Netpress 第2461号 成長し続ける企業の共通軸 パーパスを実現する「両利きの経営」

1.第一創業に成功すると、身につけた成功パターンが世の中の変化についていけなくなっても、立ち振る舞いを変えることができず、やがて危機的な状況を迎えます。
2.成功の罠に陥らず、高いアスピレーション(熱望、大志)を持ち続ける企業は、危機の如何に関わらず自社を進化させ続けます。そうした企業の共通軸が「パーパス」です。
1.第一創業のあと「成功の罠」が待っている
既存事業の衰退を見越し、できるだけ早く新規事業を仕込んでいくのが「両利きの経営」です。
この経営理論を一貫して研究してきたスタンフォード大学のチャールズ・オライリーとハーバード大学のマイケル・タッシュマンは、資本に恵まれ、優秀な人材がそろい、ビジョンも戦略もしっかりしている大企業が、イノベーションや変化に適応できず、目も当てられない状況に陥るのは「ミステリーだ」と述べています。
しかしそれはミステリーではなく、成功の代償です。
第一創業で成功したからこそ、企業は現在の業容や顧客基盤を保持できていますが、その素晴らしい資産が、企業を縛るのです。
どの会社も、自分たちを成功に導いた既存事業を背骨とし、“利き手”としています。
身につけた成功パターンが、世の中の変化についていけなくなっても、立ち振る舞いを変えることができず、状況の悪化を直視しないでいると、やがて危機的な状況を迎えます。
企業を成功に導いたテクノロジーやビジネスモデル、アイデアなどが時代の変化についていけなくなっているのに、認めようとしません。
過去の成功モデルに固執し、自分たちは特別だ、まだ大丈夫と思いこみ、問題を先送りします。
第一創業に成功すると、ヒリヒリするような焦燥感が、達成感や満足感に取って代わられ、闘い続けるアニマルスピリットを失います。
ひとつの産業、テクノロジー、ビジネスモデル、成功パターンが永続することはありません。急成長のあとに成熟期が来ますが、そのすぐあとに衰退期が待ち受けています。
オライリーとタッシュマンは、「目を覚ましリーダーシップを発揮せよ」と経営者を鼓舞します。危険が待ち受けると思い、常に警戒を怠らないようにしなければなりません。
仮に客観的には安全な状況が続くとしても、さらに高い高度を、さらに遠くへの旅を、あらたな飛躍の可能性を探索し続けるのです。そういったアスピレーションが高いほど、企業は成長し進化します。これが危機対応型の「両利きの経営」です。
2.コダックと富士フイルム
「両利きの経営」の教訓としてよく語られるのが、デジタル化に遭遇したコダックと富士フイルムの事例です。
コダックはデジタル分野でも素晴らしい技術を持っていましたが、銀塩フィルムや写真事業にこだわったため、衰退市場から抜け出せませんでした。
コダックはフィルムと競合する物はすべて排除しようとしました。デジタルカメラを最初に開発したにもかかわらず、新しいビジネスモデルの新規事業へ移行できず、経営破綻したのです。
一方、富士フイルムは、デジタル化の脅威に正面から向き合い、技術力を含む経営資源を新規事業に転換させました。カメラや機器だけでなく、化粧品、液晶パネル、医薬品開発にも、界面化学の専門知識を応用し、第一創業のフィルムビジネスを脱し、事業転換に成功したのです。
破壊的イノベーションが起きるとき、生死を分かつポイントが来ます。どれだけ迅速に第二創業に向かっていけるかが問われることになります。
しかし、危機対応力だけが経営を進化させるわけではありません。
成功の罠に陥らず、高いアスピレーションを持ち続ける企業は、危機の如何に関わらず自社を進化させ続けます。そうした企業の共通軸が「パーパス」です。
存在意義と訳されるパーパスは、本気で取り組めば企業を「ほんもの」にします。
3.第二創業というパーパス
以下の4社は、いずれも経営危機を糧として、自社の根源的な存在意義を見つめ直しました。そして大きな飛躍を遂げています。パーパス経営は、明確なビジョンを掲げて真摯に実践するものです。
(1) パタゴニアのパーパス
アウトドアウエアのパタゴニアのパーパスは、「地球を救うためにビジネスを営む」です。製品の98%にリサイクル原料を使用し、売上の1%を環境保護団体に寄付します。それだけではなく、株式を気候変動対策・自然保護の非営利団体に売却し、「地球が唯一の株主」になりました。パタゴニアは、パーパス経営の北極星といえます。
(2) スターバックスのパーパス
スターバックスは、「この一杯から広がる、心かよわせる瞬間、それぞれのコミュニティとともに ― 人と人とのつながりが生みだす無限の可能性を信じ、育みます」を自分たちの存在意義としています。このパーパスを実現するために、すべての店舗でスターバックス流の体験価値が実現することを真摯に追求する文化と機構を作り込んでいます。
(3) AGCのパーパス
「AGC、いつも世界の大事な一部 〜私たちは先を見据え、独自の素材・ソリューションで、いつもどこかで世界中の人々の暮らしを支えます〜」がAGCのパーパスです。企業ブランドとして「Your Dreams, Our Challenge」も掲げ、BtoB 事業の存在意義を明示し、ガラス(既存事業)から素材ソリューション(新規事業)へ転換しました。
(4) SONYのパーパス
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」をパーパスに掲げるSONYも、「エレキ」(既存事業)から「エンタメ」(新規事業)への大転換を果たしています。
パタゴニアやスターバックスは単一事業のため、「両利きの経営」はできていません。永続するビジョナリーカンパニーへと進化するうえで、両社の高邁なパーパスが決定的に重要な起点(北極星)となります。企業を第二、第三の創業へと真に導くのがパーパスというWHYです。WHYから導き出されるHOWが「両利きの経営」です。
危機感は不安や恐怖というネガティブ感情に訴えますが、パーパスは夢や共感というポジティブ感情を醸成し、より多くの人々を希望の物語に招き入れます。
発展し進化し続ける経営の物語を実装するのが、「パーパスを実現する両利きの経営」です。
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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