Netpress 第2018号 コロナ禍で増えている 資産処分・人員整理を実行した際の経理処理

Point
1.コロナ禍の影響を受けて、秋以降、企業のリストラ(事業の再構築)の動きが加速しそうです。
2.工場・事務所等の閉鎖により不要となる資産の売却、除却等を行った場合や、人員整理に伴い割増退職金を支払った場合の会計・税務について、その基本的な処理方法を解説します。


税理士 廣田 隼一


リストラの目的は、経済状況に応じて、企業の成長を維持するために事業を再構築することです。不採算事業からの撤退や事業所の統廃合、固定資産の整理や経費の削減、人事・労務の見直しなどが行われます。

本来は広い意味を持つリストラですが、以下では中小企業における不採算事業の撤退・縮小による資産の処分や人員整理を中心に触れていきます。

1.資産を売却した際の経理処理

不採算事業からの撤退に伴う工場などの閉鎖では、不要な固定資産の売却や除却、あるいは移設が行われます。

まずは、基本的な固定資産の売却時の経理処理として、減価償却のない土地を売却した場合は、仕訳1のようになります。

次に、建物や機械装置などの減価償却資産を売却したケースをみていきましょう。

減価償却資産の記帳方法には、「直接法」と「間接法」の2つがあります。

直接法とは、減価償却を行う際に直接、固定資産の金額を減らす方法です。

直接法では、固定資産の帳簿上の金額が売却時の固定資産の価値(帳簿価額)となりますので、売却価額との差額が、そのまま固定資産売却損益となります。

一方、間接法は、減価償却累計額という科目を使用して、固定資産の金額は取得価額のままとする方法です。間接法の場合には、固定資産の帳簿上の金額から減価償却累計額を差し引いた金額と売却価額との差額が、固定資産売却損益となります。

直接法と間接法それぞれで、機械装置を売却した場合の基本的な仕訳は、仕訳2のとおりです。


■仕訳1 土地を売却した場合

・例1) 土地を現金3,000万円で売却

現金 3,000万円 / 土地     2,000万円

        / 固定資産売却益 1,000万円

・例2) 土地を現金1,000万円で売却

現金     1,000万円 / 土地 2,000万円

固定資産売却損 1,000万円 /

※土地の帳簿価額は2,000万円とする。


■仕訳2  機械装置を売却した場合

・例1) 直接法の場合

未収金 1,000万円 / 機械装置       500万円

         / 固定資産売却益 500万円

・例2) 間接法の場合

未収金    1,000万円 / 機械装置     2,000万円

減価償却累計額 1,500万円 / 固定資産売却益 500万円

※売却金額1,000万円、取得価額2,000万円、売却時までの減価償却費の累計は1,500万円、消費税は加味しないものとし、売却金額は未収金で処理するものとする。

2.固定資産を除却した際の経理処理

除却とは、機械装置などの固定資産の使用を中止し、帳簿から取り除く処理をいいます。

事業縮小による工場閉鎖等の際、使用目的のなくなった固定資産を廃棄等する場合には、仕訳3のように除却の処理を行います。

この場合、スクラップ業者から受け取る処分価額がある場合には、その分を控除した金額を固定資産除却損として計上します。


■仕訳3 機械装置を除却した場合

・例) 取得価額1,000万円、除却時の減価償却累計額950万円の機械装置を除却

減価償却累計額 950万円 / 機械装置 1,000万円

固定資産除却損  50万円 /


なお、税務上の除却については、使用価値がなくなり、廃棄等をすることが前提となっています。そのため、単に使用を中止しただけでは、基本的に除却損を税務上の費用にすることはできません。

また、廃棄等をした場合には、廃棄等の事実を証明できる資料(撤去時の写真、廃棄証明書など)を保存しておく必要があります。

3.退職金と退職給付引当金の処理

不採算部門からの撤退、事業所等の閉鎖、経営状況の悪化により、人員整理を行う場合があります。その際に支払われる退職金と退職給付引当金の処理をみていきましょう。

(1) 退職金の取り扱い

一般に従業員退職金は、退職金支給規程等に基づいて、その従業員が退職する場合に支給されます。このような退職金については、退職一時金の支給時に税務上の損金の額に算入します。

(2) 退職給付引当金の税務と会計

退職一時金制度を採用し、退職金規程や従業員との間に退職金の支払いに関する合意がある場合等には、企業は従業員に対して退職金の債務を負うことになります。そのため、会計上は、その負担見込額を退職給付引当金として計上していくことになっています。

現状、中小企業においては、退職給付引当金を計上していない例も少なくありませんが、中小企業でも退職一時金制度を採用している場合等には、決算日時点で退職給付引当金を計上する必要があります。

ただし、外部の機関に掛金を拠出して、将来の退職給付に追加的な負担が見込まれない中小企業退職金共済、特定退職金共済、確定拠出年金等の確定拠出制度を採用している場合には、毎期の掛金を費用処理することになり、退職給付引当金は計上されません。

退職一時金制度等により退職給付引当金を計上している場合には、退職金の支給時にその引当金を取り崩します。しかし、引当金を計上している場合であっても、税務上は実際に退職金の支給が確定した時点で損金に算入しますので、退職給付引当金の計上時ではなく、この取り崩し時(支給確定時)に損金算入します。

4.事業所等の閉鎖に伴う割増退職金

財務体質の改善を目的として、従業員の早期退職を実施するケースが増えていますが、早期退職者に対し、通常の退職金に加えて割増退職金を支給することがあります。

この割増退職金は、一般に人件費の削減のため会社が恒常的な人事制度として、あるいは業績悪化による人員整理にあたり希望退職者を増やすために、早期退職者に上乗せをして支払うものです。

割増退職金の取り扱いは、基本的には通常の退職金と同様です。ただし、一般に通常の退職金は、損益計算書において「販売費及び一般管理費」として区分されますが、リストラによる割増退職金については、臨時的な損失として「特別損失」に該当します。


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