Netpress 第2048号 解禁で変化適応力を高める! 中小企業のための「副業・兼業」導入ガイド

Point
1.依然として副業・兼業を禁止している中小企業が多数ですが、解禁を検討する企業も増えています。
2.ここでは、副業・兼業を認めることを前提とした経営・労務管理体制を整える手順や留意点を確認します。


特定社会保険労務士 佐藤 正欣


厚生労働省は、原則として副業・兼業は認める方向が適当として、副業・兼業を一律に禁止している企業等には、改めて対応を精査する必要性を説いています。こうした流れを踏まえると、今後は副業・兼業を解禁する企業が増え、将来的には容認する企業が大半を占めるようになるでしょう。

以下では、中小企業が副業・兼業を解禁する際の考え方や対応等について解説します。

1.副業・兼業として想定されるケース

副業・兼業のモデルケースとして、法人等を立ち上げ、事業として確立された成功事例が取り上げられます。しかし、こうした例はごく少数ですから、大上段に構えたものではなく、実態に即した副業・兼業を考えてみましょう。

目覚ましいIT技術の発展により、マッチングサイトに登録することで、個人でも簡単に販売チャネルを持つことができるようになりました。また、SNS等、インターネット動画による情報発信も可能です。

これらから見えてくる副業・兼業の実像は、本業の就業時間外や休日を利用し、自身の趣味や特技、経験等を、フリーランスとしてサービス提供するケースです。

具体的には、「語学に長けた人が、企業からの翻訳作業を請け負う」「手先の器用な人が、ハンドメイド品をネット販売する」「パソコンスキルに長けた人が、データ入力作業を請け負う」「プログラミングの知識を有する人が、企業からホームページ作成やスマートフォン、タブレットのアプリ開発作業を請け負う」といったものが、現実的な副業・兼業として想定されるでしょう。

2.解禁時の実務上の留意点

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも指摘されているとおり、副業・兼業の解禁にあたっては、労使双方の十分な話し合いと、その後の管理が重要なポイントになります。

まず、副業・兼業は、事前の届出制とすることをおすすめします。なぜなら、副業・兼業の事実や内容を知らされないことは、企業にとってリスクでしかないからです。

副業・兼業の解禁に伴って、業務上の秘密漏洩や企業の信用毀損、本業との競業による損害発生、あるいは従業員の心身への影響や本業の生産性の低下など、経営上・労務上のリスクが懸念されます。こうしたリスクを適切に排除・管理するためにも、届出制とするのが適当です。

届出(副業・兼業申請書)には、業種や事業内容、どの程度の日数・就労時間を見込んでいるか、競業にあたらないか等のほか、副業・兼業を行う理由や業務に支障が生じない理由などを記入してもらうようにします。

そして、届出の内容をもとに、次のような点を基準に、自社の実態を踏まえて認めるかどうかを検討します。


① 労務提供上の支障がないか

② 企業秘密が漏洩するおそれがないか

③ 企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為に該当しないか

④ 競業により企業(自社)の利益を害するおそれがないか


どのような手順で検討を進めるのか、あらかじめ社内で公表しておくと、混乱が起きにくくなります。検討の結果、副業・兼業を認める場合には、誓約書(下モデル参照)を提出してもらいます。

許可後の管理は、当初の届出内容の枠から外れたものとなっていないか、とりわけ副業・兼業に要する就業時間等について、社員の健康面に留意した継続的管理が必要となります。

このように、「届出」→「検討」→「その後の管理」といったいずれの場面においても、労使双方の十分な話し合いのなかで実施することが肝要です。労使で定期的・継続的なコミュニケーションが図られていれば、前述したような経営上・労務上のリスクにも、適切に対応できる可能性が高まります。


また、労使のコミュニケーションを通じて、社員が副業・兼業で得た知見から、自社の業務に活かせる提案をしてもらう仕組みも忘れずに整備しておきましょう。こうした仕組みが、自社のイノベーションのきっかけとなる可能性があるからです。

今後は、会社の意思決定権限を持つ者や、極めて特別な職に就いている者が、副業・兼業でも同様の職に就く等の特殊事情がない限り、基本的には副業・兼業を認めるという前提で、自社の体制を整えていく必要があるでしょう。


■誓約書の例

3.解禁で得られる「変化適応力」

副業・兼業を解禁すると、企業には煩雑な管理が求められ、デメリットが大きいように映るかもしれません。しかし、企業が積極的に副業・兼業を解禁する姿勢を示すことは、採用応募者はもちろん、在籍する社員に対しても、時代に即した新しい働き方を模索する会社であることを訴求することができます。

コロナ禍は、これまでの常識を一変させましたが、今後も経験したことがないような事態が起こるかもしれません。こうした事態に備えるために必要なのは、既存事業にとどまらない幅広い知見を吸収し、フル活用する「変化適応力」です。

副業・兼業の解禁は、この力を鍛える場となる可能性を秘めており、今後の稼ぐ力の源泉になるかもしれないのです。



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