Netpress 第2443号 次に向けて本格的な準備を! 手形サイトに関する指導基準の変更と対応ポイント
1.公正取引委員会(以下、「公取委」といいます)は、2024年11月1日以降、手形サイトが60日を超える手形を交付する行為は、下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」といいます)に違反するおそれがあるとの取り扱いに改めました。
2.経営者の皆さんは、法令違反(またはその疑いのある)行為をしないよう、改正された方針に沿った手形サイトの設定を徹底すべきです。
3.さらに、2026年度には手形そのものが廃止される方向性に変更はないと思われますので、サイトの見直しだけでは足りず、支払方法の抜本的な変更も視野に入れて検討する時期に来ていることを認識すべきです。
1.手形払に関する議論の状況
2022年8月1日発行のNetpress第2195号でお伝えしたとおり、下請法上の親事業者と下請事業者間の取引の適正化を図る取り組みの一環として、約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会が設置され、2021年3月15日に検討結果を取りまとめた報告書が公表されました(*1)。
さらに、同年3月31日には、以下のとおりの要請が公取委及び中小企業庁(以下、「中企庁」といいます)からなされました(*2)。
① | 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること |
② | 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと |
③ | 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること |
④ | 前記①から③までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること |
上記要請の発出に合わせて、公取委ではおおむね3年以内を目途に当該期間を60日とすることを前提として見直しの検討を行うこととしていましたが、2024年4月30日付けで、
①業種を問わず、
②手形サイトが60日を超える長期の手形を交付した場合、割引困難な手形に該当するおそれがある
として、親事業者に対して指導する旨の通知が出されました(*3)。
従前は、手形の交付日から手形の満期までの期間(手形サイト)の基準について、繊維業は90日、その他の業種は120日を超える手形が割引困難な手形に該当するおそれがあるとされていました。
今般、この業種による区別を廃し、改めて業界の商慣行、金融情勢等を総合的に勘案して、下請法違反となり得るサイトをより短くするという扱いに変更された形です。こちらは半年間の周知期間を経て、2024年11月1日より施行されています。
なお、公取委及び中企庁は、2024年度に実施した下請法に基づく定期調査において、サイトが60日を超える手形等により下請代金を支払っており、かつ、現金払への変更や手形等のサイトを60日以内に短縮する予定はないとした親事業者に対し、2024年11月1日以降に手形等により下請代金を支払う場合には、手形等のサイトを60日以内に短縮することを求める注意喚起を行ったとのことです(*4)。
このことから、周知を徹底し、指導基準の変更に沿った対応を強く求め、その違反に対しては厳格な態度で臨むという公取委及び中企庁の姿勢が窺えます。
2.指導基準の変更を踏まえた対応
(1) 手形サイトの再チェック
今回の指導基準の変更により、手形サイトが60日を超過する手形による支払は、法令違反(またはその疑いのある)行為であることが明確化されました。
指導がなされた場合、違反行為または被疑行為の改善や再発防止策の策定などの措置を講じ、その結果を指導を行った当局に報告するように求められることが一般です。
事業者にとっては小さくない負担となることが想定されますし、何より法令違反(またはその疑いのある)行為をした、という事実が残ります。
事業者が負うリスクはこれまでよりも大きくなり得ますので、手形を支払手段として引き続き使用する場合、支払サイトの厳守を改めて社内に周知することを検討されてはいかがでしょうか。
(2) さらに一歩進んで
こちらも、2022年8月1日発行のNetpress第2195号でお伝えしましたが、2026年度までに約束手形の利用は廃止される方向で各業界が動いています(*5)。
2026年度末までは2年余りであり、残された時間は限られています。今回の指導基準の変更を契機として手形による支払は取り止め、現金払や電子記録債権(でんさい)による支払を基本とする方向にかじを切ることも検討に値すると思われます。
経営者の皆さんは、手形の利用を必要としない取引への準備に向けて、本格的に取り組む時期にあることを改めて認識していただければと思います。
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