Netpress 第2440号 下回ってない? 最低賃金の計算方法と実務上のチェックポイント

Point
1.法律によって最低賃金の対象とならない賃金が定められています。
2.最低賃金の計算方法は、時給に換算して、最低賃金と比較する必要があります。


あかね社会保険労務士法人
社会保険労務士
滝澤 聡


 石破茂首相は、「最低賃金を着実に引き上げ、2020年代に全国平均1,500円にする」と目標を掲げています。最低賃金の急激な引き上げは企業の負担を重くするため、雇用環境が悪化する可能性もあり、企業にとっては今後の最低賃金の動向が気になるところです。


 「最低賃金制度」では、最低賃金法と呼ばれる法律に基づき、国が賃金の最低限度を定めています。


 この最低限度は、企業が労働者に支払わなければならない賃金の最低額のことで、すべての労働者に適用される都道府県別の「地域別最低賃金」と、特定の産業(たとえば電気機械器具製造、自動車小売業等)で働く労働者に適用される「特定最低賃金」の2種類が設定されています。毎年10月以降最低賃金額が改定され、正社員であってもアルバイトやパートタイマーであっても、雇用されて働く人すべてが対象です。


 最低賃金額が定められると、企業が支払う賃金がこの最低賃金額(地域別)を下回っている場合、50万円以下の罰金が科されることになります。その他にも労働者から未払い賃金を請求されるリスクや、最低賃金法違反の事実があれば企業イメージの低下や離職にもつながるリスクがあります。


 そこで今回は、最低賃金に違反していないかを確認するため、最低賃金の計算方法についてケーススタディを踏まえながら解説します。


1.最低賃金の対象となる賃金

 最低賃金の対象となるのは毎月支払われる賃金であるため、最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から以下の賃金を除外します。


【最低賃金の対象とならない賃金】
臨時に支払われる賃金 → 慶弔見舞金や永年勤続表彰金など
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 → 賞与など
所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金 → 時間外割増賃金など
所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金 → 休日割増賃金など
午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分 → 深夜割増賃金など
精皆勤手当、通勤手当、家族手当 → 毎月支払われていても、これらの手当は対象外

2.最低賃金の計算方法

 最低賃金は時間額で定められているので、以下の通り時間に換算して比較する必要があります(特定最低賃金に該当する場合は、地域別最低賃金と比較して高いほうが採用されます)。


時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
*日額が定められている特定最低賃金が適用される場合は、日給≧最低賃金額(日額)
月給の場合
月給÷1か平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
出来高払制その他の請負制(以下、出来高払制)によって定められた賃金の場合
出来高払制の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金額(時間額)

3.事例(日給制と月給制の組み合わせで支給される場合)

△△県で働く労働者Aさんは、基本給が日給制で、1日あたり8,000円、各種手当が月給制で、職務手当が月25,000円、通勤手当が月5,000円支給されています。M月は、20日働き、合計が190,000円となりました。

 なお、Aさんの会社は、1日の所定労働時間は8時間で、△△県最低賃金は時間額1,163円です。

 Aさんの賃金が最低賃金を上回っているかどうかは次のように調べます。


(1) 日給手当を時間額に換算します。

日給8,000円÷8時間/日=1,000円/時間


(2) 月給手当を時間額に換算します。

最低賃金の対象外の通勤手当を除き、職務手当25,000円のみが対象

(25,000円×12か月)÷(250日×8時間)=150円/時間


(3) 日給手当と月給手当の合計の時間換算額を計算します。

合計の時間換算額:1,000円+150円=1,150円

 → この場合、最低賃金額1,163円を下回っているため最低賃金以下の賃金となります。


4. 実務上のチェックポイント

□労働者が実際に働く事業所の都道府県によって判断していますか?

 事業所が複数ある場合、労働者が実際に働く事業所が最低賃金の適用を受ける基準となります。テレワークの場合でも、最低賃金は「テレワークを行う労働者の属する事業所がある都道府県」の最低賃金が適用されます。


□月給者は時給に換算して、最低賃金を判断していますか?


□「労働者から同意を得ていた」と、最低賃金額より低い賃金額で支払っていませんか?

 企業が労働者と合意のうえで最低賃金額より低い賃金額を定めたとしても、それは法律により無効になり、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。


◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちら 
https://www.njg.co.jp/



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