Netpress 第2393号 必要性が高まる! 日本企業も整備したいグローバル内部通報制度
1.グローバル内部通報制度とは、海外拠点の役職員が、直接、本社の統一的な通報窓口に通報することができる制度です。
2.ブラックボックス化しやすい現地拠点の重大不正(贈収賄、着服、会計不正等)の発見のため、グループ企業の内部統制上、不可欠な制度といえます。
3.データセキュリティの観点から、専門の通報受付会社の起用が推奨されます。
4.制度の導入にあたっては、現地の個人情報保護法等を遵守する必要があります。
弁護士法人GIT法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
西垣 建剛
1.日本企業の間で導入が進む
ほとんどの日本の大手・中堅企業は、日本国内では内部通報制度を整備しています。
これは、2022年施行の改正公益通報者保護法により、300人超の企業には体制構築が義務づけられたことによります。
しかし、海外拠点の役職員が、直接、本社の統一的な通報窓口に通報することができる「グローバル内部通報制度」を導入していない企業はまだ多いのが実情です。
欧米系のグローバル企業の大多数で導入されていることと比べれば、大きなギャップと言わざるを得ません。
2.グローバル内部通報制度のメリット ― 現地経営陣による「握りつぶし」の防止
グローバル内部通報制度の最大の強みは、現地経営陣による「握りつぶし(もみ消し)」の防止です。
たとえば、日本企業のタイ子会社が、タイ現地の法律事務所を通報窓口にして、いわば「現地完結型」の内部通報制度をもっていたとします。しかし、たとえタイの現地経営陣が贈収賄や横領などに手を染めていたとしても、タイ子会社の従業員は、現地完結型の制度を利用することはないでしょう。当然、現地経営陣からの報復を恐れて通報を躊躇しますし、匿名通報したとしても、現地経営陣が自らの不正を真摯に調査・是正することは期待できません。
海外拠点は一般に目が届きにくく、ブラックボックスとなって大規模な不正の温床になりがちです。そこで、現地経営陣の関与が疑われる重要な不正(たとえば、贈収賄、独禁法違反、会計不正、利益相反、品質偽装)に関して情報を収集するには、グローバル内部通報制度の導入が不可欠となります。
そのため、現在、多くの日本の大手・中堅企業がこの制度の導入を急いでいます。
3.導入のステップ ― 専門の通報受付会社の起用と現地法遵守
グローバル内部通報制度を導入する際、単に日本本社で通報用のメールアドレスを作り、海外現法の役職員に案内するだけで済ませようとする企業もありますが、これはお薦めしません。その理由は、万が一、メールの不具合で通報の受付ができなかったり、データ管理に支障が生じたりした場合には、法的責任問題になりかねないからです。
導入する際には、専用のプラットフォームを提供する通報受付会社を起用することをお薦めします。各国の個人情報保護法の遵守やデータセキュリティ、通報受付管理、多言語対応などのために、グローバルで展開する通報受付会社を起用するとよいでしょう。
また、導入に先立ち、現地法に準拠する体制を構築することも必須です。グローバル内部通報制度は当然、個人情報の域外移転を伴います。EU圏で適用されるGDPR(一般データ保護規則)、中国、タイ、ベトナムその他で整備が進む個人情報保護法などを遵守する必要があります。さらに、日本の公益通報者保護法のように、現地でも同様の法律が施行されていることが多いことにも注意が必要です。
4.日本本社と現地の体制
グローバル内部通報制度の導入・運用にあたって、日本本社において法務・コンプライアンス部門の担当者を責任者として指名することが一般的です。その担当者のみにグローバル内部通報システムへのアクセス権を付与し、通報者への報復を阻止するため現地子会社にはアクセスを認めないようにしないといけません。
他方で、グローバル内部通報制度を運用するためには、現地子会社の協力が必要な場面も多くなります。
まず、制度の周知徹底を行う際に、現地子会社の経営陣からのトップメッセージを出して通報制度の利用を促すことが効果的です。
また、受け付けた通報の調査につき、現地経営陣とは関係のない軽微な内容であれば、日本本社のリソースを使って調査をする必要はありません。現地で実質的な調査を行い、日本本社に報告してもらうことが一般的です。
現地では不正調査の経験がなく、通報者の名前などの特定情報の管理が不十分になることもあるため、通常、日本本社としては匿名化を行ったうえで、通報内容を現地調査担当者に共有するといった対策が必要となります。
5.グループ企業の内部統制に不可欠
筆者はこれまで多くの日本の大手・中堅企業のグローバル内部通報制度の導入をサポートしてきました。その経験上、かなり「質の高い」通報が行われるという実感があります。
通報の中には、軽微なハラスメントを訴えるものもありますが、現地経営陣が関与する贈収賄、着服、虚偽会計報告などの重大な不正も多く通報されます。
もちろん、現地経営陣はこのような不正を隠そうとするため、通常の内部監査などでは発見が困難です。そのような現地経営陣の隠ぺいに打ち勝って、「風穴を開ける」のがグローバル内部通報制度です。
特に、会社法上、大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)の取締役会は、企業グループの内部統制の基本方針を決定する義務を負います。日本企業は積極的に海外に展開している反面、どうしても現地拠点の内部統制が手薄になりやすい面があります。そのため、グローバル内部通報制度は、その弱点を克服するために、内部統制上、不可欠な制度の一つと言っても過言ではありません。
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