Netpress 第2389号 「共生社会」の実現に向けて 改正障害者差別解消法で合理的配慮の提供が義務に!

Point
1.障害者差別解消法(正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が改正され、2024年4月1日から施行されています。
2.障害者から求めがあったときには、一定の場合、必要かつ合理的な配慮をする必要があります。


日本橋総合法律事務所
弁護士 北本 大志


1.法律の定めと合理的配慮の内容

障害者差別解消法は、8条1項において、障害を理由とする差別を禁止していますが、8条2項は、積極的に合理的な配慮を提供するよう求めています。改正前は、1項は法的義務であったのに対し、2項は努力義務でした。しかし、改正によりいずれも法的義務となりました。合理的配慮の内容は以下のとおりです。



事業者が

事業を行うに当たり

障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において

その負担が過重でないとき

障害者の権利利益を侵害することとならないよう

当該障害者の性別、年齢、障害の状態に応じて

社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮を行うこと


8条2項は、施設の改修や社員研修の実施等の環境の整備を求めるものではありません。環境の整備は5条に規定がありますが、改正法施行後も努力義務です。望ましいことではありますが、現時点では法的義務とはされていません。


①「事業者」とは

商業その他の事業を行う者であり、個人か法人か、営利か非営利かを問いません。同じサービスを反復継続する限り、個人の事業や、ボランティアグループのボランティア活動も該当します。


②「事業を行うに当たり」とは

以下の要件に該当するものがこれに当たります。


(ア)
必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
(イ)
障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること
(ウ)
事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと


たとえば、飲食事業において、食事介助を求められたとしても、付随する限度を超えており(ア)、これを行えば介護事業に類することになるため(ウ)、「事業を行うに当たり」に該当しません。


③「障害者から現に社会的障壁の除去を必要とする旨の意思の表明があった場合」とは

この表明は、障害者本人のみならず、家族、介助者等のコミュニケーションを支援する者からの申し出も含まれます。


また、障害者は、障害者手帳や愛の手帳の所持者等に限らず、社会生活を営むうえで障壁を抱える人を意味し、状況に応じて個別的に判断されることになります。


④「その負担が過重でないとき」とは

個別の事案ごとに、次のような要素を考慮して判断されます。


(ア)
事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
(イ)
実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
(ウ)
費用・負担の程度
(エ)
事務・事業規模
(オ)
財政・財務状況


たとえば、映画館において、車いすで観覧可能な場所がある場合、車いすでの観覧を認めることは過重な負担にはなりません。他方で、車いすから客席への移動の介助を求められたような場合、人的体制等がない限り、過重な負担となります。


⑤「障害者の権利に即した」 ⑥「個別具体的な事情に即した」 ⑦「合理的配慮を行うこと」とは

合理的な配慮の内容は、個別具体的な事案に即して、障害者と事業者が対話をして決することになります。


障害者の要望に何が何でも応えなければならないということはありませんが、前例がないことや責任者がいないことを理由として拒否することや対話を拒否することはできません。


たとえば、小売店において、混雑時に視覚障害者から店内での付き添いを求められたような場合、人的・体制上の制約から困難な場合には加重な負担に当たり応じる必要はありません。他方で、対話により店員が指定商品を準備する方法等により対応できる場合にはこれに応じるなど、柔軟に対応する必要があります。


具体的な事案については、内閣府のウェブサイトにケーススタディ等がありますので参考にしてください。



内閣府 「障害者差別解消法 【合理的配慮の提供等事例集】」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/pdf/gouriteki_jirei.pdf

同 「障害を理由とする差別の解消の推進 相談対応ケーススタディ集」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/case-study.html

同 「障害者差別解消に関する事例データベース」
https://jireidb.shougaisha-sabetukaishou.go.jp/

同 「合理的配慮等具体例データ集 合理的配慮サーチ」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/index.html


また、各省庁が相談窓口を設けているほか、試行的に電話相談窓口(0120-262-701)が設けられていますので、どこに相談すればよいかわからない場合には、ここに電話されてもよいかと思います。

2.違反した場合の罰則等

障害者差別解消法は、直接の罰則を規定していません。行政機関は、助言・勧告を行うとともに、報告を求めることができるとされています。報告を求められたにもかかわらず報告をしなかった場合や、虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料の制裁が課される可能性があります。


また、建設的な対話を拒んだ場合や、合理的配慮の提供を拒んだ場合には、合理的配慮の提供義務に違反したものとして障害者に対する関係で違法となり 、損害賠償の対象となる可能性もあります。



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