Netpress 第1879号 仕組みは? 目的は? もういちど確認したい「減価償却制度」

Point
1.利益は、企業が存続するうえで絶対に必要なものです。その利益を歪めることなく、正しく表現するためにあるのが「減価償却」というルールです。
2.減価償却はどのようなものか、どんな特徴・目的があるのか等について、わかりやすく解説します。


税理士 谷口 孔陛


一般のビジネスパーソン(簿記の知識がない人)にとって、また経理初心者にとって、「減価償却」というのは馴染みの薄いものでしょう。でも、会社の利益を正しく把握・計算するために不可欠の考え方です。

税務上、会計上の細かい処理方法は別として、そのあらましは押さえておきたいところです。

1.なぜ減価償却が必要なのか

具体例を挙げて考えてみましょう。たとえば、600万円で営業車(新車)を購入したとします。この600万円の全額を当期の費用として処理してしまってもかまわないでしょうか。

ここで考えていただきたいのですが、通常、車というのは何年間も使うものです。業種に左右される部分もありますが、ことし買った車は、これから何年間も活躍してくれることでしょう。同じ車を使って、同じような営業活動をしているのに、600万円が費用になるのは車を買った年(当期)だけだとすると、「何年も使うものを一気に費用にしてしまったら、その決算書は会社の実際の活動を正しく表現できていないのでは?」ということになります。

ここで登場するのが「減価償却」という考え方です。利益は、企業が存続するうえで絶対に必要なものです。その利益を歪めず、正しく表現するためにあるのが、減価償却というルールなのです。

2.減価償却の対象

中小企業の場合は、通常、「30万円以上の固定資産のうち、自然と価値が減っていくもの」を減価償却の対象としています。

会社の決算書では、「現金・預金」「売掛金」などの、お金そのものや、お金に代えることができるものなどを「資産」というくくりでまとめます。現金・預金などは、価値が変わるようなものではないので、減価償却はしません。

また、「株式(有価証券)」は、価値が上がったり下がったりはしますが、価値が一方的に減るものというわけではありませんので、こちらも減価償却はしません。

では、上記で例に挙げた車はどうでしょうか。新車を600万円で買って、1年使用した後に売る場合、1年分の価値が目減りしますから、通常は同じ600万円で売ることはできません。このような「持っているだけで価値が自然と減っていくようなもの」が、減価償却の対象になります(法人税法では「減価償却資産」といいます)。

また、もうひとつ大切な要素が「自社で使うもの」であることです。たとえば、同じように、車を買った会社が、車を売る事業をしていたらどうでしょうか。

その車は、自社で乗って使うわけではなく、あくまでも「商品」のひとつです。これを「棚卸資産」といいますが、この場合は自社で使うわけではありませんので、やはり減価償却の対象にはなりません。

3.減価償却する資産・しない資産

資産にはいろいろなものがありますが、減価償却の対象となるのは「固定資産」です。この固定資産は、「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つに分けることができます。   このうち、減価償却に関わるものは、有形固定資産(形のある資産)と、無形固定資産(形のない資産)です。有形固定資産の代表は、建物、車、パソコンなど、無形固定資産の代表は、パソコンなどで使うソフトウェアです。

減価償却では、この有形固定資産と無形固定資産を「減価償却するか・しないか」という基準によって、さらにもう少し細かく分けることになります。

分類が増えてくるとややこしくなりますが、それほど恐れることはありません。非減価償却資産、つまり「減価償却できない資産」は、数が非常に限られているからです。代表的なものは次のとおりです。

・土地(有形固定資産)     ・100万円以上の美術品(有形固定資産)

・電話加入権(無形固定資産)  ・借地権(無形固定資産)

実務上、これら以外のものが出てくることはそれほどありません。


■固定資産の3つの分類
■減価償却資産と非減価償却資産

4.減価償却の3つの掟

減価償却を理解するうえで欠かせない考え方が、「取得価額」「耐用年数」「計算方法」の3つです。以下、基本的なところを確認してみましょう。

(1) 取得価額について

減価償却の処理をする際、「その固定資産の金額(取得価額)はいくらなのか」ということがよく問題になります。
たとえば、「ソファー(大):15万円」「ソファー(小)2脚:16万円」「テーブル:3万円」という応接セットの取得価額はいくらになるでしょうか。通常、セットで使うものは1つの固定資産として処理するので、4つの固定資産ではなく、「合計34万円の応接セットが1つ」という固定資産が計上されます。この34万円が固定資産の取得価額です。
次は、1台100万円の機械を買ったケースです。機械本体は100万円ですが、購入して実際に使用するにあたり、運搬費用10万円、設置費用10万円が別途必要だったとします。この場合、機械本体の100万円に20万円(付随費用)をプラスした、合計120万円を機械の取得価額として処理しなければなりません。

(2) 耐用年数について

減価償却資産は、その資産の耐用年数(その資産を使うと見積もられる期間)に応じて、費用にしていきます。
会社が判断した耐用年数で計算することもできるのですが、実務では多くの場合、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」という法令に定められた耐用年数によることになります。

(3) 計算方法について

取得価額と耐用年数が明らかになったら、最後は「どのような方法で計算するか」です。中小企業の実務で使われる計算方法は、ほぼ「定額法」と「定率法」の2種類です。
具体的な計算方法の説明は割愛しますが、定額法は「毎年同じ金額が費用になる」のに対し、定率法は「前半の費用が大きく、後半になるほど費用が小さくなっていく」という性質を持っています。



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