Netpress 第1986号 改正民法が施行! 「消滅時効制度」と「法定利率」の留意点

Point
1.4月に施行された改正民法(債権法)は、中小企業の実務(法務)にも広範囲に大きな影響を及ぼします。
2.数ある改正項目のうち、消滅時効制度と法定利率の改正内容と、企業に求められる対策を確認します。


弁護士 湊 信明

1.消滅時効制度に関する改正

(1) 原則的な時効期間・起算点

旧法では、債権の消滅時効について、原則は10年ではありますが、職業別に短期消滅時効が定められているなど、複雑でわかりにくいものとなっていました。

そこで改正法では、時効期間を統一し、債権者が「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年間行使しないとき、または債権者が「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年間行使しないときのいずれか早い方の到達時に、債権は時効によって消滅することとされました。

(2) 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の場合

生命・身体は重要な法益であり、保護の必要性が高いことから、生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、債務不履行に基づくものも、不法行為に基づくものも、時効期間が長期化され、いずれも「損害・加害者を知った時」(主観的起算点)から5年、「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から20年に統一されました(債権と同様にいずれか早い方の到達時に消滅します。)


●原則的な時効期間と起算点(いずれか早い方の到達時に時効完成)

起算点:「権利を行使することができることを知った時」

⇒ 消滅時効期間:「5年」

起算点:「権利を行使することができる時」

⇒ 消滅時効期間:「10年」


●生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間と起算点(いずれか早い方の到達時に時効完成)

起算点:「損害・加害者を知った時」

⇒ 消滅時効期間:「5年」

起算点:「権利を行使することができる時」

⇒ 消滅時効期間:「20年」


(3) 時効の完成猶予と更新

旧法では、消滅時効に関して、それまで進行していた時効期間をリセットして、一から時効期間を再スタートさせる「中断」と、一定期間が経過する時点まで時効の完成を延期する「停止」が設けられていました。

しかし、中断には、「時効の完成の猶予」と「新たな時効の進行」の2つの効果が認められることから、改正法では、「時効の完成を猶予する部分」は完成猶予事由とし、「新たな時効の進行の部分」は更新事由とされました。そして、従来の「停止」については、完成猶予事由とされました。

(4) 協議による時効の完成猶予

従来、当事者が裁判所を介さずに解決策を模索している場合であっても、時効完成の間際になると、時効完成を阻止するために無用な訴訟を提起しなければなりませんでした。

しかし、それでは紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうことになってしまうため、改正法では、当事者間で権利についての協議を行う旨の合意が、書面または電磁的記録によってなされた場合には、時効の完成が猶予されることになりました。

(5) 中小企業法務への影響と対策

改正により、契約に基づく債権の消滅時効期間は、原則として、10年から5年に短縮されることになりました。
たとえば、会社が従業員から雇用契約に付随する安全配慮義務違反で訴えられる場合や、病院が患者から医療過誤で訴えられる場合など、時効期間は10年とされてきましたが、いずれも消滅時効の完成は、主観的起算点から5年となります。不当利得返還請求権の時効期間も、主観的起算点から5年となります。また、仮差押のように、従来は時効中断事由だったものが、完成猶予事由とされたものもあります。
このように、消滅時効に関しては、債権管理の観点から留意する必要があります。

2.法定利率に関する留意点

(1) 緩やかな変動制の導入

従来、法定利率は固定制でしたが、きわめて低金利状態が続く昨今の市中金利との乖離が大きく、不合理であるとの批判がありました。
そこで改正法では、法定利率を市中金利と連動させる変動制としました。
もっとも、常に市中金利と連動させることは、債権管理等の事務処理負担が過大なものとなります。そのため、一定の要件のもとに、3年ごとに行う緩やかな変動制が導入されました。また、一つの債権については一つの法定利率が適用されることとなり、一旦法定利率が適用されたら、事後的に変動しないことも定められました。
改正法施行時の法定利率は「年3%」です。また、商事法定利率を定める商法514条が削除され、民事法定利率と商事法定利率が統一されました。

(2) 中間利息控除の明文化

交通事故などの不法行為等による損害賠償は、将来取得するはずであった逸失利益についても事故時からの請求が可能ですが、その算定の際には、将来得るであろう収入から運用益を控除する必要があります。その控除のことを「中間利息控除」といいます。
旧法に中間利息控除に関する規定はありませんでしたが、改正法では、法定利率を用いることが明文化されました。この規定は、不法行為の損害賠償の場合にも準用されます。

(3) 中小企業法務への影響と対策

法定利率が年5%(改正前)から年3%(改正後)に引き下げられたため、損害額の算定において、損害発生から賠償金支払いまでの間の遅延損害金額は減少しますが、逸失利益は大きく増加することになります。

●改正前後の逸失利益の比較例(計算の詳細は省略)

・基礎収入年500万円の有職独身女性(27歳)が、就業中に労働災害により死亡したケース

【逸失利益】

法定利率が年5%の場合

⇒ 6,005万6,850円

法定利率が年3%の場合

⇒ 8,090万1,800円  差額:約2,100万円(増加)

*逸失利益は、生活費控除率を30%とし、ライプニッツ係数(将来受け取るはずの金銭を、一時金で受け取る場合に控除する指数)を用いて算定


企業としては、このようなリスクに備えて保険金額を増加させるなど、対応に注意が必要です。



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