Netpress 第2437号 米国子会社を有するなら必読! 米国401kと米国IRAの留意点

Point
1.米国子会社を有する場合、401kやIRAの制度に関する理解は不可欠ですし、所得税の取り扱いについての理解も重要です。
2.日系企業の多いカリフォルニア州では、401kを導入していない企業を対象として、IRAを導入することが義務付けられています。


税理士法人山田&パートナーズ
税理士・公認不正検査士
遠藤 元基


 米国発祥の401kは、米国の内国歳入法(Internal Revenue Code)の条項名(401条k項)を由来とするもので、日本で2001年に導入された日本版401kと呼ばれる「確定拠出年金」の参考とされた制度です。

 米国には他にも日本のiDeCoやNISAと類似するIRA(個人退職勘定)という制度もあります。ただし、401kやIRAは日本の類似制度とは異なる部分も多いため留意が必要です。


 本稿では、米国子会社を有する場合に押さえておくべき401kとIRAの概要と、その所得税の処理について解説します。


1.401k

(1) 制度利用

 企業が401kを提供する場合に、勤務する従業員は401kを利用することができます。利用は任意で、拠出金額も任意です。


 なお、企業による上乗せ負担であるマッチング拠出も設定でき、その内容は企業の任意です。


(2) 拠出時

 401kには、年間拠出限度額が設定されており、2025年は原則として23,500USDですが、50歳以上は31,000USD、60歳から63歳は34,750USDになります。


 また、税務上は「Traditional」と「Roth」の2種類に分類されます。


 Traditionalは、拠出時に拠出額を所得控除できることで拠出時の所得税を抑制する効果がありますが、Rothは、拠出時に所得控除を受けることはできないという違いがあります。


(3) 運用時

 TraditionalとRothともに、運用益に所得税は課されません。


(4) 満期引き出し時

 引き出し額は、Traditionalでは課税所得となります。Rothでは、米国の所得税が非課税となります。


 インフレや運用益などにより、拠出額より引き出し額が大きくなる場合がありますが、引き出し時の所得によるものの、Rothのほうが一般的に有利です。


 ただし、駐在員や現地採用日本人等については、特に日本本帰国後に引き出しを検討する場合は、帰国前の個別検証をお勧めします。


 たとえば、日本本帰国後のRothの引き出しは、日本の所得税が課税されてしまうため、日本本帰国前の引き出しが有利です。


 ただし、満期ではない場合は、後述の早期引き出しのペナルティーを踏まえての検討が必要です。


 他にもTraditionalでは、日米租税条約の影響や日米の所得税の計算モデルの違いの影響から、運用益、受け取り回数、米国籍・永住権の有無、引き出し時の他の所得などによっては、日本本帰国後の引き出しが有利になる場合があります。


(5) その他(退職時、転職時、中途引き出し、RMD)

 原則として59.5歳以降に引き出しが可能で、73歳までに引き出しを開始する必要があります。


 なお、55歳以上で退職する場合は、引き出しが可能で、退職時に引き出しを希望しない場合は、後述するIRAに引き継ぐこと(ロールオーバー)が可能です。また、退職後の転職先で401kを導入している場合には、401kを継続することもできます。


 要件を満たさない中途引き出しの場合や、73歳以降の引き出し最低額(Required Minimum Distribution)に違反する場合は、ペナルティーが生じますので留意が必要です

2. IRA

(1) 制度利用

 IRAは、401kと異なり、企業の提供の有無にかかわらず、給与取得者は自由に利用できます。企業が導入するIRAの場合は、マッチング拠出を設定することができます。


 なお、たとえばカリフォルニア州では、401kを導入していない企業を対象として、従業員5名以上は2022年6月末までに、従業員1名以上は2025年12月末までに、企業によるIRAの提供が義務付けられています。この企業が提供するIRAは、従業員の利用と拠出額は任意となります。


 州の制度については、企業設置州、従業員勤務地州での確認が必要です。


(2) 拠出時、運用時、満期引き出し時ほか

 IRAも、税務上はTraditionalとRothの2種類に分類されます。主な取り扱いは前述の401kと同様です。


 ただし、IRAの年間拠出限度額は、2025年は原則として16,000USD、個人契約の場合は7,000USDと、401kに比べて少ない点が大きく異なります。

3. その他の留意点

 退職後や老後の生活は、従業員にとってとても重要な関心事です。


 生活費に悩む所得が低い人は、毎月の手取りを重視し、401kやIRAは利用しないケースもあります。


 一方で、生活に余裕がある人や金融リテラシーの高い人は、401kやIRAの提供の有無、マッチング拠出の内容を就職先選定の判断材料の一つにしているケースもあります。そのため、採用担当者はこれらの内容についての理解が不可欠といえます。


 また、駐在員や現地採用の日本人でも、長い任期を想定している場合は、利用する人や、利用額を高めに設定する人が増加します。


 ただし、駐在員だけでなく、現地採用の日本人も将来的な日本本帰国を想定しているケースは多いものの、401kやIRAの日米租税条約や日本の所得税の影響についてはほとんどが認識していません。


 そのため、401kやIRAの利用開始時や退任時などのタイミングにおける事前検証の重要性を説明しておくことをお勧めします。



◎協力/日本実業出版社
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