Netpress 第2426号 経営判断につなげる 物価上昇局面の「原価管理」の勘どころ

Point
1.物価が継続的に上昇する局面では、価格と原価の両面からバランスよく対策することが重要で、そのためには原価管理が欠かせません。
2.そこで、自社のコストアップが何に由来するものかを把握するための原価管理について解説します。


株式会社経営戦略オフィス
中小企業診断士
井海 宏通


1.原価管理の基本

 原価とは「製品を1個生産するのにかかる費用」を指し、製品ごとの原価を算出することを「原価計算」といいます。

 この原価計算は、原価管理の一環として実施します。原価管理とは、PDCAサイクルを回すことです。


・P(Plan:プラン)原価の目標を「標準原価」として設定する。個別受注型の業種では「見積原価」「実行予算」と呼ぶこともある
・D(Do:ドゥ)生産活動のこと
・C(Check:チェック)実際にかかった原価を「実際原価」として算出し、標準原価との差異を分析する
・A(Action:アクション)標準原価と実際原価の差異分析の結果を、具体的な改善策に落とし込む


 以上のサイクルを経て、今後の標準原価を再設定するP(プラン)に戻ります。

 PDCAサイクルとは、4つの要素を永続的に繰り返すことをいい、これが原価管理の「管理」に該当します。目的は継続的な改善、具体的には原価の削減です。

 「原価を把握している」ことと「原価を管理している」ことは、まったく異なります。原価を把握している、つまり原価計算をするだけでは「原価を管理できている」とはいえません。目標(標準原価)を設定し、実際原価と比較分析のうえ、具体的な改善活動に結びつけなければなりません。

 そして、現実に原価の削減(または高騰の食い止め)ができていることが必要になります。



2.経営判断につなげる原価管理のポイント

(1) 差異分析が重要

 原価管理では、標準原価と実際原価との差異分析が重要になります。この分析は、PDCAサイクルのC(チェック)に該当します。

 開発部門が製品企画をしたり、営業部門が見積書を作成したりする際には、標準原価(見積原価)を計算に用います。多くの企業では、この「標準原価の計算」を「原価計算」と呼んでおり、P(プラン)に該当します。もちろん、原価だけでなく粗利益も「プラン」します。

 問題は、標準原価どおりに生産できているかどうかです。標準原価と実際原価が完全に一致することはなく、必ず差異が発生します。物価上昇の局面では、実際原価が標準原価より高くなりがちです。生産現場で起きている問題点を認識し、その原因を分析することによって、以後の改善(A:アクション)につなげていきます。


(2) 原価は勘定科目別に分解する

 標準原価と実際原価の差異分析では、製品別原価の総額だけでなく、勘定科目別の内訳も見なければなりません。

 原価は、材料費、労務費(人件費)、製造経費の3つに分類されます。また、原価は直接費と間接費に分かれます。

 直接費とは、製品ごとに使用額を集計できる費用です。間接費は、製品ごとには使用額を集計できない費用で、たとえば水道光熱費などがあります。したがって、原価の内訳は、直接材料費、間接材料費、直接労務費、間接労務費、直接製造経費、間接製造経費の6つに分類されます。


(3) 金額は数量と単価に分解する

 原価管理をコストダウンにつなげるためには、単に金額を管理するだけでは不十分です。使用量と単価に分解して管理する必要があります。

 物価上昇の局面で単価を下げることは簡単ではありませんが、使用量の削減は企業努力によって可能です。

 原価を金額だけで見ていると、「物価が高騰しているから原価が増えても仕方ない」といった思考停止に陥りがちですが、使用量と単価に分解することにより、具体的な改善活動につながります。

 また、使用量と単価では、取るべき対策や担当部門が異なります。たとえば材料費でいえば、生産部門が無駄をなくして使用量を削減し、購買部門が仕入先と交渉して単価上昇を緩和する、といった別々の取り組みになります。


(4) 間接費は生産量により変動する

 製品1個あたりの間接費は、間接費の総額と生産量に分解して管理します。間接費の総額は、さらに使用量と単価に分解して管理します。

 生産量は、製品1個あたりの間接費を大きく左右するため、生産量の計画と実績との差異分析は重要です。

 生産量に差異が生じる原因は、生産部門だけにあるとは限りません。販売不振による減少であれば、営業部門や開発部門の問題です。そもそも生産計画のもとになる事業計画に問題がある可能性もあります。

 このように生産量のPDCAを回すことにより、経営レベルの課題が見つかることもあります。


(5) 標準原価へのフィードバック

 原価管理のPDCAサイクルは、A(アクション)で終わりではありません。サイクルですから、P(プラン)に戻ります。つまり、改善後の実際原価を踏まえて標準原価を見直します。
 標準原価は目標ですが、原価削減には目標の妥当性も求められます。目標が高すぎて未達が何か月も続くと、生産部門が削減目標の達成意欲を失い、PDCAサイクルが崩れます。
 物価上昇が続く場合は、精一杯の改善努力をしても実際原価が高止まりすることもあります。このような場合には、標準原価の上方修正が必要です。
 標準原価の見直しは販売活動にとっても重要です。なぜなら、営業部門は標準原価をもとに見積書を作成するからです。実際原価が上昇しているのに標準原価が従来どおりだと、実態よりも低い標準原価をもとに営業部門が安すぎる価格を設定する恐れがあります。
 逆に、標準原価よりも安い原価で製品をつくっているのに粗利益率が低いのであれば、標準原価の設定が高すぎるのかもしれません。この場合は、標準原価を下げると生産現場が引き締まります。


 原価管理では、原価の数字以外にも、歩留まり(使用原料に対する製品の生産量の割合)、稼働率(生産能力に対する生産量の割合)、労働生産性(作業時間あたりの生産額)など、管理すべき指標がいくつかあります。こうした指標も踏まえて、適切な原価管理を心がけてください。


◎協力/日本実業出版社
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