語の診療内容等を訳し、会社を通じて保険者に提出し、立て替えた費用が戻し入れられるという流れとなります。


【日本国外での健康保険の給付手続き】



 上記は海外療養費という健康保険の保険給付ですが、日本で同等の傷病の診療を受けたときよりも被保険者個人の負担が増えることがあります。その理由は、海外療養費の仕組みが海外で受けた診療や治療を日本の診療報酬の点数に換算して給付額を決定するものだからです。

 例えば下記のように海外で支払った医療費の額が150(①)であっても診療等の内容を日本の診療報酬制度に換算したときが100(②)であれば、海外療養費としての給付はその7割相当の70(③)となり、残りの30(④)が個人負担となります。そして、海外での診療で支払った額150と日本の診療報酬制度で算定した額100との差である50(⑤)も引き続き越境ワーカーの個人負担です。

 一般的に海外での医療費が高額になることを踏まえると、越境ワーカーにも海外赴任者と同様、海外旅行保険の付保を検討する必要性は高いと言えます。



3. 越境ワーカーの妊娠、出産、育児休業

 越境ワーカーが渡航先で妊娠・出産するということも考えられます。これまで見てきたとおり、越境ワーカーは就労する場所が日本国外ということであって日本の会社との雇用契約に基づいて就労しているので、越境ワーカーの妊娠・出産時の休業や給付等、そして育児休業についても日本の法令が適用されます(下表)。なお、一連の手続きの詳細については保険者やハローワークにご確認ください。


妊娠以下は全て法令どおりです。
・産前産後休業(産前6週間〈多胎妊娠の場合14週間〉、産後8週間)
・産前産後休業中の社会保険料の免除
・出産手当金の受給
なお出産手当金は、支給申請書の医師・助産師証明欄の外国語での記載について日本語訳が必要です。
出産出産育児一時金の受給も基本的に通常どおりです。ただし、以下のものが必要になります(協会けんぽの場合)。
・海外での出産を担当した海外の医療機関等への照会についての同意書
・出産時に当該国在住であったことの証明になるもの(例:パスポートの写しなど)
また、海外での出産は産科医療保障制度未加入医療機関での出産として一時金の額は1児につき48.8万円となります。
育児休業育児休業の取得、育児休業給付金および社会保険料の免除は通常どおりです。ただし、給付金の資格確認においては通常、母子手帳の写しを付けますが、渡航してからの妊娠、出産の場合、母子手帳はないので出産した医療機関で出産日などを証明する書類を発行してもらい、日本語訳をつけることとなります。
また、日本での育児休業では、こどもが1歳に達した時点で保育施設に入れない場合、1歳半まで、2歳までと休業を延長することができますが、越境ワークにおいては同様の事情で休業を延長しても育児休業給付金を受けることはできません。これは延長して給付金を受けられる理由である「保育施設に入れなかったこと」の「保育施設」が日本の児童福祉法に定められた保育所であるため、越境ワーカーには該当しないからです。


 三回のコラムを通じて越境ワークではビザ、所得税、労務管理、社会保険・労働保険など論点が多岐にわたることがご理解いただけたと思います。越境ワークは配偶者の海外赴任がきっかけとなって相談があるなど自社の人事異動として計画できるものではないという一面があります。それだけに本コラムが明日越境ワークの相談があったらどうするかを考えてみる契機になれば幸いです。


 多田国際社会保険労務士法人では、海外赴任に関する、規程作成や給与制度構築、日常のご相談などのサポートをしています。ぜひお気軽にご相談ください。


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