Netpress 第2403号 人材採用難・チャレンジ精神の欠如など 「人」に関する経営課題と新時代の企業内コミュニケーション
1.人材獲得、チャレンジ精神の醸成、企業理念の浸透など、企業が抱える「人」に関する課題は、戦略的なコミュニケーション施策によって改善することができます。
2.情報化社会においては、企業の評判は容易に比較されるため、既存社員の働きやすさや働き甲斐の向上が、人材の維持・獲得に直結します。
3.インターナル・コミュニケーション戦略を成功させるには、トップダウン以上に社員の当事者意識を高めるボトムアップ型の施策を積極的に取り入れることが重要です。
クロスメディア・コミュニケーションズ株式会社
美奈子・ブレッドスミス
「人材が獲得できない」「チャレンジ精神のある社員がいない」「社員のモチベーションを上げたい」など、近年企業が直面する課題は「人」がテーマとなることが多くあります。
その課題を解決する方法として、いま企業内のコミュニケーション、つまりインターナル・コミュニケーションに関心が寄せられています。
1.人の課題に戦略的に取り組んできた企業・団体の事例
(1)優秀な人材の獲得
ある中国地方の大学病院では、10年ほど前から、医師や看護師などのワーク・ライフ・バランスの向上を支援してきました。
病院長は、「大学病院の先生には診療のほか、論文も書いてもらわなければならない。また都市部の病院なら医師が集まるかもしれないが、わざわざこのエリアで働くことを選択してもらわなければならない。そういう理由から、家事や育児の負担を軽減する支援をしている」とその理由を語っていました。
他県の同規模の大学病院では医師不足が深刻化しているようですが、この大学病院では早期から取り組んだことが功を奏し、人材確保もある程度安定しているとのことです。
(2)チャレンジ精神の醸成
業績低迷が続いていたある素材メーカーでは、社員はコストダウンや効率化が求められ続けたことで閉塞感があり、社内のムードにも影響していたようです。
素材の製造からソリューションビジネスへと転換する新たな経営戦略を発表するのと同時に、このような社内の状況を打破しようと、経営陣と上層部の対話集会や経営陣が国内外の拠点を巡って直接社員と対話する場を150回以上も設けました。
さらに対話の活動と並行して、社内でアイデア発表の場を設け、チャレンジ精神を発揮できる機会を積極的に生み出し、その一部にはプロジェクトとして予算が付くなどの発展が見られました。
(3)自社の「らしさ」を社員主体で明文化
2005年に創業したあるベンチャー企業では中途採用者が多く、それぞれに前職での異なる文化や商習慣を持っていました。
そのため、社員が自社の動きを「自分ごと化」できるように、行動指針を制定する際も社員がワークショップを行い、社長の言葉を振り返りながら、社員自らが受け取りやすい言葉で表現しました。
その結果、誕生した10項目の行動指針は、形骸化を防ぐために社員の日常業務や行動に関連付けて語られています。同社は創業から18年が経過した2023年には過去最高の売上高を達成しました。
2.外の評判以上に重要となる企業内の評判
SNSや口コミサイトなどの台頭により、誰もが個人の考えや意見を簡単に発信できる昨今、内と外の境界はあってないようなものです。
たとえば、人材が獲得できないという課題に対して、広告などで知名度を上げることももちろん大切です。しかし社名の認知が拡大したとしても、就職活動者や転職希望者向けの情報サイトで悪い口コミがつけられていたら、応募を喚起するどころか、社名とともに悪い印象が記憶されてしまいます。
また労働条件や働き方など、社員が自らの所属している組織の世間的な評価を調べようと思えば、容易に比較できてしまいます。これだけ情報流通が進めば、社員が他社と比較して、よりよい職場環境を求めようとするのは自然な動きではないでしょうか。
ワーク・ライフ・バランスを重視する社員は安心して働ける環境を第一に求め、キャリアアップを重視する社員は働き甲斐やチャレンジできる環境を求めます。
いずれにしても、自分に合った環境を求めて情報検索を行い、口コミを入念に読むということは、現代の働く人にとっては当たり前になってきているということです。
そのため、現在の所属社員の働きやすさ、働き甲斐、事業の社会的使命感やチャレンジできる機会の提供などに取り組むことは、人材の維持・獲得のみならず、創造性の発揮など、組織の長期的な成長の鍵であるといえます。
3.求める人材像の設定と当事者意識の醸成
では、何からはじめればよいか、というご相談をよくいただきますが、実際には業種や規模、これまでの取り組み、社員の組織に対する信頼度によってアプローチは異なります。
「これをやったら成功する」というように、一様に言えるものではありません。しかし既存の社員にどのような行動やマインドを持ってもらいたいかを表す「人材像」を描くことは、のちに人事・コミュニケーション施策を検討する際の起点となるでしょう。
ある電子機器メーカーで2017年に行われた社内のコミュニケーションをデジタル化するプロジェクトでは、人事執行役員にヒアリングを行い、「人材像」を設定しました。しかし当時のその企業の文化を考慮すると、一足飛びに設定した人材像を目指すことが難しかったため、段階的な施策を講じました。その施策のなかには、ボトムアップを促すアンバサダー社員の配置やチャレンジを可視化する全社的なイベントなどがありました。
ここまで紹介してきたような施策で重要となるのが、社員に「やらされ感」を感じさせないということです。経営トップの理解や推進は取り組みを確固なものにする一方で、トップダウン型の施策だけでは「与えられたもの」として捉えられ、業務の負担が増えたような印象を持たれかねません。
具体的な活動を設計する場合は、社員の当事者意識を喚起したり、モチベーションにつなげるボトムアップ型を組み込むことを重視していただきたいと思います。
◎協力/日本実業出版社
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