Netpress 第2454号 公益通報者保護法が改正へ 内部通報者の不利益処分に罰則案―「報復人事」に歯止め

1.公益通報者保護制度に関する理解を深め、自社の規模に応じた公益通報者保護制度を構築することが重要です。
2.公益通報者保護制度検討会が公表した報告書の内容を踏まえて、自社の公益通報者保護制度をより実効性のある制度にアップデートしていくことが求められます。
3.公益通報者に対して、公益通報を理由とする不利益取扱いをしてはいけないことを十分理解するとともに、公益通報以外の事由に基づき解雇・懲戒処分・不利益な人事上の措置を行う場合は、慎重に対応する必要があります。
1.公益通報者保護制度とは
公益通報者保護制度は、公益通報者の保護を通じて、労働者等の公益通報を促し、事業者の法令違反を早期に発見・調査し、その是正を図ることで、国民生活の安心と安全を守る制度です。
日本では、平成16年6月に公益通報者保護法(以下、「公通法」)が制定され、誰が(通報の主体)、どのような内容の通報を(通報対象事実)、どこに対して行えば(通報先)、労働者が不利益な扱いから保護されるのか(保護の内容と要件)について明確化されました。
その後、令和2年に次のような改正が行われています。
① | 常時使用する労働者の数が300人超の事業者に対して、体制整備を義務化 |
② | 従業者(内部公益通報受付窓口において公益通報対応業務を行う者)の守秘義務違反に対する刑事罰(30万円以下の罰金)の導入 |
③ | 「公益通報者」として保護される範囲の拡大 |
④ | 保護される「通報対象事実」の範囲の拡大 |
なお、公益通報をしたことを理由とする通報者に対する不利益取扱いの是正に関する措置等については、改正法施行後3年を目途として、検討することになりました。
上記を受けて、令和6年5月に公益通報者保護制度検討会(以下、「検討会」)が消費者庁に設置され、公益通報者保護制度の課題と対応について検討を行い、検討会が取りまとめた報告書(以下、「報告書」)が令和6年12月27日に消費者庁から公表されました。
以下、公益通報者保護制度の見直しの方向性(報告書の内容)と、不利益取扱いの禁止に対する対応について解説します。
2.公益通報者保護制度の見直しの方向性(報告書の内容)
報告書では、労働者等が、事業者内で重大な法令違反行為を目撃した場合に公益通報を躊躇または断念する主な要因として、(1)誰に相談・通報したら良いかが分からないこと、(2)上司や同僚などに身元が特定され、不利益な取扱いを受ける懸念があること、(3)公益通報をしても、利益相反のない独立した立場で適切な調査が行われない懸念があること等を指摘し、その改善策として、主に以下の4点を提言しています。
① | 事業者における体制整備義務の履行の徹底や実効性向上を図ること |
② | 労働者等による公益通報を阻害する要因に適切に対処すること |
③ | 公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止し、救済措置を強化すること |
④ | 公益通報の実施状況や不利益な取扱いの実態に併せて通報主体の範囲を拡大すること |
そして、公益通報を理由とする不利益な取扱い(解雇、降格、減給、不利益な配置転換、嫌がらせ等)については、公通法で禁止されていますが(3条から5条)、同法制定以降も通報を理由とした不利益な取扱いが行われていること、民事裁判を通じて事後的な救済を図る負担は大きく、労働者が通報を躊躇する大きな要因となっていることを踏まえ、報告書では、主に次の対応が提言されています。
・ | 不利益取扱いの禁止規定に違反した事業者及び個人に対して刑事罰を規定すべきであること |
・ | 刑事罰における構成要件の明確性及び当罰性の観点から、刑事罰の対象となる不利益な取扱いは、不利益であることが客観的に明確で、かつ、労働者の職業人生や雇用への影響の観点から不利益の程度が比較的大きく、事業者として慎重な判断が求められているものとして、労働者に対する解雇及び懲戒に限定すること |
・ | 公益通報を理由とする不利益な取扱いの悪質性の高さや社会的な影響の大きさを踏まえ、強い抑止力が求められていることから、行為者に対する直罰方式が相当であること |
・ | 法人に対する刑事罰については、自然人と比較した事業者の資力格差、不正発覚の遅れによって事業者が得る利益や社会的被害の大きさ、行為の悪質性・社会的な影響等を踏まえ、法人重課を採用すべきであること |
3.不利益取扱いの禁止に対する対応
消費者庁は、報告書の提言を踏まえ、通報者を解雇や懲戒にする「報復人事」を刑事罰の対象(解雇や懲戒の意思決定に関与した個人と法人のいずれも対象)とし、法人には個人より重い罰を与える「法人重課」の規定を設けるべく、2025年通常国会に法案を提出する方針とのことです。
2025年1月30日の時点では、具体的な構成要件や罰則の内容について、消費者庁から公表されていませんが、事業主としては、法改正を見据えて、公益通報窓口の担当者等に対して、公益通報を行った者に、公益通報を理由とした不利益取扱いを行ってはいけないことを、研修等を通じて十分理解させることが重要となります。
また、公益通報を行った者に対して、公益通報以外の事由により懲戒等を行わざるを得ない場合は、懲戒事由等に該当する事実が存在していること、また、その事実を懲戒等の対象とすることが合理的かつ相当であることを十分立証できるように、本人に対して十分な説明を行い、処分等の理由について理解を図るとともに、経過記録等を丁寧に作成する等、慎重に対応する必要があります。
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