Netpress 第1991号 テレワークを加速! “脱ハンコ”で稟議・決裁をスムーズに行う工夫

Point
1.稟議手続きは企業運営において不可欠なものですが、承認者の押印を必須とする決裁の仕組みが、テレワークの推進や業務改善の足かせとなっているケースが少なくありません。
2.先行き不透明な状況だからこそ、社内の申請・承認手続きをスリム化して、経営効率を高めましょう。


業務設計士・税理士 武内 俊介


新型コロナウイルスの感染を防ぐため、テレワークを実施する職場が増えていますが、稟議や決裁のやり方は以前のままで、ハンコを押すためにわざわざ出社するケースもあるようです。

合議制重視の日本企業を象徴する稟議と決裁の手続きがなくなることはないと思われますが、これまでの紙とハンコによる運用が、今後は電子化される方向に進む可能性は高いでしょう。

以下では、ハンコによる押印手続きを撤廃するための業務見直しの進め方を解説します。

1.ワークフローシステムとは

ワークフローとは、「一連の業務の流れ」のことです。ワークフローシステムは、主に承認・回覧などの一連の業務をシステム上で行えるようにしたもので、稟議システムや電子決裁システムと呼ばれることもあります。

稟議手続きは、紙の稟議書とハンコによる決裁がセットになっていますが、ワークフローシステムでは、それらを電子的に実現します。申請内容に応じた入力フォーマットの作成や承認ルートの設定さえきちんと行うことができれば、導入はそれほど難しくありません。

1ユーザー当たり数百円から導入できる簡易的なものや、グループウェア内でワークフローを設定できるものも増えています。また、申請・承認が必要な手続きであれば、これまで稟議書の形式になっていなかったものに対しても、幅広く適用することが可能です。

ワークフローシステムの対象業務の一例を挙げると、次のとおりです。


1.購入・支払稟議
物品の購入や新しいシステムの導入にあたっての稟議
2.契約締結申請契約の締結可否についての申請(リーガルチェックと並行して実施される)
3.利用許可申請ソフトウェアの利用やノートPCを持ち出す際の許可を得るための申請
4.出張申請、交際費申請出張や接待を行う際に、事前に許可を得るための申請(立替金の精算は、別の経費精算システムで行われることが多い)
5.研修・セミナー参加申請外部の研修やセミナーに参加する許可を得るための申請

2.ワークフローシステム導入のメリット

ワークフローシステムは、クラウド型サービスが主流になってきたため、自社サーバーを用意したり、高価なパッケージを購入したりする必要がなくなり、中小企業でも導入が容易になりました。

大手企業などでは、社内稟議・決裁のために電子印鑑システムを導入することもあるようですが、中小企業では、そこまでの手間と費用をかける必要はないでしょう。

最近は、スマートフォンやタブレットでも申請・承認ができるワークフローシステムが主流になり、外出時等も対応することが可能になるなど、使い勝手が向上しています。
ワークフローシステムを導入した場合のメリットをまとめると、次のとおりです。

1.承認状況が見える状況が可視化され、稟議書を探し回るようなことがなくなる
2.承認履歴が正確に残る承認者・日時が記録されるため、内部統制構築にも有用
3.どこでも承認できる社外にいても、申請・承認が可能になる
4.承認スピードが上がる印刷・回覧の手間がなくなり、承認までの時間も短縮される
5.検索性が向上するシステム上で過去の稟議を容易に検索することができる

3.ワークフローシステム導入のポイント

既存の稟議手続きをシステム上で運営するためには、ワークフローのきちんとした設計が必要不可欠です。ワークフローシステムは、簡易的な設定しかできないものから、高度で複雑な設定ができるものまでさまざまです。
まずは、自社の稟議手続きの見直しと、要件の洗い出しを行うことが重要です。

(1) 申請経路の見直し

紙の稟議書を回覧していたときは、何となく過去の慣習に従って運用していたかもしれませんが、システム上で設定するためには、申請経路をきちんと定義しなければなりません。
また、あらゆる稟議手続きの最終承認が「社長決裁」になっていると、承認処理がたまる要因にもなります。たとえば、備品購入であれば金額基準を設けて、10万円以下は「部長決裁」を可能にするなど、経路と承認権限の見直しを行うことも必要です。
この見直しのためには、まず社内の稟議手続きの承認経路を把握・整理します。そのうえで、申請経路を短縮できるものがないか、金額基準で分けられるものがないか、承認後の共有で十分なものはないか、といった見直しを行います。少額のものやリスクが高くないものは課長承認や部長承認にする、総務部や経理部などが内容を把握すればよい経路は承認後の共有などにする、という変更を行うことで承認までのスピードも上がりますし、承認者の負担も軽減することができます。

(2) 申請項目の最適化

紙の稟議書の項目はもう何年も見直しをしていない、申請者によって記載内容がバラバラ、といったケースも多いものです。一方、ワークフローシステムでは、稟議手続きの内容に応じた申請項目の制御が可能になります。
各項目をプルダウンで選択させるのか自由記述にするのか、どの項目を必須項目にするのか、申請内容に応じた項目になっているか、決裁者が判断するうえで必要な項目が網羅されているかなど、申請フォーマットだけでも検討すべきことは多々あります。
一般的な稟議書は、汎用的に使えるように、件名、稟議内容など大きなくくりの枠が用意されていますが、ワークフローシステムでは、稟議手続きに応じて申請項目を自由に設定できます。選択項目や日付項目を上手にカスタマイズすると、申請者にもわかりやすくなり、承認者も内容を確認しやすくなります。

ワークフローシステムに限らず、システム導入の話になると、どうしても「どのシステムを導入するか」「いくらかかるのか」「費用対効果はどうか」という点に終始してしまいがちですが、まずは既存の業務を整理して、再構築することが重要です。この機会に、社内の稟議手続きの見直し、脱ハンコ化を検討してみてください。


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