Netpress 第2422号 決算書に親しむ/シリーズ② 複式簿記から決算書へ~複式簿記の効能~
1.決算書は、現代の経営スタイルの柱ともいえる「計画的事業経営と外部への説明・アピール」のためのツールであり、そのために必要な機能を決算書に与えるのが複式簿記です。
2.決算書の中核をなす貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)は、ともに、複式簿記のルールに則った取引の記録である、仕訳帳から作成される同根の兄弟で、2つ合わせて会社の財政状態の全体像を映し出します。
1.複式簿記と仕訳帳
会社で発生したすべての取引は、複式簿記のルールに則り簿記の形に整理します。つまり、言葉の世界から簿記の世界のデータに翻訳する訳で、これを「仕訳」といいます。仕訳がされたデータは、発生日ごとに仕訳帳に漏れなく集積していきます。
複式簿記のルールの要点は以下のとおりです。
- ここでいう取引とは通常の概念とは異なり、相手先がいなくても、あるいは合意がなくても、自社のB/SとP/Lの勘定科目の金額異動を伴う、すべての経済事象をいいます。たとえば、「台風で工場設備が損壊した」とか「強盗に遭遇し現金を強奪された」も「取引」です。
- 勘定科目とは、B/SとP/Lで使用する、個々の取引の内容や種類を表示するための科目で、B/S項目には現金、借入金(短期/長期)、資本金など、P/L項目には売上、給料手当、支払利息などがあります。そしてB/S項目の勘定科目は「資産」「負債」「純資産」に、P/L項目の勘定科目は「費用」「収益」に分類されます。
- 個々の取引を原因と結果に整理し、必ず、一方を「借方」、他方を「貸方」に、それぞれ勘定科目と取引金額の形で複記します。
・借方には資産の増加、負債・純資産の減少と費用の発生を記載する
・貸方には資産の減少、負債・純資産の増加と収益の発生を記載する
・各取引の借方金額と貸方金額は必ず一致させる
2.仕訳帳から決算書へ(B/S・P/Lの作成)
仕訳帳には、当期中に会社で発生したすべての取引、すなわち財務計数の異動が、借方/貸方の別、勘定科目、取引金額で記録されており、取引金額はB/S項目では残高の増減を、P/L項目では収益/費用の発生を表わします(上記「仕訳の例」を参照)。
一方、決算書のB/Sは当期末時点の資産/負債/純資産の残高の記録で、P/Lは当期中の事業活動による収益、費用とその結果としての損益の発生の記録です。
B/S・P/Lの作成をごく単純に、概念的にいうと、以下のような手順にまとめられます。
- 仕訳帳に記載された、当期中(当期首~当期末)の発生日ごとの取引の記録(「借方/貸方の別」「勘定科目」「取引金額」でワンセット。上記「仕訳の例」では「借方/現金/50」「貸方/売上高/100」など)を、勘定科目をキーに集約・集計し、勘定科目ごとのデータに組み換えます。
- B/S項目の、各勘定科目ごとの集計額の貸借尻、すなわち残高増減を、前期末のB/S残高と合算したものが当期末B/Sです。
- P/L項目の、各勘定科目ごとの集計額を、収益/費用項目別に整理したものが当期P/Lです。
- B/S項目のすべての勘定科目の貸借尻の差引合計が利益剰余金当期増減額、P/L項目のすべての勘定科目の貸方合計と借方合計の差額が当期純損益で、両者の金額は原則として一致します。
実際の勘定科目は多岐にわたり、取引の数も膨大かつ複雑で、加えて売上原価の算定や在庫の棚卸、減価償却などの会計ルールに基づく操作や調整も多々あります。
そのため、決算は大作業であり会計システムの利用も普及しているのですが、概念的には、B/S・P/L作成の基本的な考え方は以上のとおりです。
3.複式簿記の効能
決算書の使命が「計画的事業運営と外部への説明・アピール」であるならば、それに資する複式簿記の効能はどのようなものでしょうか。
- まずは決算書が会社の財政状態の全体像を映し出すことです。会社で発生したすべての取引は仕訳帳に記録され、決算を通じてそれら情報はすべて、B/SとP/Lのどちらかに、漏れなく重複なく取り込まれ、その結果、2表を合わせて会社の財政状態の全体像を表わしているのです。
- 次に、複式簿記によって決算書の正確性と整合性が確保され、外部からの信頼感も得られることです。キーワードは「借方/貸方同額複記」です。
B/SとP/Lはいずれも仕訳帳から作成され、両者は深い関連性を有しています。たとえば、P/L上の「売上げ」の結果がB/S上の「現金」や「売掛金」に反映され、P/L上の当期純損益とB/S上の利益剰余金期中増減額は原則として一致することなどを想起してください。
そしてB/Sは、会社の誕生から当期末までのすべての事業活動の結果、すなわちすべてのP/Lの集積を表わすともいえるのです。
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