Netpress 第2436号 さまざまな目的で活用できる 「出向」に関する基本的な知識と留意点
1.従業員の育成、雇用調整、企業同士の連携等を図るための方法として、出向(在籍型出向)が活用されることがあります。
2.出向の活用にあたっては、社内規程の整備をはじめとする法的な検討が必要です。
1.はじめに
企業では、従業員の能力開発・キャリア形成、雇用調整、グループ企業間での経営・技術指導などの目的で、従業員の出向が活用されることがあります。
出向とは、出向元の企業が、自社の従業員を、出向元の従業員としての地位を保ったまま、出向先の従業員ないし役員として、出向先の業務に従事させる人事異動です。
2. 根拠、制約
出向は、出向元と出向先が出向契約を締結して行われますが、出向者との関係でも労働契約上の根拠が必要となります。出向者の個別の同意が必須というわけではなく、就業規則を整備することなどで足りますが、別の企業への人事異動にはなるので、出向者に不利益が生じる可能性が否定できません。
そのため、個別の同意がない場合には、出向に伴って生じ得る賃金、退職金、昇格・昇給、福利厚生、労働環境等に関する不利益の防止措置が、出向規程などによって整備されていることが必要です(最二小判平成15年4月18日労判847号14頁参照)。この点については、厚生労働省の『在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)』(https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf)で紹介されている出向規程の例が参考になります。
また、出向命令は「必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には」無効となりますので(労働契約法14条)、従業員の労働条件や生活上の不利益も含めて検討する必要があります。
3. 出向中の契約関係
(1) 基本的な考え方
出向によって、出向者と出向先の間、また、出向者と出向元の間に、それぞれ契約関係が存在することになります。
具体的な内容は出向契約や出向規程によりますが、出向者は出向先でその指揮命令を受けて働くので、出向先の勤務管理や服務規律に服することになるなど、就労に関わる権利義務は出向先との間に生じます。
一方、解雇権や復帰命令権など、労働契約関係の存否・変更に関わる権利義務については出向元との間に残るのが基本となります。
(2) 懲戒処分
懲戒解雇・諭旨解雇は、労働契約関係を解消させるという性質上、出向元だけが行うことができますが、その他の懲戒処分は、出向先がその権限を持つことが多いものの、出向元・出向先がともに持つとされることもあります。
ただ、出向元・出向先が懲戒処分を行うにあたっては、自社の就業規則で定めた懲戒規定に基づいたものでなければなりません。
とりわけ、出向元が懲戒処分を行う場合、出向元の懲戒規定が出向先での非違行為に適用可能な定めでなければなりません。
懲戒処分の選択にあたっても、出向先での非違行為が出向元の企業秩序にどれだけの影響を与えたのかを考慮する必要があります。
4. 役員としての出向
出向先で役員となる場合、出向者と出向先の関係は委任契約に基づくもので、出向者は、委任契約に定める義務のほか、会社法上の責任を負います。
出向先では従業員ではないので、従業員だけを対象とする出向先の就業規則は適用されませんし、出向先は懲戒権を持ちません。
他方で、出向者は、出向元との関係では、労働契約に基づいて、誠実に出向先の役員として業務を行う義務を負います。
このように、出向中は、出向先との委任契約関係と、出向元との労働契約関係が併存することになります。両者の性質はまったく異なりますので、あらかじめ出向者に自覚させ、同意を得ることが適切です。
5. 出向を繰り返し行う場合の留意点
人材派遣会社から多くの労働者を出向として受け入れた事業者が、職業安定法違反にあたるとして摘発された例があります。
偽装出向ともいわれますが、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、労働者派遣法が派遣先に課す義務を回避する狙いがあったと見られます。
出向は、出向契約に基づいて労働者を出向先の指揮命令の下に労働させるものなので、職業安定法4条8項の「労働者供給」にあたりますが、「労働者供給」を「事業」として行うことや、これを「事業」として行う者から労働者を受け入れて自らの指揮命令の下に労働させることは、同法44条および64条10号で罰則をもって禁止されています。
出向は、繰り返し行われたとしても、通常は次のような目的を有しています。
① 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する |
② 経営指導、技術指導を実施する |
③ 職業能力開発の一環として行う |
④ 企業グループ内の人事交流の一環として行う |
社会通念上、出向が「事業」として行われているものは少ないとされますが(令和6年4月厚生労働省職業安定局「労働者派遣事業関係業務取扱要領」10頁)、一応ご留意ください。
6. さいごに
出向は、人事管理の一手段としてさまざまな目的で活用することができますが、判断が難しいケースもありますので、必要に応じて専門家にご相談ください。
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