Netpress 第2399号 給与担当者は負担増! 「定額減税」によって求められる源泉徴収事務

Point
1.定額減税は、納税者とその同一生計配偶者および扶養親族1人につき、所得税額3万円と個人住民税額1万円が控除される一時的な措置です。
2.月々の給与からの定額減税は6月から始まっていますので、年調減税事務とその留意点を確認します。


たけだ税理士事務所
税理士 武田 紀仁


定額減税の適用を受けることができるのは、令和6年分の所得税の納税者である居住者で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下(給与収入2,000万円以下に相当)の人です。


実務上、給与担当者は、定額減税を①月次減税事務と②年調減税事務の2つの事務により行います。


月次減税事務とは、令和6年6月1日以後の各月に支払う給与等(賞与を含みます)に対する源泉徴収税額から、定額減税額を控除する事務をいいます。給与所得者に定額減税の対象となる同一生計配偶者や扶養親族がいれば、その給与所得者の給与等に係る源泉所得税から控除されます。また、年調減税事務とは、年末調整の際に、年末調整時点の定額減税額に基づいて年間の所得税額との精算を行う事務をいいます。


月次減税事務は、すでに6月支払いの給与等から始まっているので、以下では年調減税事務を中心に実務上のポイントを解説します。

1.年調減税事務の対象者

年調減税事務の対象となる人とならない人をまとめると、下表のとおりです。


対象となる人
対象とならない人
(1)
令和6年分の年末調整時に扶養控除等申告書を提出している人(右欄の人を除く)
(1)
年末調整の対象とならない以下の人

令和6年中の主たる給与等の収入金額が2,000万円を超える人
(2)
年の中途で年末調整の対象となる以下の人

年の中途で退職した人のうち、次の人

令和6年分の給与等に係る源泉所得税について、災害減免法による徴収猶予や還付を受けた人

死亡により退職した人

著しい心身の障害のために退職し、その退職時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人

12月中に支給期の到来する給与の支払いを受けた後に退職した人

令和6年6月1日以後、年の中途で海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人

令和6年分の年末調整時に扶養控除等申告書を提出していない人(乙欄・丙欄適用者)
(2)
令和6年5月31日以前において、年の中途で年末調整の対象となる人
(3)
合計所得金額が1,805万円超の人


2.年調減税事務の内容

(1)年末調整による精算

年調減税事務では、年末調整時点の定額減税額に基づいて、年間の所得税額との精算を行います。


定額減税額は、年末調整により算出された所得税額(住宅借入金等特別控除の適用を受ける場合には、その控除後の金額)から控除します。


なお、月次減税事務の時点では従業員等の合計所得金額の見積額を勘案しないため、合計所得金額が1,805万円を超える従業員等も月次減税事務の対象となっています。月次減税事務の対象となっていた従業員等が、合計所得金額が1,805万円を超える等により、結果的に定額減税の対象とならなかった場合には、年末調整または確定申告で精算する(定額減税がない状態にする)ことになります。


(2)源泉徴収票に控除額を記載

年末調整完了後に作成する「給与所得の源泉徴収票」の摘要欄に、実際に控除した定額減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額×××円」と記載します。


控除しきれなかった金額がある場合には、「控除外額×××円」(控除しきれなかった金額がない場合には「控除外額0円」)と記載します。

3.同一生計配偶者等の把握がポイント

年調減税事務を実施するうえでの実務上のポイントは、月次減税事務と同様に、定額減税の対象となる同一生計配偶者と扶養親族の把握にあります。定額減税における実務では、扶養控除等申告書や配偶者控除等申告書では把握できない定額減税対象者がいて、定額減税用の新様式(「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」「年末調整に係る定額減税のための申告書」)が必要になるケースがあることに注意が必要です。


以下、年調減税事務における同一生計配偶者・扶養親族の一般的な把握方法をまとめたので参考にしてください。



定額減税の対象となる同一生計配偶者の把握(*1)
定額減税の対象となる扶養親族の把握(*1)
配偶者の合計所得金額
把握するために利用する申告書等
把握するために利用する申告書等
従業員等の合計所得金額が1,000万円以下
48万円以下
配偶者控除等申告書「配偶者定額減税対象」のチェック欄(*2)


48万円超
(同一生計配偶者に該当しない)

扶養控除等申告書B欄および住民税に関する事項
従業員等の合計所得金額が1,000万円超
48万円以下
年末調整に係る定額減税のための申告書

源泉徴収に係る定額減税のための申告書
48万円超
(同一生計配偶者に該当しない)


*1
定額減税の対象となる同一生計配偶者と扶養親族は、合計所得金額が48万円以下かつ居住者の場合に限ります。合計所得金額が48万円超の配偶者や扶養親族は、確定申告を通じて、配偶者や扶養親族自身の所得税において定額減税の控除が行われます。
*2
配偶者控除等申告書の「非居住者である配偶者」欄に◯印の記入がなく、居住者に該当することの確認も必要です。また、従業員等の合計所得金額が900万円以下の場合には、「扶養控除等申告書」A欄の(1)「令和6年中の所得の見積額」欄における記載金額が48万円以下かどうか、(2)「非居住者である親族」欄における◯印の記載の有無についても、あわせて確認しておきましょう。



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