Netpress 第1960号 LGBT社員のために 「SOGIハラ防止規程」を整備しませんか?

Point
1.厚生労働省は2018年1月にモデル就業規則を改定し、性的指向や性自認に関する言動を含む「その他あらゆるハラスメントの禁止」に関する規定を新設しました。
2.LGBT社員が働きやすい環境の整備と、「SOGIハラ」防止のための仕組みづくりについて紹介します。


特定社会保険労務士 多田 智子 / 舘野 聡子


近年、ダイバーシティ経営意識の広がりや、ハラスメント防止の観点から、LGBT社員の働きやすい職場環境づくりを目指す企業が増えてきました。

今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、オリンピック憲章には「性的指向による差別禁止」が盛り込まれています。また、政府は「ニッポン一億総活躍プラン」において、「性的指向、性自認に関する正しい理解を促進するとともに、社会全体が多様性を受け入れる環境づくりを進める」と明記しています。

1.「LGBT」と「SOGI」について

まずは、LGBTとSOGIの定義を確認しておきましょう。

(1) LGBTとは

LGBTは、性的少数者である「レズビアン(Lesbian)」「ゲイ(Gay)」「バイセクシュアル(Bisexual)」「トランスジェンダー(Transgender)」の総称のひとつです。

(2) SOGIとは

SOGIは、どの性別を好きになるか、あるいはならないかを表わす「Sexual Orientation(性的指向)」、自分の性別をどう認識しているかを表わす「Gender Identity(性自認)」の頭文字をとったものです。


SO=Sexual Orientation(性的指向)

⇒  どの性別を好きになるか / ならないか

GI=Gender Identity(性自認)

⇒  自分の性別をどう認識しているか


(3) LGBTとSOGIの違い

LGBTは、誰がLGBTなのかという「それぞれの違いを指す言葉」で、大勢いるLGBTではない人のなかの少数者というニュアンスがあります。

一方で、SOGIは、「性的指向や性自認はすべての人が持っていて、それは一人ひとり違っていて当たり前」という意味を持ち、LGBT以外のセクシュアルマイノリティの人、異性愛の人を広く含みます。

日本ではLGBTが広く認識されているので、SOGIは耳慣れないかもしれませんが、国際社会では人権や平等の観点からSOGIという表現を用いることがスタンダードとなってきています。

2.「SOGIハラ」とは

SOGIハラは、SOGIに関連するハラスメントのことです。その人の持つ性的指向や性自認に対して差別的な言動をしたり、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせをしたりすることを指します。

具体的には、「ゲイって気持ち悪い」などという差別的な言動や、SOGIを理由とした仲間外れや陰口、暴力、誰かの性的指向や性自認について本人の許可なく第三者に明かしてしまうアウティングなどがあります。

2017年に改正施行されたセクハラ防止指針では、「被害を受けた者の性的指向または性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となる」旨の条文が追加されています。これは、企業がSOGIハラについて、セクハラとして対処しなければならないことを明確にしたものです。

アウティングに関しても、今後、指針で企業のアウティング防止のための取組みが明確化されます。

このような動きを踏まえ、SOGIハラも職場のハラスメントのひとつと認識し、ルールを整えていく必要があります。

3.「SOGIハラ防止規程」の作成の流れ

SOGIハラを防止し、性的指向・性自認にかかわらず、誰もが働きやすい職場環境を実現するための規則・規程は、どのような流れで作成すればよいでしょうか。

まず、個別の規定を定めるのに先立ち、会社としてSOGIハラは許さないという姿勢をハラスメント防止指針や社員行動基準で明確にする必要があります。以下は、SOGIの項目を追加した記載例です。


【ハラスメントの防止】

職場におけるハラスメントは、社員の個人としての尊厳を不当に傷つける許されない行為であるとともに、会社の社会的評価に影響を与える重大な問題です。わが社は、人権、多様性、異なる価値観を尊重し、国籍、人種、性別、年齢、宗教、信条、社会的身分、性的指向、性自認、障がいの有無等を理由とする、一切の差別やハラスメント(いやがらせ)を許しません。


特に、「いかなるハラスメントも許さない」というスタンスを強調することが重要です。これを受ける形で、就業規則・ハラスメント防止規程・SOGIハラ防止規程などを整備し、具体的な施策を実施していきます。

SOGIハラ防止を定める場合には、大きく、(1)「就業規則にSOGIハラを禁止する項目を盛り込む方法」と、(2)「就業規則本則に根拠規定を定め、別に規程を定める方法」があります。

(1) 就業規則に盛り込む

就業規則のなかに、セクハラ、パワハラ、マタハラの条文に加えて、SOGIハラを含むあらゆるハラスメントを禁止するという趣旨の条文を追加します。

あらゆるハラスメントの部分は、「国籍、人種、性別、年齢、宗教、信条、社会的身分、性的指向、性自認、障がいの有無等」という文言にすると、より具体的にイメージできるでしょう。

そのうえで、就業規則の「服務」「懲戒」の項目にも、SOGIハラについての条文を追加します。

セクハラ防止指針では、企業として事案が発生した場合、事実確認をしたうえで、「行為者に対する措置を適正に行うこと」とされています。この「適正な措置」には懲戒処分も想定されますが、根拠規定を就業規則に定めておかなければ処分はできません。あらかじめ、懲戒規定にもその旨を定めておきましょう。

(2) 別に規程を定める

SOGIハラについても、セクハラやパワハラなどと同様に、別規程として定めることが可能です。その場合には、就業規則のなかに根拠規定を置き、それを受ける形で別に規程を定めます。

また、すでに別規程としてセクハラ防止規程を作成していれば、そこに性的指向や性自認についての規定や、必要と思われる行為類型の項目を追加して対応することも可能です。



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