限られたマンパワーでメンタルヘルス不調者への適切な対応を行うコツ!

前回の記事でも話題にした通り、日本人の多くが睡眠に関し何らかの問題を抱えています。そしてそうした睡眠の質の悪さは、日中の眠気や疲労・頭痛などの不調につながり、私たちの注意力や判断力を低下させ、身体疾患を悪化させたり精神障害の発症リスクを高めたりしていきます。事実、精神障害による労災件数は近年上昇し続けており、企業においてメンタルヘルス対策への着手はもはや優先度を下げている場合ではなくなってきました。





 こうした社会の流れがある一方で、実際には多くの現場や管理部門から、「社員のメンタルヘルス支援に着手したくてもマンパワーが足らない!」 という声も聞かれます。人事白書調査レポート2025によると、8割の人事部門が管理業務に追われていることが明らかになっており、こうした結果からも新たに社員のメンタルヘルス支援に着手していくことへの企業側の困難さが窺えます。では、ひっ迫する業務の中、社内でメンタルヘルス不調者が生じた場合にはどのように取り組めばよいのでしょうか。今回は企業においてよくある失敗例を挙げながら、リスクを鑑みた上でおすすめしたい対応方法についてご紹介しようと思います。



1.企業において生じやすいNG対応例

 これまで様々な企業の人事の方々と共に社内のメンタルヘルス体制を整備してきた中で見えてきた傾向として言えることは、メンタルヘルス不調者への対応がうまくいっていない・整備されていない企業ほど以下のような失敗例がよくあるということです。以下の失敗例に該当するような取り組みが社内にはないか、自社の取り組みを振り返りながら確認してみましょう。


■企業においてメンタルヘルス不調者の対応をする際に現場や人事部門で生じやすい失敗例

メンタルヘルス不調者が生じた際の適切な対応方法を知らずに、社内規定にない特別対応を例外的に認めてしまう
メンタルヘルス不調者が生じた際の適切な対応方法を心得ずに、人事社員または管理職個人の信念・パッション・心配する気持ち・老婆心で物事を語りそれを面談時に不調者本人に伝えてしまう
メンタルヘルス不調者が生じた際の適切な対応方法を知らず、かつ一貫した対応方法を社内で定めておらず、不調者に対し対応した内容を記録に残さない・専門家に相談しない
メンタルヘルス不調者が生じた際の一貫した対応方法を社内で決めることができておらず、適切な対応を把握していた人事社員または管理職が異動・休職・退職等に至ってしまうと、社内に適切な対応ができる人材がいなくなってしまう(一定の方法が定まっておらず書面化されていないため育てる資材もなく後任が育っていない


 これらの項目に該当するような対応が社内で行われている場合、ケースによっては社員との訴訟問題を抱えたり、そのケース自体が対応困難事例へと発展してしまったり(回復の先に待っていた人材の有効活用の機会を逃して人材の損失につながってしまうリスクが高まる)、その他のトラブルにも発展しやすくなり健康管理コストをも圧迫させる可能性があるため注意が必要です。そのようなことにならないためにも以下の対応を参考にしましょう。



2. 限られたマンパワーで対応しなければならないときこそ基本に立ち返りスタンダードな対応を!それが結果的に本人の利益に!

 前項でも述べた通り、適切な対応方法を知らずに(あるいは学んでいたとしてもその要点を押さえず・心得ずに)社員対応をすすめることは大変リスキーです。困った状況に陥り、人事や管理職に更なる負担を強いることのないよう、メンタルヘルス不調者が生じた場合は、下記内容に注意しましょう。


【基本】

  • 不調者が生じた際の報告ルートや休職に入る場合のフローが社内で定まっている場合はその方法に必ず則り、規定にない対応ですすめるケースが生じないようにする(やむを得ず例外対応が必要となる場合は、必ず産業医やカウンセラーなど産業保健分野に詳しい専門家に相談すること
  • メンタルヘルス不調者が生じた際の対応が社内で定まっていない場合、どのルートで不調報告を現場に行ってもらい、休職に入るか否か等の事例をどのようにすすめていくか等を社内で精査し、適切な規定に変更する。(※不調者報告窓口はできる限り1つに絞り、情報を集約できる体制をつくり、対応の漏れやバラつきがでないようにすること/規定作成・変更時には必要に応じて顧問社労士に相談をすること


【注意事項】
  • メンタルヘルス不調者が生じた場合、「なんとかしてあげたい」と思うあまりイレギュラー対応(社内規定に明記されていない根拠不明の対応)を採用してしまうということがしばしばあります。しかしながら、そうした対応はいずれどこからか明るみに出て噂になってしまうものです。そうなってしまうと社内での居場所を本人自身が失ってしまう結果にもなりかねません規定にない対応を例外的に認める形は絶対にやめましょう。対応の幅を広げるのであれば、他社員も同様の対応を受けられるよう、制度自体を整え、顧問社労士等に相談しながら規定をしっかり整えていきましょう。
  • 部下がメンタルヘルス不調となった場合の対応については、管理職研修の中でも学ぶべき内容となります。社内の管理職研修コンテンツにそうした内容が含まれていない場合は必修科目としましょう(ラインケア研修の必修化)。また、不調になった部下への対応を行う中で管理職自身が疲弊してしまう場合もあるため、該当する研修内容の中には管理職自身のセルフケアの内容も含められるようにしましょう。



【基本】

  •  本人との間で受診するか・しないか/休職するか・しないか/退職するか・しないか等の話題が出た際には 以下のような声掛けがおすすめです。

ⅰ)社内に産業保健スタッフがいる場合
  産業保健スタッフから、こうした場合には~という対応をする方が心身の健康を守るためにも必要だ
 ときいているため、~という対応をとるのはどうだろうか

ⅱ)社内に産業保健スタッフがいない場合は
 一般的に~という対応が推奨されているため~という対応をとるのはどうだろうか

 その他)
 「あなたの体調がすぐれないと聞き、とても心配に感じている」というメッセージを伝えることはOK


【注意事項】

  • 人事や管理職が面談を行う際によく生じるトラブルは、本人との間で受診するか・しないか/休職するか・しないか/退職するか・しないか等の話題が出た際に、相手を案ずるあまりに熱が入り 「それだと君のためにならないんじゃないか」 などとよかれと思って伝えてしまいケースがこじれてしまうタイプのトラブルです。もちろん当の人事・管理職は社員を思って発言しているわけですが、こうした面談の場合、いち個人の想いのままに相手に伝えてしまうのは望ましくありません(何がその人のためになるかという問題は本人が定義し決定する事項でもあるため)。こうした話題が出た際には、基本に忠実に上記のような声掛けをしていきましょう。



【基本】

  • 社内でメンタルヘルス不調者が生じた場合の対応方法について一定の規定が存在するのであれば、必ずフォロー体制や対応方法の詳細等を精査した書面を残し、後進育成ができる準備を整える
  • 規定の下対応した内容は必ず記録を残し保存することを心がけましょう(日付、対応者、対応内容、今後の方針など)。


【注意事項】

  • せっかく整えた体制も人の入れ替えによってノウハウがなくなってしまっては元も子もありません。また、「人がいなくなったときは一時中断し、いずれまた再開すればいい」とゆったりと構えることもあまりおすすめできません。一度対応できなくなってしまったものを再開するときに必要となるエネルギーは、運営を維持する以上のものになることもしばしばです。体制を整える・その仕組みのルールを守る・体制やルールをまとめた書面を作り、その資料をもとに後進育成をする、これら4点はセットでメンタルヘルス不調者への適切な対応は成り立っていると心得ておきましょう




 いかがだったでしょうか。記事冒頭でも触れた通り精神障害による労災件数は年々増え続けており、社内でなんとなくの対応を続けてしまっていては、いずれ対応に苦慮するケースに遭遇する確率は高くなってしまいます。そうならないようにするためにも、社内のメンタルヘルス支援体制は早急に整備していかねばなりません。マンパワーに限界があり、なかなか社内での整備が難しい場合は、産業保健に詳しい専門家や社会保険労務士の力をかりることがおすすめです。多田国際コンサルティング株式会社では、他企業数十社でのメンタルヘルス施策を支えてきたカウンセラーによる相談や助言(メンタルヘルス不調者対応等の社内体制整備のサポートも可能)、グループワークを含めたラインケア研修の提供も可能です。本稿に入りきらなかった細やかな対応方法等についてもお伝え可能となりますため、必要な場合はぜひお気軽にお声掛け下さい。



出典


プロフィール

多田国際コンサルティング株式会社 臨床心理士・公認心理師 羽田野 瑛子

私たち多田国際コンサルティンググループは、多田国際コンサルティング株式会社と多田国際社会保険労務士法人で構成しております。

多田国際コンサルティング株式会社では、労務分野の豊富な知見をベースとした、専門性の高い人材・組織系のコンサルティングサービスにより、人事制度、人材育成、労務管理等はもちろん、 IPO、M&A、海外進出といった企業を取り巻く様々な課題の解決を通して、企業価値向上をサポートして参ります。

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