Netpress 第2195号 本当になくなるの? 手形廃止を見据えた下請法対策とその先の対策

Point
1.約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会が提出した報告書を契機として、2026年度に約束手形を廃止する方向で議論が進んでいます。
2.まずは、2024年度までに下請代金の支払いのために振り出す約束手形の支払サイトを60日以内とすることなどが必要となりますが、対応には難しい面もあると思われます。
3.さらに進んで、2026年度の手形廃止を見据えた準備を進めておく必要もあります。


岩田合同法律事務所
弁護士 永口 学


1.検討会の報告書における提言

下請法上の親事業者と下請事業者間の取引の適正化を図る取り組みは、従前から政府機関等でいろいろと議論されてきました。


たとえば、2016年9月15日に公表された「未来志向型の取引慣行に向けて」(*1)を契機として、同年12月14日、可能な限りの下請代金の現金払いなどを求める通達が出されたところです(*2)。


このような取り組みの結果として、支払条件の改善が一定程度進んだことは事実ですが、支払サイトの短縮化が不十分であったり、下請事業者が手形割引料を負担する状態が続いたりするなど、改善が十分に進んでいない、との指摘もなされていました。


そこで、これまでの進捗を確認しつつ、併せて、①約束手形のさらなる現金化の進展、②手形サイトの短縮、③手形割引料の負担の適正化などについて検討するため、約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会が設置され、2021年3月15日に検討結果を取りまとめた報告書(以下、「本報告書」といいます)が公表されました(*3)。


そのなかでは、上記通達につき、以下の内容で再改正することが提案され(本報告書15頁)、同月31日に提案内容に沿った通達の改正がなされました(以下、「本通達」といいます)(*4)。



(1)
手形等のサイトを業種にかかわらず60日以内とすること
(2)
手形の割引料に関する協議を促進するため、本体価格分と割引料相当額を分けて明示するべきであること
(3)
施行は、振出人の資金繰りに影響する経済状況などの取引の実態や周知期間を考慮して定めること(たとえば3年)


*1 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/miraitorihiki.htm

*2 後述するように、内容を改めた通達が2021年3月31日に出されました。

*3 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shiharaikaizen/2021/
210315shiharaikaizen_report.pdf

*4 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/shiharaisyudan.htm(中小企業庁)

   https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/mar/210331
_shitaukeshudan.html
(公正取引委員会)


さらに、本報告書では、約束手形を用いた取引では以下のような問題があるとして、そもそも約束手形の利用を停止し、現金振込への切り替えが進められるべきである、直ちに切り替えができない場合でも「紙」による決済をやめる観点から、電子的決済手段(電子記録債権等)への切り替えを進めるべきである、との提言がなされました(本報告書15頁)。



(i)取引先に資金繰りの負担を求める取引慣行(長い支払サイト)
(本報告書5頁~8頁)
現金による決済と比べて2倍から3倍の支払サイトであることや、諸外国と比べても長い支払サイトとなっている点が指摘されている。
(ii)取引先が利息・割引料を負担する取引慣行(本報告書9頁、10頁)
多くの取引において振出人から利息や割引料が支払われていないと思われることや、金融機関が設定する料金が振出人に有利な料金体系となっている点が指摘されている。
(iii)「紙」を取り扱う事務負担・リスク負担(本報告書10頁~12頁)
約束手形の発行、保管、流通(手形交換)、取り立てという一連の支払手続きにおいて、現物である「紙」の管理、授受が伴うことになり、振出人、受取人、金融機関のそれぞれにおいて「紙幣」と同等の管理が必要となって、さまざまなコスト(年間2,042億円であるとの試算結果も示されている)とリスクが存在することが指摘されている。
(iv)受取人の9割、振出人の7割超が「やめたい」との意向
(本報告書13頁、14頁)
受取人の92.6%が約束手形の利用を「やめたい」との意向であるが、振出側が手形による支払いを希望しているためやめられないことや、振出人の76.4%が約束手形の利用を「やめたい」との意向であるものの、電子記録債権にしたいが受取側が利用していないことや、業界の商慣習などの理由でやめられないことなどが紹介されている。


加えて、本報告書は、産業界、金融界に対し、5年を期間とする「約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画」の策定を求めており(本報告書25頁)、実際に各業界において自主行動計画が定められました。

2.本報告書の提言を踏まえた対応

(1)2024年度までの対応

本通達は、2024年度末を目途として、下請代金の支払いはできる限り現金によることを求め、仮に約束手形による支払いを行う場合は、下請代金の額と当該手形の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと、そしてサイトを60日以内とすることを求めています。


もっとも、金融実務からすると、割引料等のコストを事前に取り決めて示すことは困難であることが多く、実際は現金による支払いや他の決済手段を用いることを検討せざるを得ないのではないかと思われます。


(2)2026年度までの対応

2026年度までには、約束手形の利用は廃止される方向で各業界が動いています。


たとえば、手形・小切手機能の「全面的な電子化」に関する検討会は2021年7月19日に自主行動計画を公表し(*5)、2026年度末までに全国手形交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにする目標を設定し、決済に関連する手数料体系の見直しや電子的決済サービスの普及促進などを各金融機関において実施するとしています。


2026年度末まで、すでに5年を切っており、経営者の皆さんは各業界の動きを注視しながら、約束手形の利用を必要としない取引が行えるように準備を整えていく必要があるといえるでしょう。


*5 https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/council/tegata_denshi/
tegata_denshi_action_plan_1.pdf



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