Netpress 第2496号 議論が進んでいます! デジタル技術を用いた遺言について
1.法制審議会が遺言の方式に関する民法改正の中間試案を公表しました。
2.高齢化社会の到来に伴い、自らの意思で財産を処分できる遺言の重要性が高まったことを受けて、現行方式と同程度に信頼でき、デジタル技術を用いて簡易に作成できる遺言方式が検討されています。
3.遺言の方式は遺言の有効性に関わり、正確な理解が重要なので、今後の議論にも引き続き注目しましょう。
2025年7月15日、法制審議会の民法(遺言関係)部会が「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」を取りまとめました。今回発表された中間試案では、普通方式の遺言における新たな方式の遺言の創設、自筆証書遺言等の方式要件の更なる緩和の検討、特別方式の遺言に関する見直しを主たる検討対象にしています。
この記事では、現行法上の遺言制度、法制審議会で検討されている新方式の遺言がどのようなものであるかについてご紹介します。
1.現行法上の遺言制度と改正の必要性
現行法上の遺言の方式は、普通方式(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)と、普通方式の遺言をすることが困難な事情があるときに作成することができる特別方式の大きく2つに分けることができます。
そのなかで皆さんが目にする機会が多いであろう、自筆証書遺言、公正証書遺言を中心に解説します。
(1) 自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文、日付、氏名をすべて自分で書き、押印して作成する方式の遺言(民法968条)です。公正証書遺言と比較して費用がかからないことや、誰にも知られずに遺言を作成することができることがメリットとされています。
デメリットとしては、方式不備で無効とされるリスクが高いこと、遺言書の保管制度を利用しない場合には遺言書が発見されないことや第三者による偽造・変造や隠匿の恐れがあること、家庭裁判所の検認を要することが挙げられます。
(2) 公正証書遺言
公正証書遺言は、証人2人以上の立会いの下に、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言(民法969条)です。公証人が関与することにより方式不備による事後的な紛争が起こりにくくなっており、家庭裁判所での検認手続きが不要であるというメリットがあります。
もっとも、遺言書の作成費用や、証人を2人以上用意する必要があるというデメリットが存在しています。
(3) 高齢化社会における遺言とデジタル化の波
現在の遺言方式は、明治民法下から130年近く大きな改正が行われていませんが、この間に高齢社会を迎え、家族の在り方は多様化し、単身世帯も増加しています。
法定相続分に基づいた財産分配だと実質的な不公平を修正できない場合や、法定相続人がいない方が自己の財産を自分の意思により処分する場合の方法として遺言制度がより社会で重要視されるようになりました。
また、早期に遺産の権利義務を確定させることにより、所有者不明土地問題・空き家問題等の社会課題を解決するという観点からも遺言制度は重要です。
しかしながら、遺言制度の重要性が認識されていても、遺言の方式が厳格でハードルが高いことにより、遺言の作成を控えてしまうという懸念があります。
加えて、デジタル化が急速に進展し、高齢者も日常生活においてデジタル機器を用いることが多くなっているなか、一般に手書きにより文書を作成する機会が少なくなっています。
これらのことを踏まえて、遺言者が全文を自書する現行の自筆証書遺言と同程度に信頼性が確保される遺言を簡便に作成することができる新たな方式のニーズが高まっていました。
2.中間試案で示された新方式の遺言
そのようなニーズを受けて、法制審議会では現行の方式に加えて、遺言の全文等をパソコン、スマートフォン等により作成した電磁的記録または電磁的記録をプリントアウト等した書面による方式を創設するものとし、甲案、乙案、丙案の1つまたは複数を創設することを検討しています。
(1) 甲案
まず、甲案は遺言者が遺言の全文等を電磁的記録により作成し、遺言者等による全文等の口述を録音・録画等により記録して遺言する方式です。
甲案においては、朗読時に証人の立会いを要する案(甲1案)、証人の代わりにこれに相当する措置を要件とする案(甲2案)がそれぞれ検討されています。
(2) 乙案・丙案
次に、乙案は遺言の全文等を電磁的記録により作成し、公的機関で当該電磁的録を保管して遺言する方式です。
これに対し、丙案は、電磁的記録をプリントアウトするなどして遺言の全文等が記載された書面を作成し、公的機関で当該書面を保管して遺言する方式です。乙案との違いは、公的機関に保管を依頼するのが電磁的記録であるのか、電磁的記録をプリントアウトするなどした書面であるのか、という点です。
乙案・丙案のいずれも公的機関に対する保管申請時に遺言の全文を口述することにより、遺言者の意思を確認することになっています。
(3) 各案の比較
いずれの案も現行法上の自筆証書遺言と比較すると、全文等の自書をする負担がなくなっており、デジタル機器を用いてより簡便に遺言を作成することができるようになっています。
甲案は公的機関の関与がない分、受付日時等の制約がなくいつでも作成することができますが、他面、遺言者の不注意により方式不備が生じるリスクがあり、相続開始後においては裁判所での検認手続きが必要です。
乙案・丙案は裁判所での検認手続きが不要であるほか、公的機関での確認・保管が行われるため、方式不備や偽造のリスクを軽減することができます。デメリットとして、公的機関での手続きや費用の負担が考えられるところです。
3.終わりに
「終活」という言葉が一般的に使われるようになって久しく経ちました。遺言をするには本人に遺言能力が備わっている状態でなければならず、しかるべきタイミングで遺言を残しておくことが重要です。デジタル遺言創設の議論が進んでいるなか、この記事がご自身や周囲の方の終活について考える良いきっかけになれば幸いです。
なお、この記事でご紹介した内容は、中間試案公表時の公開情報を前提にしていますので、その点につきご留意ください。
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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